第13話 ユーリスのポテンシャル

 元々魔力や魔法を扱うポテンシャルの高かったユーリスは、覚悟とたゆまぬ努力によって瞬く間に子猫から猛獣へと進化と遂げた。

 最初の1時間が3時間に、3時間が半日に、半日が1日に、1日が3日に、3日が1週間に。ユーリスは確実に紅黒城の口に滞在できる時間を伸ばしていった。

 最初の頃はなかなか喉を通らず、無理矢理押し込んで摂っていた三食の食事も味わって食べられるようになっていた。

 1年後、ユーリスはか弱い子どもからまだ見た目には幼さが残るものの、戦闘力は立派な強者へと成長した。

 時間がある時は紅黒城の口で過ごすようにしていた結果、紅黒城の口の中でもあらゆる感覚を保てており、寝食することも苦にならなくなっていた。

 また、常に膨大な魔力が体の隅々へ循環させてはいるが、普段は毛ほども体外へ漏らさないレベルまで魔力操作を極めており、一見すると魔力の無い普通の人に感じる程である。

 魔法の技術も飛躍的に向上しており、汗一つかくことなく複数の魔法を瞬時に切り替えたり、同時に発動したりできるようになっていた。


「ユーリス!こっちを手伝ってもらえんか?」

「すまんがこっちも頼む!」

「キャーーーこっち向いてーーーー!」


 ユーリスは当初、ルクス以外とは碌に関わらず、村や村の人には我関せずという態度であった。

 村の人から異物扱いされ距離を取られていたが、それと同時に自分が異物であると認め、ユーリス自身も歩み寄ることを諦めていた。対等に接してくれるルクスと当たりは強いが接点を持ってくれるクエル、2人さえいてくれればそれで構わないと。

 しかし、ルクスはルスヴァンの下へ修行へ去りいつ帰ってくるかわからない、クエルはルクスがこの村を去って以降から見かけることがない現状、もう今まで通り2人に頼りっぱなしというわけにはいかない。

 村が再びの脅威に晒された場合に村の皆が自分を信頼し、指示に従ってくれるように魔法だけでなく人間関係も積極的に努力してきた。

 初めのうちはやはり村の人たちは魔法が使えるユーリスのことを信用することに憶病になり敬遠していた。

 それでもユーリスは自身の魔法を使い、木をり採取や狩猟をする。道や水路を整備し、新たな建物を建て古くなった物は建て替える。そうして地道に村を発展させ、村人からの信頼を築いていった。

 その甲斐もあり、今のユーリスはこの村だけでなく近隣の村々からも引っ張りだこな存在となっていた。

 ユーリスには笑顔が増え、結果甘いマスクに拍車がかかり近隣の村を巻き込んでのファンクラブのようなものまで作られていた。


「いや~悪いねぇ。若いのにあっちこっち引っ張り回しちまって」

「いえ、好きでやってますから」

「遊び盛りの年頃だし本当は遊びたいだろ?男女問わずキャーキャー言われてんだ、若いもんが遠慮して本心隠すもんじゃないよ!」

「……そうですね……」

「それにしても魔法ってのは便利だの~。ユーリス、お前がいてくれて良かったよ!最初は煙たがっちまっててすまんな」

「気にしてませんから。むしろ警戒心があることは良いことですよ!いつ魔獣事件みたいなことが起こるかわかりませんから」

「魔獣事件か……まぁもうないといいんだが……もしもの時は頼りにさせてもらうよ!」

「はい!」

「ユーリスさーーーん!」

「はーい」


 最近のユーリスは村での仕事に忙殺されていた。

 村々の発展のための助言や手伝い、孤児院の子たちとの遊びや修行、若い子たちからの遊びの誘い、周囲で異変が起こっていないか村人とのコミュニケーションを通しての情報収集と、常に誰かと会話をしている状態となっていた。

 また、魔力を持つ者への警戒も怠っていなかった。

 毎日の見回り範囲は近隣の村まで広げることにした。

 魔力が高まったことにより魔力の残滓や隠蔽痕を、より広範囲により速くより正確に探知することが出来るようになったため、探索範囲が広がったことは苦にならない。

 修行を始めた当初はチラホラ確認できていた魔力の隠蔽痕であったが、暫くして犯人が止めたのか拠点を他所に移したのか全く確認できなくなっており、これに関しては危険性が減ったと少し安堵していた。

 周辺の村も含めパトリア村の中心人物となったユーリスは、姿が見えないと村人たちが心配して捜索隊を出す勢いの存在となっており、そのせいで紅黒城の口に入るどころか近頃は魔法の修行さえままならないほど、多くの村人から慕われるようになっていた。

 ルクスが紅黒城の口に入って以降、ユーリスの村での生活は非常に充実したものに見えた。

 だが、ユーリスは修行に行き詰っていている現実に歯がゆさを感じていた。

 紅黒城の口の謎の魔力は既に負荷にすらならなくなっており、魔力量の成長曲線も伸び悩み始めていた。魔法の発動速度も精密操作も可能な限り極め、今後どのように修行しどのように強くなればいいか将来のビジョンが見えない。

 年々大切な人が増える。なのに、本当に大切な人を守ることが出来るのか、その不安がユーリスの心の奥底に沈殿していた。

 強くなればなるほど、ユーリスはルクスが側にいてくれたら思うようになっていった。

 ルクスがいれば競い合うことで気付いてないモノに気付けるかもしれない、新しい刺激を得られるかもしれない、それどころか模擬戦などによって今の自分の力がどの程度まで実戦で通用するのか知ることが出来るかもしれない。

 何よりも魔法の練度が上がれば上がるほど強くなる、自分は普通の人と違うんだという孤独感が和らぐかもしれない、そう考えていた。

 実際、ユーリスは独学のみでとんでもないレベルの強さに到達していた。

 その強さは魔獣事件の魔獣程度であれば複数同時に相手しても手傷一つ負うこと無く完勝できる程のものであった。

 蓄えた内容を実践できる環境があればユーリスはその事実に気が付くことが出来たかもしれない。

 しかし、ユーリスが日々の生活で魔法を行使するのは極僅かな、それも緊張感一切なく片手間でできるような作業のみであり、全力を出す機会は一度もなかった。

 そのため、自分自身の実力を正確に測ることが出来ず、ユーリスの実力が既にミラリアム王国内でも有数のものとなっていることに気付いていなかった。

 そんな日々を送っていたユーリスに思いもよらない出来事が起こる。

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