第9話 力の差

 未知の魔法を使える存在に目を輝かせるクエルを、クエルをユーリスは心配そうに見つめていた。

 対して、ルクスは構わず話を進める。


「クエルは魔法が使えるか?」


 クエルに対し飛ばしたその発言にユーリスは柄にもなく鬼の形相でルクスに食ってかかる。


「どういうつもりだ、ルクス!!クエルを疑っているのか!?」

「落ち着けよ、ユーリス。魔法を使えるイコール悪人ではない。

 お前が言ったことだろ?」


 ルクスは胸ぐらに掴みかかってきたユーリスに一切顔色を変えることなく返答し、ユーリスを押し退ける。

 そして、クエルへと目線を送る。


「で、どうなんだ?」

「使えないよ……あたし、魔法とかわかんないし……」

「そうか」

「な……なんで?……あたし……なんか怪しいかな?」

「状況的にはな」


 ユーリスが眉間に皺を寄せる。

 しかし、ルクスは構わず話しを続ける。


「この森には近づかないように村のみんなには指示が出ている。そうでなくとも近づきたいと思う奴は少ない。そこにフラッと現れたんだ首を傾げる行動ではあるだろ?」

「……」

「……はっきり聞いとくか……何でここにいる?」

「……そ……それは……」


 言い淀んでいるクエルを庇うようにユーリスが割って入る。


「ルクス、それはボクも君に問いたい。なんでこの森に来た?」

「ここに来れば今まで魔法を使えなかった奴が急に魔法を使えるようになる方法があるかもしれない」

「!?」


 ルクスの発言にユーリスは目を丸くする。


「どうしてそう言う結論に至った?」

「記憶が曖昧なせいで断言できないが、魔獣が現れたタイミングでオレは魔法の才に目覚めたんだろ?だったら他にもそう言う奴がいるかもしれない。それが3人目でもおかしくはない。仮にそうならここを探索すべきだろ?」

「……なるほど」


 ユーリスとルクスが問答している間、クエルの目は希望に輝いていた。

 自分にも魔法が使えるかもしれない、それは村を出る時役に立ちそうだったら連れてってくれるというルクスとの約束に近づくということである。


「ねえ!方法がわかれば、あたしも魔法を使えるってことよね!!」

「!?ちょ、ちょっとクエル!よく考えた方が……魔法だよ?」

「知ってるけど?何よユーリス、あんた自分は魔法が使えるくせに、あたしが魔法使えるようになるのが嫌だっていう訳?」

「いや、そうじゃないよ!クエルが魔法を使えるようになったらボクは嬉しいよ。だから、そうじゃないんだけど……」

「だったら何で止めようとするわけ?あたしも魔法を使える──」


「なんだ?そこのガキ、魔力保持者か?」


 森の中からガタイの良い男が現れる。

 真っ白な肌を真っ黒な衣服が包み込んでいる。瞳も舌も青白く、まるで死人ようであるにもかかわらず、圧倒的存在感を放つ。


「今、魔法を使えるって言ったよな!?ガキ!?悪ィがオレの糧になれ!」


 男がクエルに向かって突っ込んでくる。

 ルクスは即座にクエルをユーリスの方へと突き飛ばすと、男の攻撃に対し防御をとる。

 防御をとったルクスであったが一瞬も踏ん張ることを許されず、勢いよく後方に立っている木へ吹き飛ばされる。


「ルクス!?」


 吹き飛ばされたクエルを抱えたユーリスがいきなり襲いかかってきてた男に対しいつでも対応できるよう警戒しながら、声をかける。


「チッ。いい反応するじゃねーか、てめぇ!だがよぉ、腕イッちまったろ、ああ!?」

「ぼさっとすんな!クエル連れてとっとと行け!!」


 目の前にいる男の発言を無視してルクスはユーリスに命令する。


「で、でも──」

「ユーリス!!!!」


 ルクスの圧に押されユーリスはクエルの腕を掴むと村へ向かって走り出す。


「逃がすわけ──」


 男がクエルとユーリスを追いかけようとルクスから目線を切った瞬間、ルクスの拳が男の顔面へと放たれ、男のターゲットが変わる。



 ユーリスに引っ張られているクエルが抵抗するように速度を落とし、ユーリスに疑問をぶつける。


「ちょ、ちょっと!!あんたルクスを置いてくの!?」

「クエル、君を安全な場所まで連れてゆく。そしたら村へ危険を知らせて欲しい。ボクはすぐにルクスの下へ戻るよ」

「そんなことしてる間にルクスが死んじゃったらどうすんの!?明らかにヤバい人じゃん!?ルクスを助けなきゃ!!」


 クエルがユーリスの手を振りほどきルクスの下へ行こうと振り返ったと同時に、吹き飛ばされたルクスが2人の横を通り過ぎる。


「がはっ!」

「はっはっはっはっは。マジでしぶてーな、おい!」


 ルクスは全身傷だらけで、肩で大きく息をしている。

 男は気分良さそうに肩で風を切りながら歩いてくる。


「やめて!!」


 男の前へクエルが両手を広げて飛び出す。

 男は鬱陶しそうに見下すと、躊躇なく裏拳でクエルを吹き飛ばす。

 拳が顔に直撃したクエルは10メートル以上吹き飛ぶ。打たれた頭は陥没し、首が捻じれ、何度も地面を跳ねる。

 クエルが吹き飛んだ瞬間、ルクスとユーリスのとった行動は全く別であった。

 ルクスは間髪入れずにまだ吹き飛んでいるクエルの下へと走り出していた。高速で回り込みクエルを受け止めるとダランと落ちた首を支える。


「クエル!?クエル!?」

「ヒュー……ヒュー……ヒュー……」

「まだ生きてる!?諦めんなよ!!意識をしっかり持て!!」


 ルクスはどうしていいかわからなかったが、辛うじて息のあるクエルに必死に呼びかける。


「おい!ユーリ……ス……」


 ユーリスは男への攻撃を選択していた。

 殺意のこもった表情で男の懐へ飛び込むと、男の顎がかち上がる。

 グラついた男が怒りを露わにしユーリスの顔面へ拳を振り抜く。

 しかし、ユーリスの周囲に発生した水の塊が男の拳を滑らし、男の拳はユーリスの顔横をすり抜ける。


〈──グラキアルマトス──〉


 ユーリスの拳は氷の武装を瞬時に覆うと男の顔面へ叩き込まれる。

 今度は男が大きく吹き飛ぶ。

 男は何とか体勢を立て直すとユーリスへと向き直る。


「調子に乗んじゃ──!?」


 ユーリスは足から水をジェットエンジンのように噴射すると同時に、氷の滑走路を作り出し、畳みかけるため間合いを詰める。

 以前ルクスに見せたように両手で高速回転する水球を作ると、両手で圧をかけ薄く平たくする。


 キュイイイイイイイイイイイイイイイイイン


 空気を切り裂く高音とともに、円形の水の端が空気摩擦によりオレンジに光る。

 男は危険を察知し、焦った表情で体を捻じる。

 周囲に派手に血が飛び散り、男の片腕が飛ぶ。


「クッソおおおおおおクソがあああああああああああ!!!ふざけやがって!!殺してやる!!殺してやるぞ!!!」


 男は失った腕を抑えながら喚くと、なおもユーリスへ攻撃しようとする。


「そこまでだよ、ガウディー。帰るよ」


 突如現れた存在にユーリスは警戒して距離を取る。


(こいつの仲間?今どうやって現れた?)


 どこからともなく現れた男も、ガウディーと同じ服を身に纏っている。

 男はユーリスのことなど気にも留めず、虚空に向かって語りかける。


「イディオ。ガウディーの腕も頼む」

「フェームス!てめぇ、俺はまだそいつとの決着がついてねぇんだよ!」

「そうか。残念だが時間切れだ」


 そう言うと2人は消える。


「どうなってんだ……?」


 訳がわからずルクスが呟く。

 その声で我に返ったユーリスが慌ててルクスに駆け寄る。


「クエルは!?」

「え?ああ、生きてるぞ……たぶん……」

「よかった……って傷が!?」


 殴られて酷い損傷をしていたクエルの傷は跡形もなく消えていた。


「ルクスがやったの?」

「……わからん……」

「まぁいいや。とにかく孤児院へ運ぼう。孤児院には治療室があるから」


 ルクスとユーリスは気を失っているクエルを担いで、孤児院まで走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る