ある時、玲奈から合コンに誘われた。玲奈が所属しているダンスサークルは他大学とも交流があるらしく、そこで知り合った人達を連れてくるという話だった。あたしと玲奈ともう一人、伊織いおりという女の子を誘って、予約していた居酒屋に行く。予約していた席ではすでに派手な三人組の男子が待っていた。

 彼らは晃、隼人、裕也、と名乗った。そして皆陽気に話し始める。この時のあたしは男性経験の少なさからうまく話題を出せずにいた。一緒に来た伊織はそもそも恋愛に全く興味がなく、携帯を弄り自分の世界に浸っていた。それでも男性陣の気の利いた会話力のお陰で沈黙が長く続くことはなかった。

 やはり合コンの席でも玲奈は常に人気者だった。晃と裕也は元から玲奈狙いだったらしく、あたしと伊織そっちのけで玲奈を質問攻めにしている。玲奈には彼氏がいたが、みんなそんなことは気にしていないらしい。彼氏以外の男からも常に注目を受ける玲奈を見て、あたしの中には羨望と嫉妬が渦巻いていた。

 それでも合コンを楽しめたのは隼人のおかげだった。隼人だけは全員が楽しめるように分け隔てなく話を振り、質問と冗談を交互に繰り出し、あたしたちを楽しませてくれた。

 合コンが終わると伊織はさっさと帰ってしまった。晃と裕也は店の外でも玲奈を口説くことで忙しかった。あたしも帰ろうとしたときに、隼人があたしの横に立った。

「今日この後空いてる? よかったら俺の部屋来ない? この近くなんだ」

 途端に胸が高鳴った。顔を上げると隼人は不安そうにあたしを見ていた。初めての展開に怖気づく自分がいたが、それでももう少し隼人といたいという気持ちがあたしの背中を押した。

 小さく頷くと、隼人はあたしの手を引き彼のアパートまで連れていった。ワンルームの部屋は広くはなかったが、きちんと整頓された室内はしっかりした性格を表しているようだった。

 しばらくは二人で他愛のない話をする。でもそのうち隼人の体が少しずつあたしに近づいてきた。あたしの全神経が隣にいる隼人に集中していて、平静を装うも無駄に終わる。隼人はそんなあたしの頬に片手を添え、軽くキスをする。驚いたあたしの目をじっと見つめ、

「だめ?」

と、聞いてくる。すべての情報が脳から消え失せ、代わりに隼人で埋め尽くされる。何も考えられないままあたしは隼人に身を預けた。


 初めてだったのにも拘わらず、あたしはこの時のことをあまり覚えていない。場に流されたからなのか、その後の出来事の方があたしの感情をかき乱したからなのかはわからない。

 玲奈はあたしと隼人のことについて執拗に聞きたがった。

「隼人とやったの? どうなの?」

「え! 加奈子、なんかあったの? 男?」

 何も知らない他の友達が反応する。あたしははしゃぐ周りに呼応して赤面する。隼人とのことを話すと、友達の一人が甲高い声を上げる。

「加奈子卒業したの? おめでとう! で、付き合ってるの?」

「付き合ってないよ。なんか体だけの関係って感じ」

「わお、加奈子なかなかやるね」

 友達があたしを肘でつつく。彼女の冗談にくすぐったいような気持ちになる。その後も質問は止まらず、際どい話にみんなが反応する。自分の話で注目を集めたのは初めてだった。今まで得たことのない高揚感に胸が躍る。そのせいで初めは気がつかなかった。最初の質問以降、玲奈が一言も発していないことに。

 しばらくあたしと隼人の話で盛り上がっていると、突然玲奈が口を挟んだ。

「でも隼人ってさ、あの三人の中で一番地味だったよね。なんか派手な人達の中に頑張って混ざってますって感じが出てたし」

 玲奈の言葉にあたしは首を傾げた。三人とも仲が良く、隼人の立振る舞いにも不自然さはなかったからだ。

「え、そうなの?」

 さっきまで黄色い声を上げていた友達は玲奈に向き直る。玲奈の言葉で少し鼻白んだようだ。

「うん、なんか私は違うなって感じてた。他の二人の方がイケてたよ」

「他の二人はどんな感じだった?」

「すごい積極的でガツガツ来る感じ。私ずっと質問攻めにあって大変だったよ。加奈子は隼人に夢中で全然助けてくれなかったけど」

 大変だったと言う割には楽しそうに話す玲奈に、聞いていた友達の眉間に皺が寄る。聞かれたのは彼らの人となりについてでアプローチの仕方ではないが、玲奈は気にせず続ける。

「加奈子と隼人が帰った後に二人から聞いたけど、隼人ってモデルみたいな子はタイプじゃないんだって。もっと、あの、なんて言うんだろう、ふっくらした触り心地のいい子が好きなんだって」

 デブと言いたいだろうことはすぐにわかった。おまけに自分がモデルのようなタイプだとも主張したいらしい。それか、自分が隼人から口説かれなかった理由は隼人の偏った好みにあると言いたかったのかもしれない。いずれにせよ、突然始まった隼人の悪口と玲奈の自慢話にあたしは苛立ち始めていた。言い返したかったが、話を聞いていたその友達は話題を当たり障りのないものに変えてしまった。

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