第59話『闇は光の中でこそ輝く』

心配していた闇ショタことルイ君であったが、どうやら私の考えすぎであったらしい。


何故なら、もうレナちゃんとお友達になっているからだ。


しかも結構仲が良い様に見える。


「そうなの! レナちゃんもパンケーキは好き好きー?」


「うん。私も好きだよ。甘くて、もう何個でも食べられちゃうよね!」


「レナ。アンタ。そう言って前も食べすぎってくらい食べてたんだから、少しは抑えなさいよ」


「分かってるって。ヤスミン! もー。あんまり思い出させないでよー! ダイエットの苦い思い出が蘇る」


「自業自得でしょうが」


「あはは」


うーん。実に楽しそうに笑っている。


やはり考えすぎであったか。


いやいや。冷静に考えればそうよね。


乙女ゲームに出てくる重要人物が危険人物な訳無いわ。


闇キャラって言っても、雰囲気が闇っぽいってだけで、真実闇の化身とかじゃないって事よ。


良かった良かった。


「何やら楽しそうな話をしていますね」


「あ。シーラちゃん! 今の話聞いてたの?」


「えぇ。ちゃんと聞こえていましたよ。レナちゃん。ヤスミンちゃんにあんまり迷惑をかけてはいけませんよ」


「分かってるってー」


「ヤスミンさん。レナちゃんの事。いつもありがとうございます」


「い、いえ! 自分は何も出来ておりませんが! レナさんの友人として、頑張ってゆく所存であります!」


「そんなに固くならないで下さい。ヤスミンちゃんも私の大事な生徒の一人ですからね」


私はヤスミンちゃんの手を握りながら、今度はニコニコと笑っているルイ君の方に振り向いた。


「ルイ君」


「え? あ、はい」


「学園はどうですか?」


「どう?」


「楽しいとか。こういう所は困っているとか。何かあればなんでも聞きますよ」


「……いや、別に、何も無いです……けど。でも、なんで? 僕は特別な子じゃないのに」


「特別じゃない子なんて居ませんよ。どんな子だって私にとっては大切な子です。勿論一人一人に割く時間は違いますが」


「……じゃあ、ルイが、一人が寂しいよ。って言ったら、その、一緒に寝てくれるの?」


「えぇ。毎日は駄目ですけどね」


「なんで! やっぱりルイが特別じゃ無いから」


「違いますよ」


「っ」


「大切な子だからです。勿論私としては、何日だって一緒に寝ても良いですが。私とずっと一緒に居る訳にはいかないでしょう? それなら、一人で生きて行く時の為に、一人で寝る練習はして欲しいんですよ」


「……そう、なんだ」


私は目を伏せているルイ君の手を取って笑う。


少しでも闇の成分が光になる様にと祈って。


「私が全てを守る事が出来れば良いのですが、世の中何があるか分かりませんから。私もある日突然命を落とすかもしれませんし」


「そんな!」


「ちょっと! シーラちゃん! そういう事言うのは止めてよ!」


「例えの話ですよ」


「それでも!!」


「うんうん!!」


「シーラ様!」


「皆さん。少し落ち着いてください。私だって世界の全てを支配している訳ではありませんから。何が起きるかというのは本当に分からないんですよ。それに、大丈夫だろうと思っていて、何かが起きるより、何かが起きた時どうしようか、と考えていて無事な方が嬉しいじゃ無いですか」


「それでも!! 私には良いけど、ルイ君とかヤスミンに、そういう事を言わないでって言ってるの!」


「……レナちゃん」


「レナ」


「私はシーラちゃんと結構長く一緒に居るから知ってるよ。シーラちゃんが危ない事を結構やってるの。だから、そういう覚悟だってしてるつもり。でもこの学園に居る人たちは、そんな事少しだって考えてないんだ。シーラちゃんは強くて、可愛くて、いつだって人の味方でいてくれる。そういう人なの。だから、もしも。なんて話はしないで」


「でも……」


「でも。なぁに?」


「もしもはありますし」


「そんなの頑張って何とかしてよ! 出来なきゃみんな、みんな悲しくなっちゃうよ」


「レナちゃんは無理を言いますね。まぁ、でも分かりました。何とかしましょう」


私は笑いながらそう頷いた。


まぁ、どうしようもない時は無理だろうけど、出来る事はしようと思う。


そして、そんなこんなで、みんなとの話は終わり、私は一日の仕事を終わらせた。




それから夜も遅く。


私は自室で仕事をしていたのだが……不意に扉がノックされる音がした。


何だろうかと扉を開けてみれば、そこに立っていたのはルイ君であった。


「ルイ君?」


「シーラサマ。あの、お昼に言ってた話……」


「あぁ。分かりました。ではどうぞ」


私はとりあえずルイ君を中に入れて、ベッドに座っていて貰う。


そして、少し待っていて下さいと言いながら中途半端になっている仕事を片づけるのだった。


「……シーラサマ」


「はい。なんでしょうか」


「シーラサマは、いつも、ソレ。やってるの?」


「まぁ、そうですね。私はそれほど仕事が早い方では無いですから。寝る前までやらないと終わらなくて……」


「そう、なんだ」


「でも、年をとったせいか、夜はあまり長く起きている事が出来ないので、もうそろそろ眠りますよ。あ。眠かったら先に寝ちゃってください。私はここに居ますから。怖くは無いでしょう?」


「……うん。でも、シーラサマを待ってる」


「ふふ。優しい子ですね」


私は待っているルイ君の為にもなるべく早く終わらせようと、マッハで仕事をこなし、ベッドで待っているルイ君の所へと向かった。


ルイ君はいくつかあるぬいぐるみの内、トカゲっぽい魔物のぬいぐるみを抱きしめると、私をジッと見つめていた。


「知らない子の匂いがする」


「あぁ。その子はジャスミンちゃんが置いていったお気に入りだからですかね」


「お気に入り?」


「はい。みんなお気に入りのぬいぐるみをここに持ってきて、置いていくんですよ。ルイ君も自分用が欲しかったら持ってきて下さい」


「……でも、シーラサマのベッドが狭くなっちゃうよ?」


「まぁ、確かに。もう来ない子の物は別の所へ置いていますが……それでも結構多いですねぇ」


キングサイズはあるはずのベッドの半分くらいを埋め尽くしているぬいぐるみを見ながら苦笑する。


が、まぁ、私もそれほど大きくないし。大した影響は無いだろう。


「でも、寝る時に、大好きなお友達が居る方が、安心できるっていう子も多いですから」


「……」


「それに、こうしていると、私もみんなに囲まれているみたいで嬉しいですしね」


「そう、なんだ……。じゃあ僕も今度何か持ってくるね」


「はい」


うーん。


やっぱりレナちゃん効果なのか。


初めて会った時より、今の方がずっと落ち着いている様に見える。


心の中にある澱みも消えている様な感覚だ。


このままレナちゃんセラピーを続けつつ、私も先生としてちゃんと接していけば良いのかな。


まぁ闇ショタだなんだって言っても、何か事件起こす訳じゃないしね。


どうにもならない世界が悔しくて、悲しくて、どうにかしたくて、それが態度に出てしまうというだけだ。


心の奥底は優しい子なのだ。


「では、寝ましょうか」


「……うん」


私はベッドに眠りながらルイ君の手を握る。


こうしていると大抵の子は喜ぶのだが、ルイ君は酷くビックリしている様だった。


「嫌でしたか?」


「ううん。そんな事ないよ……嬉しかっただけ。後、懐かしかった」


「そう、ですか……」


ベッドに入った瞬間、一気に眠気が襲ってきて、私は目を閉じた。


「もう寝ちゃうの? シーラサマ」


「……は、い。ごめんなさい。もう、げんかい……で」


「ううん。良いよ。おやすみ。シーラサマ」


私は頬に何かが当たる様な感触を受けながら、夢の世界へと旅立つのだった。

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