第60話『恋と、愛と、友情と』(レナ視点)

(レナ視点)




ルイ君という友達が出来てから、少しずつ騒がしい物に変わっていった。


というのも、ルイ君が活発なタイプの子だという事もあるが、ルイ君と共にいる事で、ナルシス君やトリスタンも近づいてくるからだ。


そして、ルイ君が私と一緒にご飯を食べていても、中庭で本を読んでいても、そこに近づいてきて共に過ごそうとする。


実に面倒な話だ。


そう。面倒な話なのだ。


「はいはい。モテ自慢ですか? レナ様」


「そういうんじゃないから! 別にシーラちゃん以外にどう思われてようが、どうでも良いっていうか!」


「はぁはぁ。さようでございますか。そういうのもさ。顔真っ赤にしながら言われると、なーんの説得力も無いワケよ」


「っ!」


私は両手で頬を押さえながら、ジト目のヤスミンから少し離れる。


が、ベッドに座っている以上、少し後ろに逃げた所で、大して離れる事は出来ない訳だが。


「それで? レナは誰が本命なの?」


「……シーラちゃん」


「そういうのは良いから」


「だって! 嘘じゃないもん! シーラちゃんが一番好きだもん!」


「はぁ、なるほど? まぁ、レナがそういう情緒が育ってないのは何となく分かってるけどさ。いつまでもそう言い続ける事も出来ないよ?」


「……」


「それとも、そうやって言って、三人の想いを切り捨てる? それがレナは正しい事だって思ってるの?」


「うぅ……そうじゃないけど」


「なら真剣に考えなさいな。三人は真剣に貴女を想っているんだから」


「……うん」


私は膝を抱えながら、頷く。


しかし、考えろと言われても、困ってしまう。


何せ、こんな気持ちになるのは初めてなのだ。


「……ヤスミン」


「なんでしょうか? お姫様」


「ヤスミンは恋ってした事ある?」


「そりゃあるわよ。それこそ沢山ね」


「そうなの!?」


「これでも私は乙女として生きてきておりますからねぇ。どっかのシーラ様にべったりだった子とは違って」


「……」


「そんな睨まないでよ。冗談だから。まぁ、私だって恥ずかしいからさ。こういう話するの」


ヤスミンは僅かに頬を朱色に染めながら、明後日の方向を見て語り始めた。


貴族の家の子であるヤスミンは王城へ行ったときに、出会った人たちに恋をしたらしい。


王子様とか。騎士様とか。そういう人たちだ。


「まぁ、私には届かない存在だったけどね。それでも恋をするのは自由だから」


「手が届かないって、相手は結婚してたって事?」


「違う違う。身分がーって事。ウチは下級貴族だからね。侯爵様とか王族とかは結婚なんて出来ない訳よ」


「そうなんだ」


「そ。貴族社会ってのはそういうモンよ?」


「でも、それなら、ルイ君以外は無理じゃないかな。トリスタンは伯爵だって言ってたし。ナルシス君なんて王子様だし」


「まー。確かに。常識的に考えれば無理ね」


「……」


「でも、まぁレナの場合は大丈夫じゃない?」


「なんで?」


「そりゃアンタ。アンタがシーラ様にすっごく近い子だからよ。お気に入りってのは違うけどさ。直接シーラ様とお話する事が出来て、魔法を教えてもらってって出来るのは凄い事よ?」


「でも、そんなの孤児院のみんなやってもらってるけど」


「そう。だからそのシーラ様が管理する孤児院から出て来た人はみんな身分とか関係なく、実力で重要なポストに就いてるワケ。高位貴族と結婚した人だって居るくらいなんだから! だから、レナも気にせず、気持ちに応えれば良いのよ」


「うーん」


「なんですか。今度は何をお悩みですか。レナ様は。やれやれ。あんな格好いい人たちに想われて、何が不満だと言うのかねぇ。この友は」


「いやだって! 分かんないもん。恋愛とか、貴族とか。そういうの」


「そりゃ誰だってわかんないよ。分かんないなりに何とかやってんの。だからどうこうって事は無いけどさ。レナも逃げないで向き合ってみてよ」


「……うん」


「んじゃ、そうと決まれば次の野外活動は三人と一緒に行動すること! 良いね?」


「えぇー!? や、やだ」


「ヤダじゃありません! このまま放置してたら一生進展しなそうだわ。こうなりゃ無理矢理にでも進んでもらうわ」


「じゃ、じゃあ。ヤスミンも一緒に来て」


「は? いや、私。特別教室じゃないんだけど」


「大丈夫。シーラちゃんにお願いするから」


「止めてよ! シーラ様過激派にバレたら何を言われるか!」


「良いから。そういうのも、シーラちゃんに言えば大丈夫だから!」


「何も大丈夫じゃなーい!」


私は叫ぶヤスミンを部屋に放置して、部屋から飛び出した。


そして、シーラちゃんの所へ向かうと、野外活動について、お願いをするのだった。


やっぱりというか、シーラちゃんは分かりましたと頷いてくれ。無事ヤスミンも私と一緒に行動できる様になったのである。




それから数日が経ち、いよいよ野外活動の日になった。


私はと言えば、ヤスミンの隣で、トクトクと落ち着かない胸の鼓動をそのままに、ヤスミンの手を握る。


「緊張してきたね」


「ホントにね」


「……? なんでヤスミンが緊張してるの?」


「そりゃ私の教室じゃあ野外活動でいきなりこんなヤバそうな森には来ないからね。それに集団行動だし」


「大丈夫だよ。今回は五人行動だし。コピーシーラちゃんも付いてくるしね」


「いや、それで安心だと思えるアンタが凄いわ」


「そう?」


「……はぁ、ほんと、特別教室に入らなくて良かった。命がいくつあっても足りないわよ。こんなの」


「任せて。ヤスミンは私が守るから」


「あらやだ。格好いい。レナ。そうやってるとアンタ本当に格好いいわね。どう? 今からでも女止めて男にならない?」


「ならない」


「残念」


何だかんだ余裕ありそうなヤスミンに呆れつつ、私は約束していた人たちを探す……前に、向こうから近づいてくるのだった。


「やぁ。レナ。今日も良い天気だね」


「森だとよく分からないけどね」


「レナ。腹は減ってないか?」


「そんな食いしん坊だと思われてるの? 私は」


「レナちゃん。ヤスミンちゃん! ようやく見つけた! ごめんね! 初めてで、よくわかんなくて」


「ううん。大丈夫だよ。ルイ君。じゃ行こうか」


「うん!」


私はルイ君の手を取りながら、ヤスミンと共に始まりの場所へと向かう。


そう。シーラちゃんの所へだ。


「レナ班来ました!」


「はい。えー。レナちゃんに、ヤスミンちゃん。ルイ君に、ナルシス君、トリスタン君ね。分かりました。ではいつもの事ですけど今回が初めての人も居ますし、改めて説明しますね」


「は、はい!」


「うん!」


ヤスミンとルイ君が元気よく返事をして、それにシーラちゃんがニッコリと微笑む。


そして、シーラちゃんは一個一個丁寧に森での行動について話をしてゆくのだった。


「はい。以上です。何か質問はありますか?」


「ないです!」


「大丈夫です」


「では、皆さんお気をつけて。何かあればコピーシーラに言ってください。個別にギブアップする事も可能ですからね。命第一でお願いします」


「はぁーい! じゃあ行ってきまーす!」


そして、私たちは森へと向かうのだった。


何度目かのサバイバル活動。


今度こそ一番になってやるぞと気合を入れて。

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