第55話『芽生え』(レナ視点)

(レナ視点)




トリシュ……もとい、トリスタンと戦っていた私は、アイツの放った訳の分からない魔法で拘束されて、完全に動くことが出来なくなっていた。


植物を育てる魔法って事なんだろうけど。それにしたって規格外だ。


おそらく、今この瞬間に起こした訳じゃなくて、前々から準備をしていたのだろう。


多分さっきの話に繋がるんだろうけど、それだけ私を負かしたかったって事だ。


腹立たしいやら、情けないやらだ。


頭に血が上って、こんな単純な罠に引っ掛かるなんて。


シーラちゃんの相棒失格である。


「さ。降参するんだ。レナ」


私は、舐めた態度で私の頬に触るトリスタンを潰す為に、両手に魔力を集めて、火の魔法で近くにある木を燃やしてやる。


トリスタンは私が木を燃やし始めた事で焦ったのか、水の魔法をぶつけてくるが、意味は無い。


何せ私が燃やしてるのは木の内側だ。外から水をかけたって何も生まれやしないのだ。


「な、なんてことを!」


私は自分を薄い水の膜で包んで、木の内部を爆発させた。


そして、爆発の勢いで外へと飛び出すのだった。


「なっ!?」


「隙、だらけだよっ!!」


私は空を飛びながら地上にいるトリスタンへ向けて火の魔法を放ちながら、ついでに地面に生えている木も全部燃やし尽くすのだった。


「レナ!?」


「ふんっ!」


そして、空を蹴って地面に素早く着地すると、そのままトリスタンの顔に右手を向けて笑う。


トリスタンは私に手を向ける事が出来ないまま、呆然としていた。


つまり、私の勝ちだ。


「はい。おしまい」


「な……」


まだ納得できないのか、トリスタンは私に向かって手を伸ばそうとするが、ここから先は本当に殺し合いになってしまう。


私はどうするべきかシーラちゃんに目線を向けたのだが、シーラちゃんが動くよりも早く、私の手を掴んだトリスタンは、その手を握り……。


「なんて無茶をするんだ! 君の綺麗な手がこんな事になってしまっているじゃないか!!」


「……は?」


「い、医者は! 医者を急いで呼んでくれ!!」


「いや、別に大した事ないから。ちょっと表面が焦げただけでしょ」


「表面が!! 焦げた!!? い、急いで治療を!!」


「治療は良いけど。決闘はどうするのよ」


「そんな事今はどうでも良い!」


「あ、そう……」


私は魔力を使い過ぎた影響で、薄くなっていく意識をそのまま手放して、夢の世界へと旅立つのだった。




まるで風邪をひいた時の様に、気だるい感覚の中で目を覚ました私は、医務室のベッドで体を起こし、周囲を見渡した。


ベッドのすぐ横には、今にも死んでしまいそうな顔をしているトリスタンと、何故か同じ様に死にそうな顔をしているナルシス君が居た。


こっちは良いか。と反対側を向けば、そこには心配そうにしているシーラちゃんとヤスミンが居て、私はとりあえず笑顔を作る。


「おはよう」


「おはようじゃないよ! レナ! もう! 無茶ばっかりして!」


「いやー。あはは。他に何とかする手段が思いつかなかったもんだから。そろそろ本格的に転移魔法でも覚えるかなって感じ」


「では、怪我が治ったら、転移魔法を教えましょうか」


「ホントに!? やった! シーラちゃん。私にはまだ早いって言ってたのに!」


「まぁ、こんな無茶をするくらいなら、転移魔法を教えた方がマシです」


私はシーラちゃんから見えない様に拳を握りしめて、これでシーラちゃんの部屋に入りたい放題だとほくそ笑む。


が。


「あぁ、言っておきますが、学園内の重要施設への転移は基本的に禁止されてますから、転移出来ませんよ」


「え?」


「私の部屋も生徒の情報が書かれた書類等もありますし。禁止区画です」


「いやいや。私はそんな変な紙になんて興味無いよ?」


「禁止区画です」


「シーラちゃん! そんなのって無いよ! こんなんじゃ転移魔法を覚える意味がないじゃない!」


「レナ……アンタの頭にはシーラ様しかないの?」


「うん!!」


「そんな堂々と答えないでよ。こっちが返答に困るから」


「なはは」


私はヤスミンに笑いかけ、とりあえず何故か集まっているメンバーに解散して貰おうとした。


しかし。


「「レナ!」」


「うわっ、びっくりした!」


無視していたトリスタンとナルシス君から熱い声がかかる。


いや、医務室でそんなに騒がないでよ。


「なぁに?」


「体は大丈夫なのか!?」


「決闘で自爆するとはどういう事だ!」


「とにかく世界一の名医を呼ばないといけない! 目が覚めたとしても体が無事かどうかは分からないんだ!」


「いつもいつも考え無しに突っ込んで! 何を考えているんだ君は!」


「あー! もう! 両側からゴチャゴチャ言わないでよ!」


私は肩を揺らされながら、ギャアギャアと両耳に大音量で叫ばれて、苛立ちのままに風の魔法で二人を吹き飛ばそうとした。


しかし、シーラちゃんに魔法をかき消されてしまう。


「シーラちゃん!」


「まぁまぁ。全てを拒否せず、話を聞いてみてください」


「えー」


私は正直欠片も興味が無いため、不満をまき散らしたが、シーラちゃんはまぁまぁと笑いながら私の背を押す。


そんなシーラちゃんの行動に私はため息を吐きながら頷くのだった。


「それで? お二人は何でここに?」


「「レナが心配だったからに決まっている」」


声を揃えないで欲しい。


ただでさえ、なんか暑苦しいから。


「心配って言われてもね。私はこうして元気にしてるし」


「しかし、倒れただろう?」


「魔力の使い過ぎだね」


「相当激しい戦闘だったぞ」


「まぁ、相手も強かったからね」


なんでこの人らは交互に話しかけてくるんだ。


私だけ息継ぎをするタイミングが無いんだけど。


「終わり? 終わりなら私はもう寝たいんだけど。疲れたし。今からシーラちゃんの部屋に行かなきゃだし」


「自室でも良いのでは無いでしょうか」


「何かあったらどうするの!? シーラちゃんは心配じゃないの!?」


「いえ。体を調べましたが、何の異常もありませんでしたよ」


「……シーラちゃんは私の事が心配じゃないの!!?」


「いや、だから、その」


「シーラちゃんは私の事が心配じゃないの!!?」


「分かりました。分かりましたから。今日だけですよ?」


「いえーい」


「レナ。アンタ……」


「別に良いじゃん。たまにはさ。という訳で、私はシーラちゃんの部屋に帰るから。二人ももう帰んなよ」


「しかし」


「でもでもだって。って言ってもやれる事なんて何もないよ? それにさ。トリスタンだって決闘で疲れてんでしょうが。ナルシス君はまぁ疲れてないかもしれないけどさ。自分の部屋に帰って休みな。はい。解散!」


私はそう言って、全員を解散させた後、シーラちゃんの部屋に潜り込んだ。




そして、潜り込んで早々に私のぬいぐるみを抱きしめて、シーラちゃんに叫ぶ。


「ねぇ! シーラちゃん! 決闘って何なの!?」


「今まで知らないでやってたんですか?」


「だって、挑まれて逃げるとか出来ないじゃん」


「逃げても恥では無いと思いますが」


「トリスタンが言ってたんだよ! 決闘を挑むのはその相手が好きだからって! じゃあ、今までのも全部そうって事!?」


私はぬいぐるみを強く抱きしめて叫ぶ。


医務室では冷静に話をしていたが、正直よく平静に会話が出来たなと自分を褒めたくなる。


「な、ナルシス君なんて負かしても、負かしても挑んできたんだよ!? どんだけ私の事が好きなんだよ! トリスタンだって! 私を怒らせて冷静さを奪った挙句にとんでもなく手間がかかる魔法まで使ってきて! あー! もう!!」


「レナちゃんも色々と大変ですねぇ」


「まったくだよ! こんなの、初めてで! もう! もう!! だよ!!」

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