第50話『聖女シーラ爆誕』
私は怒っていた。
それはもうすんごく怒っていた。
生徒同士。というか国が関わる事で色々あって、結果として一人の生徒が事件を起こした。
それは良い。いや、良くは無いんだけど、個人の感情はどうする事も出来ないし。
それをどうしろ。こうしろなんて言うのはおかしいからだ。
だから、やってしまった事をどうこう言う気はない。
まぁ、そもそも私エルフだからね。
人間の世界のルールは人間の中で解決してくれ。という話だ。
でも、でもさ。
「シーラちゃん! お願い! 助けて!!」
レナちゃんを泣かせた事は絶対に許せんのだ。
レナちゃんだけじゃないけど。
私の可愛い子供たちを泣かせる奴は全員ギルティである。
例え攻略キャラクターだって関係ない! 全員ぶっ潰す!
という訳で、レナちゃんを連れてキッフレイ聖国に来て、まずはナルシス君を探した。
「レナちゃん。捕まってて」
「うん」
そして見つけ出したナルシス君の所へ転移しつつ、近くに群がってる魔物を消し飛ばしたのだが。
何か一人でブツブツ言ってて、レナちゃんに最後に会いたかったとか言ってるの!!
感傷に浸ってんじゃねぇぞ!!
そういうのはな! どうしようも無くなってから言うもんだ!
まずは私に助けを求めろって話だ!!
何の為に魔法を極めたと思っているのか。
誰も不幸にしない為だろ!
「レナちゃん。ナルシス君をお願いします。私は魔物を」
「うん!」
「さて。魔物がわらわら出てきてるのは、どこでしょうねぇ」
イライラを表に出しつつ、転移で魔物が集まっている場所に飛んで、何か変な文字が刻まれている場所を魔物ごと吹っ飛ばした。
それを王都中の全ての場所でやって、最後に王城の中にあった奴も転移しつつ魔力を体にまとって、上空から勢いよく降りて踏み砕く。
「っ! な、何事だ!?」
「これは失礼しました。魔物退治の専門家。シーラです」
「し、シーラ様! 何故こちらへ」
「いや、何故こちらへって、そりゃ魔物が溢れてたら来るでしょ! 普通!! なんなんですか! 貴方も! ナルシス君も! 困ってるならそう言いなさい! 対処できないんでしょう!? 無理なら無理だと言わないと! 大人でしょう!?」
「も、申し訳ございません」
「死してしまえば、私にはどうすることも出来ません。けが人だってそうです」
「はい。仰る通りで」
私は怒りのままに言葉を並べていたが、何だか騎士の人たちがみんなシュンとしてしまったので、怒りの熱が冷め、逆にフォローする様に言葉を選ぶ。
「あぁ、いや、対処に忙しかったというのは分かりますし。気づいていなかった私が偉そうに言うのはおかしいですね。はい。そう。皆さんはとても頑張っていました。私は遅れてしまいましたが、今度は遅れない様に気を付けます。はい」
「いや! シーラ様がその様な!」
「ちゃんと反省して、対策を考えます」
「た、対策でありますか?」
「はい。世界中のどこに居ても、どこかで起こった問題を把握する方法を」
「なっ!?」
私はため息を吐きながら、ナルシス君とレナちゃんが居る所へと向かった。
別にそこまで急ぎじゃないから転移せず飛んで行ったのだけれど、どうやら現地は大騒ぎの様である。
「どうにかなりませんか! マクシム様」
「……僕にはどうすることも」
なんだろう。重い空気。
どうしたんだろう。
「はいはい。シーラが来ましたよ。何かあればどうにかしますけど」
「……シーラ様。それが」
「はい」
「兄さんは怪我が酷く、このままでは命を落としてしまう状態です」
「なるほど」
私はチラッとレナちゃんを見るが、レナちゃんは青ざめていて、手を震えさせている。
自分が聖女だと名乗る事はしたくないのだろう。
まぁ、それはそうだ。
この世界で聖女の扱いなんて、便利な医療器具以下だし。
最悪友達が人質に取られてーとか。家族がー。とか色々あるしね。
よっし。ここは私が頑張りますか!
「分かりました。では私が何とかしましょう」
「え!? ですが、シーラ様は」
「ふふ。いつ私が聖女では無いと言いましたか?」
「「っ!」」
驚くレナちゃんとマクシム君。そして周囲の人たちを見ながら、私はとりあえずナルシス君を近くにある家に運んで、誰にも中が見えない様にして欲しいと告げた。
「シーラ様……?」
「良いですか!? 私は今から癒しの儀式をします。しかし、それは服を全て脱ぎ捨てて行う物な為、中を覗いた人はそういう趣味の人だと生涯言われる事になるでしょう! 覚悟して下さい」
「決して中は覗きません!!」
「よろしい。では助手としてレナちゃんも連れていきます。後はしばしお待ちください」
「ハッ!!」
「兄さんをお願いします。シーラ様。レナちゃん」
「はい!」
マクシム君の言葉に、レナちゃんは決意を秘めた瞳で強く頷き、家の中に入った。
そして、私もレナちゃんと一緒に入り、一応外から見えない様に魔法を使う。
「じゃあ、レナちゃん。お願いします」
「え? でも」
「嘘ですよ。全部嘘。私は聖女じゃないですから」
「っ!」
「レナちゃんの名誉を奪っちゃうのは申し訳ないですけど。これが一番良いかなと思ったので……」
「でも、でも! こんな事したら、シーラちゃんが!」
「大丈夫ですよ。私は強いですから。その辺の悪党には負けません」
「……」
「さ。ナルシス君を助けたいんでしょう?」
レナちゃんは私の言葉に小さく頷いて、ナルシス君へと近づいていった。
そして、呼吸がだんだんと小さくなっているナルシス君に手を翳して癒しの魔法を使っていく。
何度か試したけど、どうやっても使う事の出来なかった魔法だ。
「……れな?」
「大丈夫。必ず助けるから」
「そうか……きみは、せいじょ。だったのだな」
ナルシス君は痛みと苦しみから出る汗をにじませながらも、酷く穏やかな顔で笑う。
そんなナルシス君にレナちゃんは少しだけ悲しそうな顔をした後、安心させる様に笑うのだった。
そして、それから少しして、ナルシス君の傷は完全に癒えた。
ただ、血を流し過ぎている為、よく休んでよく食べる様にと伝える。
「それと、レナちゃんが聖女だという事は内緒ですよ。ナルシス君」
「っ! しかし」
「大丈夫。私が聖女という事になってますから」
私の言葉にナルシス君は目を見開いて、すぐ背後に居るレナちゃんを見た。
お前の名誉奪われてんぞ。って事かな。
まぁ、そうね。としか言いようがないけど。
「なので、ナルシス君は今日ここで見た事を絶対に喋らない様に。良いですね?」
「シーラ様は、それでよいのですか?」
「当たり前でしょう! 何せ、私は褒められるだけで、何も無いですからね!」
「……シーラ様」
何だか辛そうなナルシス君に、しょうがないと私は一つの魔法を使う事にした。
「では皆さん。手を合わせてください」
ナルシス君とレナちゃんは訳も分からず、私の手に自分たちの手を重ねてゆく。
「内緒にするのも大変ですし。契約で縛りましょう。良いですか? ここで見た事は誰にも話してはいけませんよ。期間はそうですねぇ。では、私が死ぬまでという事にしましょうか!」
エルフジョークを飛ばして、私は笑うが、笑っているのは私だけだった。
うん。ごめんつまらない事言って。
「はい。これで契約成立ですね。では、儀式を終わりましょうか。癒しの儀式を」
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