第34話『無垢なる奇跡の存在』(或る学園教師視点)

(或る学園教師視点)




不健全だ。とシーラ様が我々を招集した日。


私は、シーラ様が作ったという資料を見ながら、真剣にこの資料を保存する方法を考えていた。


紙はどうやっても劣化するし、永遠に保存するというのは難しい。


しかし、見て欲しい。この可愛い文字。


全体的に丸まっていて、何とも言えない可愛さがある。味わい深い。


しかも風紀の乱れという文字は大きく書いてあるのに、おそらくはシーラ様が恥ずかしいと感じている部分は非常に小さいのも味わい深い。


この紙を食べたら、甘い味がするのではないだろうか?


試してみたい気持ちもあるが、私の宝が消えるのは嫌だ。


どうにかして他の教師に配られた紙で試せないかと視線を走らせたが、どうやら同じ事を考えていたらしく、視線がぶつかった。


そして、互いに紙を大事に抱えながら、視線で殴り合う。


「皆さん。少し落ち着きませんか? まずは話し合いをしなくては始まらないでしょう」


「……そうね」


「これは学園始まって以来の大事件と言っても過言では無いでしょう! まさかシーラ様が性行為の存在を知ってしまうとは!」


「しかしまだ、口づけ程度で恥ずかしがっているのでしょう? 焦るような事では無いと思いますが」


「何を言うかと思えば! それでシーラ様が口づけに興味を持ったらどうするのです! シーラ様の麗しき唇が何者かに奪われる可能性があるのですよ!」


「それは由々しき事態ですな」


「シーラ様はいつまでも穢れなき存在でなくてはならぬというのに」


「しかし、シーラ様も人の世に現れてから長い。既にご存知なのでは?」


「知識としてあるのと、実際にそれを目撃したり興味を持ったりは別であろう。事実として、先ほどシーラ様は大変恥ずかしがっていたではないか」


「あえてそういう風に見せているだけという可能性もあるがな?」


「貴様! シーラ様が純粋無垢なフリをした隠れビッチだと申すか! 戦争だぞ!」


「フン。やかましい清純派にシーラ様の良さなど語ってもらいたくはないな。あの小さな見た目で、我らよりも長く生きているシーラ様が、あの姿のままお姉さんのような口調で責めて下さるからこそ滾るのだろうが」


「なんというおぞましい」


「人の姿をした魔物め」


「なんと言おうが我らは変わらぬ。シーラ様は幼いお姉さんなのだ。シーラ様に抱かれて、我らは幼子に魂を戻す事が出来る。その時初めて、シーラ様は我らの母になって下さるのだ」


「あの様な可愛らしい幼子の姿をしたシーラ様を母とは……!」


「フン。何とでも言え。幼子の姿をした者を幼子のままで良い等と言う危険分子よりはマシだ」


「どっちが!」


論戦は激しさを増し、いつもの戦いへを発展してゆく。


議題はいつも変わらない。


シーラ様はどこまで性知識を持っている方が良いか。という議題だ。


無論私は最大派閥の無垢派である。


そのままで愛らしいシーラ様に意外性など要らぬ。シーラ様は長く生きているのに、無垢な心と見た目。それが良いのだ。


愚か者は黙っていてもらいたい。


「議論が流れているぞ。とにかく、シーラ様は神聖な学園内で、愚かしい行為をしていた者を極刑にしろと言っていたのだ」


「おい! 違うだろ!」


「シーラ様のご意見を勝手に変えるな!」


「そうそう」


「シーラ様は、拷問の末、生きている事を後悔させてから処刑せよと言っていただろう」


「シーラ様に性知識を与える危険のある存在だ。当然だな」


「おい! 自分の欲望をぶつけるな!」


「そうだ! シーラ様は学園内でその様な行為を行っていた者を発見し、報告したらご褒美をあげると言っていただろうが!」


「なにぃ!? その様な事は言っていなかったぞ!」


「自分の妄想をシーラ様に言わせるな! シーラ様が穢れる!」


「貴様がそれを言うのか!!」


「静粛に! 静粛に!!」


教師の中でもまとめ役となっている者が大きな声を出しながら、テーブルを叩いた事で全員が一度静かになる。


そして、ジッとその者が語りだすのを待った。


「処遇については、シーラ様に再度確認すれば良い。それよりもだ。決めなくてはいけない事があるだろう?」


「うむ。そうだな」


「学園内での性行為について、シーラ様の許容できるラインか」


「通称シーラ様ラインだな」


「うむ。シーラ様ラインか。良い言葉だな」


「今夜はいい夢が見れそうだ」


「おい。自分だけで良い思いをするな。共有しろ」


「フン。想像力の低い奴だな。良いか? シーラ様がこう我らに言うのだ。「ふふ。ここから先がエッチだってあなたは考えたんですね? どうしてそう思ったんですか? 私に教えてください」とな。そして我らはそれをご説明するという」


「天才か……!」


「そして、その先を分からないと言ったら、シーラ様が教えて下さるという訳だな。「私と個人授業をしましょうか。私はこう見えてもお姉さんですから。教えてあげますよ。イロイロと」と言って」


「貴様も天才だったか」


「おい! さっきからシーラ様で汚らしい妄想をするな! シーラ様がラインの向こう側を知っているわけが無いだろうが! シーラ様は何も知らぬまま、「せんせぇ。これはなんですか? どういう風にするのですか? しーらに教えてください」と言うんだ」


「お前!! シーラ様の一人称は「私」だ! 二度と間違えるな! くそ野郎!!」


「極刑モノだぞ!! 派閥は関係なくな!!」


「自分の欲望でシーラ様を歪めやがって、学園から永久に追放してやろうか!」


「お前の代わりに教師となりたい奴はいくらでもいるんだからな!」


「わ、悪かった。追放だけは許してくれ。シーラ様の傍から離れる事などもはや私には出来んのだ」


「フン。二度目は無いからな」


「どういう思想を持とうが構わないが、絶対に踏み越えてはいけないラインはよく覚えておけ」


「あ、あぁ」


私は必死に頭を下げる愚か者を見下しながら、苛立つ心を何とか抑える。


しょうもない奴だ。


純粋無垢派の品格を下げるような真似は絶対に許されない。


魂に刻んでもらいたいものだ。


そう。幼子にすればよいという物ではないのだ。


見た目は幼い、心もそれなりに幼い。しかし、自分は色々と知っているつもりなシーラ様が素晴らしいのだ。


ただ幼い事が良いのなら、幼子など、どこにでもいる。


シーラ様だけの魅力を見つけ出す事が素晴らしいのだ。


よく理解してもらいたいものだな。


「話が逸れたが、シーラ様ラインについて、話そうか」


「無論、キスまでだろう」


「いや、ハグも良いのではないか? シーラ様がわざわざ伝えに来るほどだ」


「そもそもハグよりもキスの方が上では?」


「バカ者。シーラ様がわざわざ言いに来たという事に意味を感じろ。普通のハグでは無いだろう。つまり衣類ははだけている状態と考える」


「それは考え過ぎなのではないか? シーラ様の中で、キスよりハグの方がより上位だと考えた可能性もある」


「まさか! それではまるでシーラ様にとってキスが大した事では無いようではないか! 既に経験済みだとでも申すか! 貴様!!」


「そうは言っておらん。ただの可能性の話だ」


「しかし、シーラ様は孤児院で子供を寝かせる時に額へのキスをすると聞いたことがあるぞ」


「それと勘違いしている可能性があるという事か?」


「冷静になれ。シーラ様は口と口が触れ合う行為と言っていた。つまり通常のキスであると考える」


「ならば……!!」


結局議論は白熱し、シーラ様ラインを決定するまでに一晩掛かってしまった。


が、満足いくものが出来たと我々は考え、学園内における風紀規定。シーラ様ラインが決定するのだった。

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愛され転生エルフの救済日記 とーふ(代理)カナタ @to-hu_kanata

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