第12話『エルフいじめ』

王城から孤児院へと住処を移動し、子供たちと子供たちをお世話してくれている元アイヴィのメイドさんたちを養うべく、私は冒険者組合へと登録した訳だが。


現状としては、なんともうーんな状況であった。


その理由としては主に冒険者組合という組織にある。


冒険者組合の仕事は基本的に、国や地方自治体……あー、冒険者組合の支部が配置されている町や村なんかだね。


その町や村の管理団体や国が出している依頼は公的依頼。


そして、個人の依頼主が出している依頼が個人依頼になっている。


依頼は全部冒険者組合で管理していて、適した人物に割り振られていく形になっているんだけど。


その適した人物っていうのを判断するのが個人個人に与えられた冒険者ランクってやつだ。


まぁ、前世で言うところの役職みたいなモンかな。


だから冒険者組合側は機械的に私情を挟まず、淡々と冒険者のランクだけを見て、どんな仕事があるか提案していく事になる。


ハズなのだ。


ハズなのだけれど。


「たのもー!」


「し、シーラ様! よくおいでくださいました!」


「今日はお仕事を貰いに来ました」


「お仕事ですね! 少々お待ちください! すぐに一覧を用意させていただきます!!」


「はい」


私は何故か半ば無理やり案内されたソファーの上に座り、何故か当たり前の様に出されたお茶を飲む。


以前、こういう扱いは困ると言ったのだが、私を待たせているという状況に耐えられずに倒れる冒険者組合職員もいるとの事で、仕方なくくつろいでいますよ。という空気を全開で出すことにしたのだ。


けれど、大丈夫かな。


他の冒険者さんに、アイツ、何様だよ。とか思われてないかな。


不安だ……。


「お待たせしました! シーラ様!!」


「いえ。全然待ってませんよ」


「ありがたきお言葉……! では、早速ですが、こちらが依頼になります」


「ありがとうございます。では確認させていただきますね」


私は依頼内容をまとめたファイルを一ページ一ページめくりながら確認してゆく。


特定植物の採取依頼。


私たちがいる町のすぐ近くで採取できる植物。……ふむ。


特定鉱石の採取依頼。


私たちが住んでいる町からは少し外れているが、安全な街道を進んだ先にある鉱山でちょっと掘ればすぐに出てくる鉱石。……ふむ。


ある貴族家の令嬢の話し相手。


令嬢は高い魔力を持っているため、万が一の事を考えてエルフの女性が望ましい。また令嬢の事を考えると幼い方が最適と思われる。……随分と範囲の狭い依頼だな。エルフなんてあんまりいないと思うけど。


まぁ良いか。色々と考えはあるんだろうし。


私はペラペラとページをめくってゆき、最後のページまで見終わってから、ファイルを渡してきた冒険者組合のお姉さんに視線を向けた。


「あのー」


「な、何か問題でもございましたか?」


笑顔が引きつっている。


なんか無理矢理笑顔を作っています。という感じだ。


その姿に少し申し訳なさを感じるが、言わない訳にもいかないし、なるべく柔らかい言い方で言おう。


「そのですね。魔物の討伐依頼は無いのでしょうか?」


やけに静まり返った冒険者組合の建物で、私の声は静かに響いていたが、私の言葉が終わるや否や。急にざわざわとし始めた。


何? いじめ? 泣くけど。恥も外聞もなく、泣くけど?


「と、とう、討伐の、依頼でございますか!? もしや、どこかで魔物に襲われたとか、そういう事でもございましたか!?」


「あ、いえ。私が依頼をしたい訳ではなく、私が依頼を受けたいのです」


「組合としましては! 日夜魔物の討伐には力を入れておりまして! シーラ様のお手を煩わせることなく、人類の安全圏確保に日々努めております! はい!!」


「そ、そうですか」


気合たっぷりで、必死に訴えてきたお姉さんに私はただ頷いた。


うーん。


話がうまく伝えられない。


どうしたものかな。


「えっとですね。実は私、お金が沢山欲しいんです」


「分かりました。少々お待ちください。すぐに私の全財産を用意してまいります」


「要らないです! 要らないですから!!」


私は訳の分からないことを言って、私の前から立ち上がろうとしたお姉さんの手を掴んで暴走を止める。


そして再びソファーに座ってもらいながら話を続けた。


「別に私は、ゆすりたかりがしたい訳では無くてですね。お仕事でお金が欲しいわけです」


「あぁ、そういう事でしたか。ではこちらのある貴族家のご令嬢の話し相手というのがオススメです。年間契約もありますし。ただお話をするだけで、お金が入ります! 安全で、お金もいっぱい。どうでしょうか?」


「それはそれで良いと思うのですが、どうせなら人の役に立ちたいじゃないですか。魔物被害は減っていない訳ですし」


「シーラ様……! なんとお優しい!」


「という訳で、魔物の討伐依頼を下さい。特に危険な魔物の」


「ございません」


「一件も?」


「一件も」


先ほどまで感動していたお姉さんは私が魔物討伐の依頼をくれと言った瞬間にスンとした顔になり、ただ黙って首を振る。


何も無いと。


そんな訳がない。


私は、お姉さんから視線を外し、冒険者組合の中で武器を携帯し、さらに依頼書を持っている人間を探して、その人のすぐ近くへ転移した。


「いけない!!」


「っ!?」


「突然の転移申し訳ございません。お願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」


「な、なんでしょうか?」


「そちらの依頼書。見せていただいてもよろしいですか?」


「そ、それは」


「守秘義務!!!」


「そ、そう! 守秘義務がございますので……」


どこからか聞こえてきた声に、冒険者であろうお兄さんはたどたどしく笑う。


どうあっても依頼書を見せるつもりは無いようだ。


「別に依頼主や内容を見るつもりはありません。ただ種類を見たいだけなのです」


「こ、この依頼は……」


「ダン! 採取よ。採取って言いなさい」


「っ! そ、そう! 採取の依頼ですよ! ハハハ。町を出てすぐの所にある森で薬草の元になる植物を採取する仕事です! いやー。薬草はいくらあっても足りませんからね! シーラ様もどうでしょうか? こちらの依頼。とても大切な依頼ですよ」


「むー」


お兄さんの後ろにいたお姉さんが後ろから助言をしたせいで、誤魔化されてしまった。


むー。とお姉さんに視線を向けるも、口笛を吹きながら顔を逸らしてしまう。


いじめだ。いじめが横行している! この冒険者組合では!


しかし、証拠がない。


私は悔しい思いをしながらも、渋々お姉さんのところへ戻る……フリをして、お兄さんの依頼書が見えるであろう空中に転移した。


「ちら?」


「うぉぉぉおおお!!」


しかし、お兄さんは凄い反射神経で依頼書を体で隠すと、壁まで飛び、背中を壁に付けて、私を警戒するのだった。


徹底している。


ここまでやるか。


しょうがない。今日も植物の採取をやるか。


ついでに、適当な魔物を倒してお肉も追加しておこう。


私はため息を吐いてソファーに戻ると、お姉さんから依頼を受け取った。


「ちなみに、今回の依頼も子供たちと一緒に行きたいのですが、大丈夫ですか?」


「はい! 問題ありません!! 安全確保の為に、手の空いている冒険者を護衛として……」


「要りません。要りません。依頼料は払えませんし。危険な場所へは行きませんから」


「そうですか。承知いたしました。では、安全をお祈りしております」


「いや、町のすぐそこですから」


私は大げさなお姉さんに苦笑しながら依頼を受け、孤児院へと戻るのだった。




さて、今日もお仕事してゆきますかー。

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