第4話『魔法革命』

何とも分からない事ではあるのだけれど、オリヴァー君と騎士団長のジェイクさんの模擬戦をする事になった。


意味が分からない。


が、まぁ私がどうこう言う問題でも無いだろう。


「シーラ様はどの様に見ますか」


「見る、というのは」


「どちらが勝つとか、負けるとか」


「あぁ、そういう話ですか。それであれば、騎士団長さんが勝つと思います」


「「「えぇ!?」」」


いや、何驚いてるの?


冷静に考えて子供が大人に勝てる訳無いでしょ。


いくらオリヴァー君が強くてもさ。まだ10歳だよ?


ジェイクさんは誰よりも強いから騎士団長をやっているっていう話だし、王国で一番強い人とまだ子供じゃ勝負にならないよ。


「……始まりますね」


しかし、私は一応頑張る少年を見守ろうと、オリヴァー君の戦いへと視線と意識を向けた。


とは言っても、その戦いはそれほど長く続かなかった。


オリヴァー君がどれだけ速く地を駆けても、ジェイクさんはそれを容易く受け流してしまうのだ。


それは真実、大人と子供の戦いであった。


だから、オリヴァー君はジェイクさんに殆どダメージを与えられず、やがてボロボロになって、地面に仰向けで倒れて動かなくなってしまうのだった。


「……終わりましたか」


私は戦いが終わったことを確認し、意識を失っているオリヴァー君の元へと向かい、チャキチャキと傷の手当をする。


「シーラ様」


「はい。なんでしょうか? ジェイクさん」


「私の力は御覧になりましたか?」


「えぇ」


「どうでしょうか? まだその小僧の方が良いと仰いますか?」


「えぇ。当然です。それは変わりませんよ」


「っ! な、何故ですか!? 私の方が強い事が証明されたというのに!」


「そんなもの。戦う前から分かっていた事でしょう」


「……」


「ジェイクさん。貴方は何のために騎士となり、騎士団長となられたのですか? 私の様なちっぽけな小娘を護る名誉を得る為ですか? それとも、民を護る使命を果たす為ですか? 貴方は何を求めて、その手に剣を握られたのですか?」


「……シーラ様」


「なんて、偉そうに言える程の存在では無いですが、ジェイクさんの大きな手で護るのが私だけなんて勿体ないですよ。これまでと同じ様に民を護って下さい。そして、願わくば私がこの国でお世話になっている間は、民の皆さんと同じ様に護って下さると嬉しいです。なんて、ちょっと図々しかったですかね」


「いえ。その様な事はありませんよ。シーラ様」


ジェイクさんは先ほどまでの険しい顔とは違い、憑き物が落ちたような顔で笑い、私の前で右手を握りしめた。


力強い頼もしい姿だ。


とりあえず、この国に居る間は安心出来そうである。




オリヴァー君はジェイクさんに敗北してから数日後、ジェイクさんに弟子入りする事になり、私は完全にやる事がなくなってしまった。


さてどうするべきか。


考えた末に、とりあえず人間の世界の歴史を勉強するかと書庫へ案内して貰い、本を読み漁っていた。


至福の時間である。


いや、時間であった。


何故なら、魔法師団なる人たちに書庫で本を読み漁っていた私は攫われてしまったからだ!


誘拐は犯罪です。良い子は止めましょう。


「……はぁ、はぁ。こ、この方が本物の、シーラ様」


息が荒い。


顔を近づけないで欲しい。


というかお風呂に入って欲しい。


私は怪しげなオジサンたちに囲まれるという状況に限界を感じて、水の魔法をオジサンAに向かって打ち込み、全身を洗浄しようとした。


しかし、オジサンは実験用のゴーグルを付けると、何やら腕を動かして私の魔法を消してしまった。


「なっ!?」


「ふ、ふふ。実験は成功だ!」


「素晴らしい! あのエルフの魔法をかき消したぞ!」


私は興奮しているオジサンたちの隙を突いて、テーブルの上に置いてあったゴーグルを手に取った。


そして、それをすぐに付けようとして……みたが、やっぱりちょっと嫌だったため、水の魔法で洗浄する。


二度三度と洗い流してから私は風の魔法で乾かして顔に付けた。


「これ……? なに?」


ゴーグルから見える景色には謎の枠が存在していて、その周囲を多分魔力だと思うのだけれど、楕円形の何かが飛んでいる。


しかもそれらは二つずつくっ付いていて、それぞれ色の違う魔力が結合している様だった。


私はゴーグルから見える景色を気にしながら魔法を使おうとしたのだが、私が魔法を使おうとするのに合わせて周囲から楕円形の魔力が中央の枠に集まってきたのだ。


上の空いた隙間からふよふよと下に向かって降りている。


なんだ、これ……なんか酷く見た事がある様な気がする。


何だっけ!?


「っ!」


私は分からないまま、記憶の片隅にある何かに従って、意識だけでその結合された魔力を枠の一番下に送った。


ふよん、と魔力の結合体が揺れたのを見て、私は何かが頭に響くのを感じたが、とりあえずはその何かを無視して本能のままに魔力を動かした。


そして、四つの同じ色が揃った瞬間、私の魔法が発動して、オジサンの一人を水の魔法で吹き飛ばした。


「おぉ! 既に使いこなしておられる!」


「これがエルフの実力か!」


「では、私が真の魔法闘争を教えてあげましょう! さぁ! シーラ様!」


「魔法闘争?」


「そうです! シーラ様! かつて魔法とはただ純粋に魔力保有量や、如何に相手の隙を突くかが重要でした! しかし、現代! 全てが変わりました! そう! 魔法を使った闘争は如何に相手の魔法を妨害しつつ己の魔法を通すかという形に変わったのです! そして、このゴーグルはそれを可視化したもの!」


私はオジサンの話を聞きながら、ゴーグルの向こうに見える景色に意識を向けた。


「シーラ様から見て、左目から見えるのが貴女の枠! そして右側が私の枠となります! この枠内に魔力を収め、発動する! ここまでは先ほど既にシーラ様が行った通りです! しかし、ここからが違う! さぁ、先ほどと同じ様に魔法を発動させて下さい!」


私はオジサンに言われるままに、左目から見える枠に魔力を積み重ね、四つの魔力を消して魔法を発動させようとした。


しかし、発動しない。


「……?」


「お気づきですね? そう。魔法闘争が始まった場合、相手が魔法を組み立てているのなら、自分だけが魔法を発動させる事は出来ないのです! 相手が魔法を発動し続けている限り、己の魔法は発動出来ません! つまり、魔法を発動する為には」


「相手が魔法を発動出来ない状態にする」


「その通りです! ではここからは実践だ!」


私が発動しようと貯めた魔力が、無色の魔力結合となって、オジサンの枠に落ちた。


「これは邪魔力! これが積もってしまえば、私の魔法は失敗します! さぁ、魔法闘争の始まりです!」


オジサンの言葉を合図として、互いの枠に魔力の結合体が降りてきた。


そして、その瞬間、私は既視感の正体を思い出すのだった。


これ! ぷ○ぷよじゃん!!


ま、魔法の正体はぷよ○よだったのか。


「ふむ、初心者のシーラ様がどこまでやれるか」


「見ものですな」


私は見物人であるオジサンたちの声を聞きながら、笑みを深めた。


初心者?


舐めないで貰いたい。


私は小学生時代、町内で最強と呼ばれた女!


積みの速さ! そして、連鎖の完璧さは誰にも負けた事がない!!


「こ、これは!?」


「何が起こっているんだ!? 何故、消さない! 増やしている? 何を狙っているんだ」


「魔法闘争が理解出来ていないのか?」


「いや、違う! これは!」


これが積みゲーである以上、連鎖に価値はある筈だ。


という訳で、私は最大まで積み、それを解き放った!!


「っ!? この魔力量は……!」


「いけない! シーラ様! 矛先は窓へ!」


私はオジサンの一人に言われ、咄嗟に魔法の放つ先をオジサンから、窓の外へと向けた。


次の瞬間、窓枠ごと窓が全て破壊されて、空で水の塊が破裂する。


それは大雨となって、地面に降り注ぐのだった。


「……こんな」


「驚きましたか? これが魔法闘争。勝った者は相手の魔力も上乗せし、さらに倍増させて爆発させるのです!」


私は狂喜乱舞している人たちを見ながら、人間って怖いなと心の底から思うのだった。

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