第3話『王都は良い所。みんなおいで』
オリヴァー君と話をしていて、気づいたのだが。
冷静に考えて、オリヴァー君が冒険者組合を作ったのだから、まだ彼が10歳の時点で存在する筈がない訳だ。
まさか、まだ冒険者組合が無いとは、このシーラの目をもってしても読めなかった!!
しかし、無い以上はしょうがない。
冒険者組合が出来るまで、待つしかあるまい。
いつ出来るのか知らないけど。
うーん。そう考えると、オリヴァー君と一緒に居る方が良いかな。
「オリヴァー君」
「はい。なんでしょうか。シーラ様」
「あの。私の事はシーラで大丈夫ですよ。別に凄い人では無いですし」
「……でも、エルフなんですよね?」
「えぇ。それはそうですが」
「しかし、シーラ様は特別扱いの様な事はされたくないと」
「はい」
「……分かりました。そうシーラ様がお望みという事でしたら」
「はい! お望みです! 敬語とかも要らないです!」
何とも微妙そうな顔だったが、とりあえず頷いてくれたしオッケーだろう。
というか、エルフだとなんかあるのだろうか?
うーん。
でも、ゲームにそういう話は無かったし、エルフの里にも何も記録は無かったんだよなぁ。
なら、オリヴァー君が特別エルフの事が好きだったという事かもしれないな。
そうだね。そう思うとしっくりくるわ。
うむうむ。
「という訳で、改めてオリヴァー君。先ほどのお願いとは別にお願いがあるのですが、良いでしょうか?」
「はい。……っと、あぁ、大丈夫、だよ?」
何かぎこちないけど、無理言ってるんだし、あんまり気にしないようにしよう。
「先ほどのお願いですが、一度なしでお願いします。いつかオリヴァー君が作った時には、またお願いしたいですが」
「……はい」
「ですので、代わりに別のお願いがありまして……その、ですね」
「……」
「っ! オリヴァー君と一緒に行動させて頂けないでしょうか?」
「……」
無。虚無である。
驚きの虚無空間。
何か言ってくれぇ……!
無言が一番辛いねん!
「シーラ様……いえ、シーラは、この世界をどういう風に考えているんでしょうか?」
「どういう風に、ですか。そうですねぇ。出来る事なら、変えたいと願っていますよ。より多くの子供たちが笑って過ごせる様にと」
「その為に、俺と共に行動したいと」
「えぇ。そうですね」
冒険者組合がいつ結成されるか分からない以上、付いていくのが一番無難よね。
うん。
まぁ、オリヴァー君って『春風に囁く恋の詩』シリーズの中でも結構な強キャラだし。
一緒に居る方が安全って話もある。
オリヴァー君の剣技と私の魔法で、最強の二人! って感じで良いんじゃないかな。
「……分かりました。いや、分かった。まだまだ未熟なこの身だが、必ずや貴女の剣として相応しい者となろう。そして願わくば、この身、尽き果てるまで、共に」
「えと、あの、こちらこそ?」
何か難しい事をバァー! っと言われたけど、まぁ要するに一緒に居てくれるって事だよね?
よしよし。
「じゃあ、これから……」
「そうと決まればすぐにでも王都へ行きましょう」
「へ?」
「魔狼は危険……だが、逆にエルフである事への証明にもなるか。シーラ」
「は、はい!」
「魔狼が人間を襲わない様にする事は可能か?」
「えぇ、出来ますよ」
私は狼君の首をワシワシしながら、「おーよしよし。人間は襲っちゃ駄目だよ」と言い聞かせる。
狼君は何度も分かった分かったと頷きながら体を震わせていた。
んー。可愛い。
「……問題は無さそうですね。では、王都へ」
「はい。そうですね」
何か急展開で色々決まっていくけれど、まぁ良かろ。
王都って事は色々と情報も集まってるだろうし。
という訳で、いざ王都へ!
そうだ。王都へ行こう。
と、意気揚々と向かったのは良いのだけれど。
あれよあれよという間に、王都へ着いた私たちは、何も分からぬまま王城へと案内されて、気が付けば何やら偉い人達を集めての会議に参加させられていた。
いや、私だってね? 最初は断ろうとしたよ?
でもさ。私が参加しようかな。どうしようかな。みたいな雰囲気を出してたら、王様たちが「え? コイツ、マジで出ないの? マジで?」みたいな顔してたんだもん!
出るしか無いじゃん!
結果として、なんか良く分からない国名とか地域とか人の名前とか、多分その地方の風習とか宗教とかの話を絡めた会議に参加させられているという訳なのだけれども。
正直何も分からん。
ルシのパルスのファルシのパージでコクーン、って感じだ。
エルフの里でこの世界の言語はある程度習得したけれど、言語をいくら使える様になっても、文化とか歴史とかそういうのも理解しないと何も分からないんだな。とよく理解出来た。
「……シーラ様」
「っ!? は、はい!」
「シーラ様のご意見をお伺いしたい」
「え、えと……あの、申し訳ございません。私、エルフの里から出てきたばかりで、世界の事はよく分かっていなくて」
「そうですか」
「は、はひ」
「ふむ。これは本件とは関係ない話なのですが、エルフの里はどの様な場所なのでしょうか。シーラ様以外にもエルフの方はいらっしゃったのですよね?」
「え、えぇ。姉の様な親の様な方ばかりでしたが、居ました」
「その方との交流はどの様に?」
「い、え、っと、普通に?」
「普通、ですか」
「はい。普通です」
「料理などは、どの様な物を」
「えと、エルフ料理を少々」
「エルフ料理、ですか。それはどの様な物なのでしょうか」
「え、えぇーっと、そのオフチョベットしたテフをマブガッドしてリットして、最終的に焼く感じで」
「……なるほど」
大臣さんっぽい人からの質問を何とかかわし、私は再びニコニコ笑うお人形さんになって会議を静かに眺めるのだった。
マジで許して欲しい。
この世界の事は何でも知ってるつもりになってたけど、分からない事だらけなのよ。
だから何を言われても、そうですね。って言うぞ。
イエス。イエス。イエス。
君が思うよりも、きっと私はイエスマン。
「ふむ。やはり伝説というのは当てにならないものですな」
「おい。止めないか」
「別にバカにしている訳ではありませんよ。こうして同じ部屋にいるだけで感じる魔力は本物だ。しかし、まだ幼い。まぁ奇跡の様に生まれた存在であれば、それも致し方ない事なのかもしれませんが。しかし、だからこそ、彼女を護る騎士はそれ相応の人間でなくてはならないでしょう。でなければこの奇跡に唾を吐く事になる」
「何が言いたい。騎士団長」
「つまりはこういう事です。確かに人の世を救済する為にシーラ様は現れたが、騎士として、この少年を選んだのは、ただの偶然。そこに居たからというだけだ。でなければ、このような貧弱な小僧を選ぶ筈がない。だから騎士は……」
「それは違います」
私はイエスマン。どこでも何でもイエスと言うよ。
でもね。それはよく分からない事だけだ。
だから、私の言葉に会議室が静まり返っても、オリヴァー君とその正面で彼をバカにしているおじさんが目を見開いて私を見ていても。
私は自分の発言を撤回したりはしない。
だって、オリヴァー君が貧弱だなんて、そんな事はあり得ないのだから。
「オリヴァー君は将来、この世界の誰よりも強くなります。その未来に揺らぎはありません」
「……っ!」
攻略対象でもないのに、魔王とタイマン出来る本物の英雄だぞ。
名前も聞いたこと無いようなモブがオリヴァー君の強さを語るなよ。
ド ン !
私は自分へ向けられる視線など気にもせずに笑うのだった。
ところでさ。これって今、何の話してるの?
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