なろう系が好きなオタクがまさかの異世界召喚!だけどこれって……俺YOEEEEEEEEじゃね?

亜麻色ひかげ

第1話 異世界召喚は大変です

 俺は先月、高校生になった藍堂俊あいどうしゅん。クラスでは既に幾つかのグループパーティーが出来ているようだが、俺は未だにぼっちソロである。


 俺は教室の隅で一人、ウェブで公開されている、なろう系と呼ばれる作品を読む。なろう系というのは、ある小説投稿サイトの小説の事であったが、今となっては異世界転生や異世界召喚など異世界ジャンルの総称となっている。その中でも特に俺が好きなのは、俺TUEEEEEEと呼ばれるジャンルだ。俺TUEEEEEEとはその名の通り、主人公がチート級でハーレムを築く作品だ。最初から最強クラスの作品もあるが、成り上がりといって、最初は最弱だったが後に最強になる作品も好きだ。とにかく、俺は主人公が強い作品を好んで読んでいた。


 退屈な授業も終わり、部活にも入っていない俺は、いつものように一人下校していた。


 その時だった……


 辺りが急に眩しくなったと思えば、俺は体が浮き上がる感触と共に、感じたことのない感覚に苛まれた。痛みでは無い、だが気持ちの良いものでもない。言葉に表せない感覚と共に目を開けると、そこには異世界召喚モノでのお決まりの城のような場所が広がっていた。


「これってもしかして、もしかすると!ステータス!……ステータス!……ステータス!」


 ステータスと言うことで自分のステータスが見られるというアレだ。アレを試すしか無いと思い連呼してみるが、ステータスの画面すら、俺の目には映らない。この世界でのステータスを見る魔法は『ステータス』では無いのか。お決まりの最強数値が並ぶアレを見たかったのだが、今は我慢だ。ここら辺で王女みたいのが、俺の事を祝福し、この世界で起こっていることを事細かく話してくれるだろう。


「#*(@;%-¥@」

「は?」

「#(」;/@……」


 おいおい、異世界召喚お決まりの異世界言語習得は?普通あるでしょ、異世界に来たら何故かくっついてくるあのスキル!とりあえず、王女らしき人物の顔色から察するとあまり歓迎はされていないようだ。どちらかと言えば困惑?に近いだろうか。眉をひそめて、俺の事を凝視している。俺が座る床には魔法陣らしきものがあり、王女らしき人物もその魔法陣の上に乗っている。


「あれ?王女様?俺もしかして巻き込まれ系ですか?」


 俺以外の召喚者が居て俺が巻き込まれてしまったというパターンだ。この手の場合、最弱スキルに見えて実は最強という王道ストーリーがある。俺は周囲を見渡すが、俺のような召喚者は居ないようだ。


「@)-#¥^;」


 王女らしき人物は、俺に頭を下げるとどこからか出したお金を渡した。小さな袋からは出てこない量のお金。俗にいうマジックバッグというやつだろう。そしてお金を渡してまた深くお辞儀をした。謝っているのだろうか。顔色からして挨拶や感謝の意では無い。九十度の深いお辞儀、つまり誠心誠意の謝罪だ。そしてこれは慰謝料という感じか?


「お、おい、元の世界もそこまで面白くなかったけど、言葉通じない世界でどうしろって言うんだよ!せめてステータスだけ、ステータスだけでも確認させ……」

「!!<#%!#$!&、あーあ、聞こえますでしょうか?異世界から来た方」


 すると、王女らしき人物が何やらメガホンのような形をしたモノを手に取る。これで一方的ではあるが言葉が通じるようになったようだ。流石は異世界、なんでも魔法で出来るということか。まぁ、現実にも似たようなものはあるが。


「えーっと、端的に申し上げますと、手違いです。本来なら私が異世界に行き、異世界の技術を盗……得る予定でした。ですが何故か異世界に行くのではなく異世界から人間を召喚してしまったのです。先ほど渡したお金は口止め料とこの世界で生きていけるだけのお金が入っています」


 俺はその場で立ち上がり、王女の持つメガホンを奪い取る。こっちは聞きたいことが山ほどあるんだ。これを使えば話せるのだろう!


「俺のステータスはどうなっている?魔法の適正は?スキルは?」


 王女は俺からメガホンを強引に取るとその質問に答えるかのように言った。


「もしかして魔法のある世界から来たのですか?異世界に行ったところでステータスに変化はありませんよ。そもそも人間は遺伝情報を元に様々なことが決定付けられています。急に魔法適性が上がるわけないでしょう?こんなの義務教育ですよ、義務教育!」


 いや、確かにそうだが、人間というのは細胞の集合体だ。故に遺伝情報が全てである。急に異世界に飛ばされたところで魔法が使えない人間が使えるわけないし、急に謎のスキルを得れるはずがない。異世界召喚というファンタジーじみた世界で、ただの現実を突き詰められても、俺には何も答えることが出来なかった。


「言葉が通じないのも不便かもしれないけど、私が異世界に行けるようになった暁には、必ず戻してあげるから、それまでそのお金で何とか生きてなさいよ」


 王女はそう言ってメガホンをしまうと、俺に再び頭を下げた。悪い人ではないのだろうが、お金で解決された感が否めない。心に靄を抱えながら、俺は一人寂しく城をあとにするのだった。

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なろう系が好きなオタクがまさかの異世界召喚!だけどこれって……俺YOEEEEEEEEじゃね? 亜麻色ひかげ @Amairo_hikage

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