第26話 義母と嫁


 誰もが、カリアナはすぐに見つかると思っていた。だが、その考えに反してカリアナは見つかることはなかった。


 元貴族も女性が、いつまでも一人で隠れ続けることなど出来ない。協力者がいるに違いなかった。


 どのように協力者を得たのかは、考えなくとも分かる。きっと看守の時と同じだ。


 そこまで落ちてもカリアナは、自分勝手な復讐を望んでいるのだろうか。


 牢屋の暮らしが嫌で、なんとしてでも逃げようとしているのではないだろうか。


 いや、これはイゼルがそうあって欲しいと願っているだけだろう。


 ユアには全てを話して、気をつけるようにしてもらっている。現状では、イゼルが出来ることはこれぐらいだ。


「まったく、これだから男というのは!」


 婚約式が数日に迫る中で、イゼルの母であるテラジアが屋敷に帰ってきた。領地の方は信用できる部下にまかせてきたということだ。


 テラジアは帰ってきて早々に、一人息子の婚約式の準備が穴だらけであることを怒り出した。


「司祭様へのお礼の準備やいらっしゃるお客様へのお礼のお手紙は用意したの!それに花の手配もよ。夜は屋敷でパーティーなんですから、そっちの準備も並行して進めなさい!!」


 びしばしと指示を飛ばすテラジアを筆頭に、婚約式の準備はにわかに忙しくなった。


 テラジアが出席するのならばいいかと息子のハレの日にまで仕事を入れようとしたセシラムは、妻に声も荒く怒られている。


 母の帰還は息子としては嬉しいが、会うたびに鬼上司という言葉がぴったりになっていくような気がする。


 頼もしくて頼りになるテラジアは、あっという間にイゼルたちの婚約式の準備を終わらせてしまった。


 そして、イゼルが緊張したのがユアとの顔合わせである。


 テラジアには事前にユアの家族が協力的ではないことを伝えていたが、彼女は「一生に一度の婚約式を何だと思っているのかしら!」と怒っていた。


 その怒りが、ユアに向かうことをイゼルは恐れていたのだ。結果としては、心配は杞憂だった。


 ユアとテラジアが、意気投合していたのである。


 思えばユアは飢餓をなくす為に奮闘し、テラジアは領主代行として忙しくしている。彼女はたちは多くの部分が似ており、そして揺るぎない自分を持っていた。


「私は父と好みが似ているのだろうか」


 和やかにお茶を飲むテラジアとユアの姿に、イゼルは引きつった笑みを浮かべる。二人のタイプが似ているのは、偶然だと思いたい。


 それに、将来の母と義理の娘が仲睦まじいことは良いことのはずだ


「是非ともテラジア様が治める領地に行ってみたいです」


 そんなことをユアが言うものだから、テラジアはすっかりその気になってしまった。


「いいわよ。婚約式が終わったら、家の領地に遊びにいらっしゃい。イゼルもちゃんと休みを取るのよ!」


 そのようにテラジアは言うが、あの職場で領地に行くような長期の休みが取れるだろうか。イゼルは、とても心配になった。


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