第18話 戦い済んで連れ去られ
上空を覆うようだった火球をかき消されて、私の方も体から力が抜けた。
フラッと倒れ込みそうになる私の体を優しく受け止めてくれるガッチリした大きな体。
「そ、そんな……グレイン理事長が……」
腰が抜けたように倒れ込んだ状態のメルヴィンがグレインを指さして震えている。
「この勝負、ミーヤ・キャンベルの勝利とする!」
グレインが大きな声で皆に告げると、アリスティアが駆け寄ってきた。
「バカ、ミーヤのバカ! こんなに火傷するまで戦って……」
そういうとレッサーヒールをかけてくれる。黒焦げだった皮膚表面がみるみる元の色を取り戻していく。
痛みも一瞬で消えるし。猫の体は痛みを感じにくいらしいけど、人間に変身しているときの私は内臓も含めて限りなく人間になっているので(そうじゃなくちゃ玉ねぎ入りスープも飲めない)痛いものは痛い。
グレインは私の頬を撫でてくれる。ひんやりした手が決闘で熱くなった体に心地いい。
「よく頑張ったけど、ミーヤが私の弟子にあたるからって誰にも負けない努力なんてする必要はないからな。私の名前なんて弟子の命の前では何の意味もないからな」
うわぁ……自称弟子だったのにアリスティアにも聞こえる距離で私のことを弟子って認める発言しちゃってるし。
「ミーヤ・キャンベルがグレイン理事長の弟子……」
メルヴィンが絶句している。気付いたアリスティアがメルヴィンにも駆け寄ってレッサーヒールをかけてあげている。
どっちかって言うと精神的ショックだろうから、そういうの用の回復魔法ってあるのかな? ゲームにはなかったけど。
「メルヴィンの傷まで治療してくれてありがとう。心配かけてごめんね」
私がアリスティアにお礼を言うのを見て、メルヴィンが呆然としている。
そういえば入学二日で大暴走とかやらかしちゃったけど停学とか退学にならないかなぁ……ちょっと不安になる。
「大丈夫だ、ミーヤも
グレインが私の頭をポンポンしてくれる。グレインは相手の性格に合わせて指導しているよね。チョロインの私向け! って違うから!!
「ほら、メルヴィン。正直私の負けだと思ったよ。私ももっと頑張るからこれからはいろいろ教えてね」
そう言ってまだ尻もちをついているメルヴィンに治癒して貰ったばかりの右手を差し出す。メルヴィンが私の手をギュッと握ったので引っ張って起こしてあげる。
「僕も自分の未熟を悟った。まさか宮廷魔術師の弟子だとは思わなかったけど……これからはいろいろと切磋琢磨させてくれ」
なんとなくメルヴィンの顔が赤いけど超巨大なファイアボールの輻射熱で体が熱くなったのかな?
メルヴィンを助け起こしたところで後ろからグレインのマントで包み込まれるようにして姿を隠される。
「では、学生の諸君。俺はこの後、暴走した不肖の弟子を弟子に二度と暴走しないように説教することにするから連れて行くよ。迷惑をかけたがこれからも魔術の研鑽に励んでくれ」
そういうと指をパチンと鳴らすとそこにあった私とグレインの姿は消えたのだった。
あとからアリスティアに聞いたけど、その場にいた女子生徒の黄色い悲鳴はびっくりするほど大きかったそうだ。
………
……
…
一瞬、周りの景色にノイズが走ったかと思うと次の瞬間目の前に広がるのは私がこの一ヵ月を過ごしてきたグレインの部屋だった。
瞬間移動で連れて帰られたグレインの部屋はたった二日間離れていただけなのに懐かしい匂いがした。
「美弥呼!」
そういうとグレインにギュッと抱きしめられる。急に帰ってきた私たちに驚くこともなく手をエプロンの前で重ねて直立不動のままの
「グレインさん……」
私も軽く手を回してぎゅっと抱きつく。太い木の幹のようなグレインの体……本当に魔術師なのになんでこんな筋肉質のいい体してるんだろう。
「魔封じのミサンガにかけておいた通報魔法が、ミサンガが切れたことを伝えて来たから慌てて駆け付けたけど……俺がどれだけ心配したか分かっているのか!」
「うう、ごめんなさい」
いや、私だってメルヴィンにあそこまで苦戦するとは思っていなかったし、まさか腕を焼かれるほどのダメージを受けるとは思わなかった。
「とりあえず、学園の訓練場の防護魔法を強化して攻撃魔法が命中してもダメージが肉体でなく精神力を削るように調整してみることにするから」
グレインに心配をかけたことにちょっとシュンとする。
「あと、俺の弟子だから誰にも負けちゃダメだなんてこれからは思うな! 逃げても負けてもいいから自分の体を第一に考えてくれ」
本当に返す言葉もありません。結果として勝ちを拾ったけど現実は私の完敗としか言いようがない勝負だったし……
「あと、最後の魔法は何だ! あんな使い方を教えた覚えはない……そもそも美弥呼は……」
私の魔法の使い方について説教が始まってしまった。うう……確かに全属性使えるはずなのに炎の魔術以外をまともに使いこなせないのは私の属性の相性もあるんだろうけど練習不足だから。
「メタモルフォーゼ」
小さく唱える。
ポンッと私の姿は一瞬で変わる。着ていた制服がバサッと落ちてグレインは黒猫になった私を抱いている。
「はぁ、ミヤコに変われば怒られないと思って……とにかく気を付けることいいな」
グレインの呆れ声さえ心地いい。
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