第19話 報告と盗撮と転生者の疑い
「メタモルフォーゼ」
ポンと猫になった私。黒猫ミヤコに変身です。
「はぁ、ミヤコに変われば怒られないと思って……とにかく気を付けることいいな」
こういう感じでグレインは実際に黒猫になったミヤコに甘い。
報告したいことも話したいこともいっぱいあるんだ、いつまでも説教されている場合じゃない。
『説教は後でいくらでも聞きますから! まずは報告させて下さい。多分ですけど新入生の中に転生者がいます!』
私の念話にグレインの表情が引き締まった。
最初の違和感はAクラスに悪役令嬢がいないことだった。『マジ・マリ』の悪役令嬢ベアトリーチェ・ジェロシアール。
ジェロシアール侯爵家の令嬢であるベアトリーチェは紫目の金髪たてロール、服もバリバリに改造した紫の制服とめちゃくちゃ目立つ生徒だった。
ゲームの中では婚約者であるシルヴァ王子をアリスティアに奪われて婚約破棄され、ルートによっては魔王に乗っ取られてラスボスになり、ルート次第では奴隷商に売られることさえあるという不遇の悪役令嬢だ。
その不遇っぷりに逆に人気が出て、ファンディスクでは悪役令嬢が攻略対象をクリアしていくという物語になっている。
あと、ゲームデザイナーが作った同人作品も出ていたみたい。グレイン推しの私はグレインがほぼ活躍しないファンディスクは購入しなかったし、同人作品は成人向け要素を含むとかで手に取ったことはない。
そのベアトリーチェが入学試験でBクラスだったのだ。
彼女は行動はともかく性格は堅物で真面目そのもの。Bクラスは落ちこぼれってわけじゃないけど、Aクラスに入れないはずないのだ。
原作のベアトリーチェはアリスティアに真面目に本当に心から心配して説教するようなキャラクターだ。
自由奔放というかキャラクターの行動次第では、天真爛漫で男を端から落としてしまうようなアリスティアに説教したり、行き過ぎて取り巻き含めて忖度でイジメの原因になってしまったりと同情する余地がある悪役であり、アリスティアがいなければ女子生徒のトップの成績はベアトリーチェのはずなのだ。
「つまり、ジェロシアール侯爵令嬢がAクラスにいないことから違和感を覚えたということだな」
『そうです。そのために私はクラス分けの時点から彼女の周りの動きに気を配っていました』
ベアトリーチェが成績がいいはずって部分の根拠はゲーム知識からではなくグレインから事前に貰った全生徒の素行調査書から類推したと伝えておいた。この世界がゲームだって言うのは伝えられないからね。
「他に気になることはあったのか?」
『はい、初日の入浴で大浴場に行った時のことです。私とアリスティアの二人で連れ立って湯船につかったのですが、湯船の中にこんなものがありました』
そういうと私はグレインに頼んで、首から下げていたポーチ(猫になったら肩からたすき掛けしたように変わって背中に背負う形になる)の中から小さな水晶を出して貰う。
「これはメモリークリスタル?」
『はい、お風呂でこっそり
覗き込むと水晶の中に映像が再生されるし、専用の投影機にセットすると映画のように壁に映写することができる。
簡易的な使い方としては覗き込んだら録画した映像を確認できる……んだけど。
「これは……」
グレインが真っ赤になって言葉を失ってクリスタルを覗き続けているので手を甘噛みしてから覗くのを止めさせる。
グレインもやっぱり男だからエッチな映像とかを見せたら止まらなくなるのかな?
『お風呂場の盗撮映像です。私たちの前に入っていたメンバーはその後すぐに食堂に行って確認しました。その中にベアトリーチェと取り巻き二人の姿もありました』
二人の名前はアネッタとベルタ。黒髪おさげのアネッタと金髪オカッパのベルタ。
この二人も貴族令嬢(男爵家と子爵家)だけど原作ではあくまでも取り巻きのポジションだ。
「ここまであからさまな盗撮が学内で行われた記憶はないな。確かにこのやり方はこの世界に元々いる人間では考え付かないやり方かもしれない」
『ターゲットがアリスティアなのか? それとも女生徒の裸を覗きたかっただけかは判断できなかったけど、アリスティアはこの世界では今までのところ悪目立ちしていません。現時点でターゲットにされる可能性は高くないと思います』
下手すると転生者(猫?)である私の方が
そんなこともあって食堂で絡んできたメルヴィンが転生者になにか吹き込まれて踊らされている可能性も含めて決闘を受けるしかなかった。
結果としては大惨事になっちゃうところでグレインのおかげで事なきを得たんだけどね。
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