第17話 初めての決闘(したいわけじゃない)
模擬戦を申し込まれてあっという間に当日の放課後になる。
今日の授業は一日集中できなかったよ。アリスティアと並んで授業を受けている私のことをずっと睨んでるメルヴィンの視線が痛かったし。
いやいやながらも訓練場にやってきた。模擬戦も訓練場で行う。
古代ローマのコロッセオほどじゃないけど周りは壁で囲まれてるし、結構ギャラリーが集まっちゃている。
昨日の申し込み方があまりに一方的だったから私は模擬戦のつもりだけど本当は決闘って噂が流れちゃってるし。
入学して間もないというのに「決闘」する一年生二人を見に上級性も来てる感じかな。
私は戸惑いつつもメルヴィンと一緒に訓練場中央に進むと決闘宣言をそれぞれ口にする。
ちゃんとした模擬戦ってこの宣言するんだけどもはや決闘だよこれ!?
「僕はメルヴィン・ハインド! 我が魔力と杖に誓い正々堂々と決闘に挑む者! 私に勝利を!」
「私はミーヤ・キャンベル! 我が魔力と杖に誓い正々堂々と決闘に挑む者! 私に勝利を!」
こっちに来る前に見てたロボットアニメみたいでちょっとテンションが上がるけどそんな場合じゃない。
審判は三年生の先輩だ。彼が手を振り下ろすと同時に模擬戦という名の決闘が始まる。
最初に私が杖に魔力を集めて放熱の火球を放つがメルヴィンの風の刃で相殺され受け流される。
「やるね、流石メルヴィン。主席入学者!」
「そっちこそ」
今度はメルヴィンが土の槍を放つ。私は炎の壁で防御する。
実は私はグレインの使える属性が全て使えるので白と黒以外の全属性が使えるはずなのだけど、入学までの1か月という期間では火属性をまともに使えるようにするのが精いっぱいだった。
魔力を持たない猫の時は逆に全属性使えるから、美弥呼という私個人の魔力が火属性に寄っちゃってるせいらしい。
「次はこっちから行く。ロックシュート!」
メルヴィンの土の球が魔法防壁の内側、私のすぐ足元から飛び出して私の顔面に襲い掛かる!
「きゃっ!」
私は体を捻ってメルヴィンのロックシュートを避ける(小さい頃からドッヂボールで避けるのだけは得意だった)と、メルヴィンの魔法を出した直後の硬直を狙い、炎の弾丸を連射する。
ドドドッ! ドガガガッ!!
私の炎の弾丸はメルヴィンの土の防壁で防御される。
土と火の属性の相性では私の方が有利だけど、魔力を込める速度が段違いだ……この辺は練度の差を感じる。
でも、これでも宮廷魔術師の弟子(自称)なんだから簡単に負けるわけにはいかない。
「今度はこっちから行くわよ。ファイアーウォールクロス!」
私の杖が音楽を指揮するように振られて二枚の炎の壁がメルヴィンの防壁を直撃する!
ドゴォーン!!!
土の防壁は砕け散り、その後ろにいたメルヴィンも一瞬炎に巻かれる。
勝った!?
次の瞬間、風魔法で自分の周囲に空気の層を作って熱を避けたメルヴィンがほぼ無傷で姿を現す。
やっぱり、「勝った!?」とか「やったか!!」とか思っても思っちゃダメだ! 相手が平気で姿を現すフラグだもん。
「本当に……凄い魔法制御力だな。でもこれで僕の勝ちだ!」
メルヴィンが右手を前方に突き出して特大級のファイアボールを放つ!
私も防壁で応戦したいが炎の防壁はより強力な火力には相性が悪い。巨大な火球はあっさりと私の炎の防壁を突き抜けてくる。
え? 魔法で負けるの? ちょっ! 私、死んじゃう!?
とっさに左に躱すけど右手を炎の渦に飲み込まれる。ドッヂボールとサイズが違いすぎるから!!
訓練場では命に係わるダメージは空間全体にかかった防御魔法で防がれるから掠ったダメージの方がむしろ大きかったりする。
「ミーヤさん!!」
心配してアリスティアが大声で叫んでいる。
右手が焦げてぶすぶすいってる気がするし……その瞬間、私の魔力が跳ね上がり全身の産毛と髪の毛が一瞬逆立ったような錯覚に襲われる。
プツンって切れる音を聞いた気がするんだよなぁ……もう仕方ない。ここまで来たら決着をつけよう。
「ファイアーボール!」
私は黒焦げのままの右手を振り下ろすようにして呪文を唱える。
「ん!? 不発か? 流石の君もその状態じゃ魔力を練りきらないのか?」
メルヴィンは私のファイアーボールが失敗だと思っている。
まだまだ余裕でいられるのは今の内だけだから! ファイアーボールは私の呪文に応えて上空から超巨大な火球となってメルヴィンを襲う。
「へ?」
メルヴィンの顔に恐怖が走る! ごめんね、グレインの10分の1だとこんな感じなんだ。さっきまでの10倍の威力!
私の右手を焼かれた拍子に魔封じのミサンガが焼き切れてしまったのだ。
「落ちろぉぉ!」
私の指示に従って落下してくる巨大火球。
えっと、命に係わる攻撃魔法からはちゃんと生命維持できるって話は本当なんだよね?
そうは思いつつ一度発動した魔術は止まらない。ぐんぐんと降下してくる巨大火球。
パニックになるギャラリー。祈るように両手を組んでいるアリスティア。
「そこまで!」
渋いバリトンのこの一か月間で耳に馴染んだ声が私のすぐ後ろから聞こえたと思うと訓練場の空いっぱいまで広がっていた火球が一瞬で掻き消えた。
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