第13話 合格祝いの晩餐とプレゼント

 そんなこんなでいろいろあって大変な一日だったけど、一日がかりの試験を終えて「結果は追って連絡します」と告げられグレインの部屋に帰る。


 部屋に帰った私を待っていたのはテーブルに並んだごちそうの数々と満面の笑みのグレインだった。


 マリアさんが給仕をしてくれる。


「とにかく席について。夕食にしよう」

 グレインがニコニコ顔だ。

 理由を聞きたい(察しは付く)が夕食にしようと言われるので手を洗って来て席に着く。


 ちなみにこの部屋は魔塔の魔力供給を受けて水は生成魔法を使って蛇口から使い放題(魔力の無駄遣いはダメだけど)だし、トイレは私のアイディアを採用してくれてウォシュレットの水洗である。


 一生このままこの部屋で住みたいまである。


「お待たせしました、グレインさん」


 豪華な晩餐会? の食卓に着く。テーブルの上には前菜からステーキ、デザートまである。マリアさん気合入れすぎだろう。

 もっともマリアさんに感情はないのでグレインの指示なんだろうけど。


「で、試験はどうだった?」

 ニコニコ顔で聞いてくる……嘘が下手なの?


「魔法は筆記も実技も大丈夫でしたよ。あ、試験会場でアリスティアちゃんと一緒になりました。彼女の治癒魔法を初めて見たので驚きましたけど」


「そうか、ミッションの方も順調に進みそうだな……コホン、美弥呼、入学試験合格おめでとう!」


 そういうと身を乗り出したグレインが私の頭を撫でてくれる。


 猫だった時の距離感があるせいでこのくらいのスキンシップは私たちにとっては大したことない……ことにしたいけど今私の顔真っ赤だよ!


 く、黒猫なら顔色はバレないのに……「ナデポきた~!! チョロインwww」って煽られてるアニメヒロインを何度も見て来たけど長身のイケメン、しかも自分の推しに撫でられたらこうなるって……


「ありがとうございます。まずは今回のお仕事の第一歩ですね」


「ああ、魔力測定は俺の魔力だけど、筆記試験と実技試験の一発命中は美弥呼の努力の結果だから……胸を張っていい」


 そういうと私の頭から手を離して自分の席に戻るグレイン。

 理事長だもんな。私の結果なんていの一番に知ってるってことだよね。


「では、食事にしようか」

 こうして私の入学試験合格のお祝いは始まった。


 前菜からステーキまでどれも美味しい! マリアさん料理上手すぎる。


「あの……このお肉、とっても美味しいですね」


「ああ、うちの実家が送ってきたものなんだよ。ほら……あちらの方は今レッサードラゴンが異常繁殖中だから……」


 なんでもグレインのお父さんから送られてきたお肉らしい。今の話だとドラゴン肉!?

 いや、めちゃくちゃ美味しいけど。


 それにしてもドラゴン戦か……ちょっと心配になってグレインの方を見ると笑顔でワインを飲んでた。


「グレインさんは行かなくていいんですか? ドラゴン戦なんて領内が大変なんじゃ」


「ん? ああ、ドラゴンと言ってもレッサー下位種だから俺やアニキたちの敵じゃないよ。領内に被害が出ないように城壁の外でちゃんと倒せるし、あんまり俺が出張ると後継争いに興味ありって勘繰られて面倒なことになるから要請がない限りは魔塔と王城から出ないんだ」


 確かにグレインはグレータードラゴンとかエンシェントドラゴンとかとも単機で戦える王国最強の戦力だもんね。


 でも、ドラゴンを「俺とアニキたちの敵じゃない」って言えるってやっぱりすごいし、お兄さんたちを信頼してるんだ。


「お兄さんたちも魔法が使えるんですか?」


「いや、アニキたちは剣で戦う。純粋な戦闘職ナイトだから魔法は使えないよ。母親の魔術の才能を引き継いだのは俺だけだった」

 なるほど、だから魔塔の主になったグレインの周りには家族がついてきてないんだ。


「食事が済んだら合格祝いのプレゼントがあるから」


 グレインにお祝いされてるけど、こんなに良くして貰っていいんだろうか? 私が元の世界で交通事故にあって……正確には事故に遭う直前に光った気がするけどこうしてこの世界に来てグレインにはお世話になりっぱなしだ。


 デザートのケーキを食べながら感謝の気持ちでいっぱいになる。


 この世界、乙女ゲームの世界なのでケーキやお菓子は本当に現実の世界と変わらず美味しい。貴族や裕福層のためだけどスイーツショップなんかもあるのをグレインとデート(猫の格好だけど)をした時に見た。


 あ、存在を秘匿するために猫の姿かメイドとして隠れてた今までと違って、これからは私はミーヤ・キャンベルとしてならグレインと一緒に出掛けても大丈夫なんじゃ……ご褒美におねだりしてみようかな。デ、デートの約束?


「ふふ、イチゴケーキは気に入ってくれたか? 研究所の若手から女の子の喜ぶものを聞きだしてきたんだ」


「はい、とっても美味しいです。ありがとうございます」


 私がお礼を言うとグレインもニコッと笑顔になってくれる。この笑顔は猫の時によく見た。


「では、プレゼントを渡そう。マリア、あれを持ってきてくれ」


「……」


 そういうと指示を受けたマリアさんが無言で奥から何かを持ってきた。


「美弥呼、入学おめでとう。これは俺からの入学祝いだ」


 そういって右手をとられて付けられたのは……ゴールドチェーンのブレスレットだった。グレインの瞳の色と同じ緑色の石が1つついている。


「ネックレスと迷ったんだけど、ミサンガでミサンガが猫に変身した時にのを確認してるからね。今回はブレスレットにさせてもらった。細い金のブレスレットだけどこの石には俺が『収納魔法』をかけた」


 おおッ! 異世界定番収納魔法! ただゲームでも聞いたことがないから特殊な魔法なのかも。


「収納魔法なんてあるんですね」


「今回、このブレスレットのために三日間徹夜して編み出した魔法だ。どうしてもこれからの君の生活に必要だと思ったから」


 たった三日で作り上げちゃうグレインが凄いのか、私のために三日も徹夜したことに感謝するべきか怒るべきか。


「えっと、私に必要ってどういうことですか?」


「変身魔法を使うたびに服のサイズが合わなくて脱げてしまうだろ? 猫で移動した先で人間に戻る必要が生じたときに服がないと困るだろうと思って」


 そこまで考えて……でもいざという時には裸で何とかしてすぐに猫に戻れば……


「大丈夫ですよ。私の体なんて大したことないですし」


「俺がイヤなんだよ。他の男が……美弥呼の裸を見るかもって思ったら」


 そっぽを向いて真っ赤な顔で言うグレイン。いや、反則でしょ。


「あ、ありがとうございます。肌身離さず身に付けておきますね」

 こっちまで真っ赤になってしまうのだった。

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