第12話 魔法試験 ファイアーボールと治癒魔法

 アリスティアとも仲良くなれたし、筆記試験の内容は上々かな?


 最終関門は実技。王立学院では魔術を学ぶ魔法学科と剣術や政治について学ぶ騎士学科の2つの学科がある。


 魔法学科は女子と男子で同数くらいだけど、騎士学科は男子がほとんどで女子は少数だ。

 女性は魔法学で研究や授業に専念し、男性は騎士学で剣術を学ぶんだって。


 私は騎士家の出身ってことになっているから、剣術か魔法のどちらかを選ばないといけないんだけど、アリスティアにも宣言した通り魔法を選ぶ。


「では、受験番号10番ミーヤ・キャンベルさん」


「はい! よろしくお願いします!」


「それではあの的に向かって得意な魔法を放ってください」


 私の試験官の女性が示した方向にはマジックキャンドルが立ててあった。

 マジックキャンドルっていうのは消してもまた火がついていつまでも燃え続ける魔法のロウソク。

 ただ、キャンドルのロウ自体に魔力が練り込んであって、ある程度の精度で威力のある魔法をぶつけないと消すことができない。


「では、始め」

 私はグレインと繋がっているパス魔力回路から魔力を引き出し、10分の1に制限された出力で魔法を放つ!


 ……って、あ、しまった! まだ呪文唱えてなかった。


「ファイアーボール!」

 慌てて呪文を唱えると、手の先からテニスボール大の火の球が飛び出して、キャンドルに命中する。真芯に当たった。


 パチュンッ

 キャンドルは音を立てて一瞬で燃え尽きた。

 うん、私の魔力にキャンドルの術式が耐えられなかったようね。良かった。


 実際のところ、この一ヵ月で一番努力したのが魔法の威力を抑えるコントロールすることだった。

 グレインの10分の1の魔力でも新入生としては規格外どころか、この世界でも有数の魔術師になっちゃうらしいのだ。それを自力で押さえられなかった私はの力を借りている。


「あ、あの……これで終わりですか?」


「え、ええ。では次の人」

 よし、終わった! 実際は外しても魔力がある限り、何発撃ってもいいらしいんだけど……私ゲームなんかで何かを狙うとかは当てるのは得意なんだよね。


 でも、転生モノでよくある「なんだあの魔法の威力は!?」とか言って貰えてないんだけど……いや、目だっちゃダメなのは分かってるけどちょっとだけ物足りない。


「すごいね、ミーヤの魔法。一発だったね」

 待っていたアリスティアが拍手してくれる。しばらく待つとアリスティアの番がくる。


「頑張ってね!」


「うん、合格して一緒に学園で魔法を勉強しようね」

 そういうとアリスティアが試験会場へ。って、アリスティアって最初は飛び道具みたいな魔法使えないよね?


 光魔法系統の治癒魔法でどう試験するんだろう? 『マジ・マリ』のゲームでは魔力測定のシーンは定番で描かれていたけど、入学試験のシーンってないんだよね。


「試験官、私の魔法は治癒魔法です。その持っておられるナイフを貸してもらっていいですか?」

 そういうとアリスティアはナイフを試験官から受け取ると右手に持って自分の左手の甲をスパッと切った。


 ヒィッ……めちゃくちゃ痛そうでちょっと声が出ちゃったよ。


 ツプッと表面に血が溢れて血の玉を作り始めたところで

「レッサーヒール」

 アリスティアの右手からやさしい光が放たれ、左手が逆再生か高速再生のように傷が治っていく。


 ティッシュで手の甲に少し残った血を拭ったら傷跡も全くないすべすべの肌が現れる。

 ナイフを試験官に返して手の甲の傷あと(ないけど!)を確認して貰ったアリスティアは「ありがとうございました」とだけ言って私の方に戻ってきた。


「はい、次の人」

 試験官が呼びだして次の受験番号の赤毛の男子が試験を受けているのを尻目に私はアリスティアに駆け寄る。


「大丈夫なの? 痛くないの?」

 あれだけの傷を一瞬で治せるなんて……やっぱりヒロインって凄い。でも……手の甲を切ったら痛いよね?


 切った跡なんて残ってないけどアリスティアの左手を軽くつかんで手の甲をなでなでする。


「大丈夫だよ。慣れてるし……」


「もう、こんなことに慣れちゃダメだって」

 人に証明するたびにこんなことをしてきたのかと思うと悲しくなって抱きしめてしまう。


「ミ、ミーヤちゃん!?」


「これからアリスティアの実力はみんなが知っていくことになるから! もう自分で自分の手を切ったりしないで」


「う、うん……心配しないでいいからね……私大丈夫だから」

 そういうと私の頭をなでてくれる。


 あ、私何やってるんだろう!? アリスティアって実際は1歳年下だよ? 私は17歳で事故にあったんだから!


 でもずっと応援してきた推しゲーのヒロインが目の前にいて頑張っているのだ。私だって力になりたい。アリスティアに幸せになって欲しい。


 私の抱擁は試験官に実技試験の邪魔だからと注意されるまで続いた。

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