第6話 グレインと添い寝(ネコ)
『あ、あの、グレイン様。そう言えばこの塔に住んでるっていっておられましたよね? 毎晩ご主人様が戻られないとお家の方が心配するんじゃないですか?』
「ああ。大丈夫だ。元々の出身は伯爵家だけど、俺は宮廷魔術師の地位に就いた時点で侯爵扱いだから。家の方はまだ父親も健在だし、家門の執事たちもしっかりしてるから問題ない」
問題ないのか? ゲームや小説では奥さんとか恋人の描写なかったけど、28歳なら普通に既婚者でもおかしくないというか……このイケメンっぷりで侯爵相当の地位に財力、ヒロインと年が近かったら普通に攻略対象だろうし。
『え、じゃあ奥さんとかは?』
「ん? 何を言っているのか分からないんだが……ああ。私に嫁の来てがない理由か。伯爵家としては三男坊で家を継ぐわけでもないし、兄がしっかりしているから後継の心配はなかったし、宮廷魔術師になる前は研究漬けで女性との出会いもなかったからな。大体俺みたいに研究に打ち込むような男についてくるような貴族令嬢はいないさ」
う~ん……そういう問題なのかな? 確かに家事が面倒ならオートマターを作っちゃえばいいっていうような人だからご主人様側からしたら女性が身近にいる必要ははないかもしれないけど。今のグレインは婚活市場で絶対入れ食い状態だろうに。
『あの、じゃあ、私もグレイン様のために何かお手伝いしたいです』
「ああ、ありがとう。そうだな、さっきも言ったがこちらから頼みたいこともあるし。明日はミヤコが魔法を使えるかどうかの実験をしてから、頼みごとについて話をしよう」
というわけで、私の人生(猫生?)初の魔術に明日チャレンジすることになった。
抱っこされて研究室から隣のご主人様の部屋に連れて帰られる。
自分の黒い毛とご主人様のベルベットのローブが擦れあってなんともこそばゆい。
毎日こうやって抱っこされて塔内をいろいろ移動していると魔塔でのご主人様のクールなイメージと威厳が崩壊しそう。
小説表紙のキービジュアルを思い出して提案する。
『移動の時はグレイン様の肩に乗りましょうか?』
黒猫を凛々しく肩に乗せていれば威厳が保たれそうだし。
するとご主人様が悪戯っぽくクスクス笑う。
ヤバい、抱っこされて至近距離から見上げるイケメンはマジで語彙がなくなる。
しかも、いつもと違って笑って細くなってる切れ長の目がまたカッコいい。
どんな表情しててもカッコいいってズルい。
「止めておこう。ミャーコならともかく、ミヤコは高いところでバランスとるなんて苦手でしょ? それに……2人で会話に夢中になってミヤコが落っこちたら大変だ」
もう、バカにして。でも確かに運動音痴の私じゃ危ないかもね。
『うう、分かりました。すみません』
「まあ、もしミヤコが私に抱っこされているところを見られるのが恥ずかしいっていうなら幻影魔法で肩に載っているように見せておくから大丈夫だよ」
あ、甘やかしすぎ……私は恥ずかしくなって目をつぶった。黒猫で良かった。もしも人間だったら私の顔は真っ赤になっていただろう。
***
***
結局移動中、ずっと顎の下を撫でられてずっとゴロゴロ言わされた。
ゴロゴロいうのだけは我慢することができない。
ご主人様の自室に移動する。部屋の中ではオートマターメイドのマリアさんが直立不動の姿勢で待っていた。
ちょっと怖い。会話する機能とか挨拶できるようになればいいのにね。
「ただいま、マリア」
『ただいま帰りました、マリアさん』
ご主人様が挨拶するので私も挨拶する。こういう所、グレインってゲームでもそうだったけどすごく育ちがよさそう。
マリアさんが準備していた食べ物をご主人様の魔法で温めてから食べる。
私には鶏のささ身をにてほぐしたものが準備されていた。猫舌なので温めずに食べる。
ご主人様と同じテーブルで食器に顔を突っ込んで食べてるのはちょっとシュールかも。
「ごちそうさま」
『ごちそうさまでした』
食べ終わるとマリアさんが片付けしてくれる。すごいなぁ、一家に一台メイドロボだよ。
夜はグレイン様のベッドにもぐりこむ。
いや、ちゃんと自分用の毛布を床に敷いてくれればそれで十分って言ったんだけど、上半身裸のイケメンが毛布を片手で持ち上げながらもう片方の手でベッドマットをポンポンしながら「おいで」とかバリトンボイスだよ!?
ふらふらと……お休みなさい。
ベッドの中で寝物語に元の世界の話をする。
『ご主人様、私が元いた世界は地球という地面が丸い球で、それが自転って言って回転するから太陽や月が私たちの頭上を回るんですよ』
この世界がどうなっているか分からないので、地球の事実だけを伝える。
「この世界も大地は球体だよ。呼び方は地球なのも一緒だな。球体であることを突き止めたのはイカロスという魔術師が飛行魔法で禁忌を犯すほど太陽に近づき、地球を見下ろして明らかにしたらしい」
そんな感じで話をしてくれてなかなか寝付けなかった。
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