第5話 アイディアは発展させるもの?

 そういえば、ゲームでは年齢が出てこなかったし主人公たちと絡まないから若く見えるイケオジかと思っていたけど、グレインってまだ28歳でした。


 学園理事とか宮廷魔術師とか凄い肩書だからもっと歳をとってるかと思ってた。

 魔術で外見を若くしてるとかっていうのもありそうな話だと思っていたし。


 公式設定でどこにも出てなかったから今のところ私だけが知ってる推し情報。そして28歳をイケオジって書いたら怒られちゃいそうだから「イケメン」って書いておく。


『グレイン様がミャーコとブレインシェアしてくださったので頭の中に魔術の知識が少しですけど流れ込んでくるんです。だから私はこの世界の常識が少しわかります』


 半分本当で半分ウソ。だって元々ゲームと小説の世界として慣れ親しんだ世界だし。


「そうか。それはとても興味深いな。ミヤコ、もっと君と話がしたい。ミヤコがわたしの『使い魔』になってくれたことは私にとって非常に幸運だ。逆に君の世界に君と行ってみたいと思うくらいだよ」


 う~ん、これが28歳の色気というものなのか、イケメンの無自覚のウインクにキュンってなる。


『あ、はい。私もグレイン様と一緒に戻って私の世界を案内出来たら楽しいだろうなって思いました』


 その時はゲームの『マジ・マリ』を見てグレインがなんていう感想を抱くのか興味がある。


「ただ、現在のところこの世界の魔術や魔道具でミヤコのいう『異世界転生』や『異世界転移』を実現したものは俺の知る限り存在しない。だからミヤコを元の世界に帰すにしても術式が構築できるまではしばらくは無理だ。すまない」


『いえ、全然大丈夫です』


 ん? そういえばゲームには無かった設定だけどグレイン様はオートマターのマリアをメイドにしていた。あれってなんなんだろう?


「それは、この世界の自然現象、例えば生命体を魔法で再現できないか考えているんだ。そういう研究をしている」


 聞いてみるとグレイン様が説明してくれる。なるほど、オートマターの質感がかなり人間よりだったのはそのせいか。


「ただ魔法は決して万能じゃない。例えば、今俺達は魔法塔と呼ばれる魔術省の総本山に住んでいるわけだが、この建物の動力になっているのは魔法石に蓄積された魔力だ。この塔の機能を十全に働かせるためには数十人の魔術師が毎日魔力を注ぎ込む必要がある」


 なるほど、発電機みたいに魔力を発生させることはできてないってことか。でも……


『えっと、私たちの世界にはモーターって言って電気のエネルギーを回転する力に変える装置があるんです。実はその装置、逆に力を加えて逆に回転させてやると【発電】って言って電気のエネルギーを作ってやることができるんです』


 高校の物理の授業でやるけど電磁力で力を電気に変換できる。


 発電所はそれぞれ水力や風力、火力に原子力の力を電気に変える施設なわけだけど。


「なるほど。発想は面白いな。魔力を力に変換する装置を作って逆回転させるか……その発想はなかったよ」


 そういうとご主人様は書き机に向かって猛烈に手を動かし始める。

 暇なので書きものをしているご主人様の膝の上にひょいっと飛び乗って丸まる。ふぁぁぁあとあくびが出た。


 …

 ……

 ………


「起きてくれ、ミヤコ」


 眠るつもりはなかったのにすっかり寝てしまった。ついでに言うと男の人の膝で寝ちゃうとか、女子高生としてはもうダメかもしれない。


 よく若返ったり過去にタイムリープしたりする物語で、体に心が引っ張られてって表現するけど、私は猫のミャーコに引っ張られすぎてる気がする。


 ふぁぁぁあとあくびをして目を覚ますと、ご主人様が目の前に設計図らしきものを突き付けてくる。


 おお、とりあえず三極モーターっぽいものの図面がごく簡単にだが引かれている。

 ふぇぇ!? ご主人様すごい! たったあれだけの私の説明から概念だけだとは言え三極モーターまでたどり着いちゃうなんて。


『こ、これって三極モーターですか?』


「三極モーター? ああ、名前は知らないがミヤコの教えてくれた考え方だと二極だと電気の流れが途切れる瞬間が多くなるからこっちの方が効率がいいかと思って」


 頭のいい人っていうのはなんにでも応用が利いちゃうものなのか? とりあえず一番実験しやすそうってことで電気(一応魔術で作れるらしい)と磁石と銅線があればできるモーターから試そうってことになったんだけど、この調子だと技術的なボトルネックが存在する実物よりも概念的な設計が数十年先んじちゃいそう。


 書き散らした紙が周囲に散乱して、計算の殴り書きや意味不明な言葉の羅列がわけわからん。


 私が膝の上で寝てたから、ずっと座ったままでこれだけ散らかせるとは、ご主人様には才能があるに違いない。

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