第4話 魔術と科学技術

 目が覚めると、腕の中で眠っていた。

 いやいやいやいや……ってイヤなわけじゃないんだけど……ダメでしょ!?

 未婚の男女が抱き合ってって……猫だけど。


 だけど、グレインの! いや、こうして腕の中に抱えられていると安心感が違う。

 グレインは魔術師としてはがっしりしてるイケオジなので当然異性として魅力的に見えるけど、こうペットというか飼い猫の立場だととても心地いいと感じちゃうのはどうにかならないものかにゃならないものか


 とにかく気付くと同時に腕の中から飛び出した。

 心臓がバクバクいってるし……乙女の心臓を破裂させて殺す気か!


「目が覚めたか?」


 頭の上でグレインの声がする。


 起きたグレインは猫の私から見たらまるで巨人だけど全然怖くない。

 見上げて目を合わせると、そのまま頭をなでられた。


『いや、あの~、昨日伝えなかった私が悪いんですけど私、こう見えても未婚の女子なんです』


「あ、その、なんだ……すまない。可愛いミャーコと話し出来て嬉しくて。研究室で寝てしまったミャーコを連れて帰ってきてしまった」


 研究室と自室は隣り合っているらしい。

 う~ん、グレインに可愛いって言われると嬉しいから困る。


『あの、私どれくらい寝てました?』


「ん? ああ、ミャーコがいきなり寝てしまったから私も研究室を後にして……時間的には夜の10時くらいだったが、今が朝8時だから10時間程度寝ていただろうか?」


 ご主人様が教えてくれる。

 この世界は『マジ・マリ』のゲーム世界だから1日は24時間のはずだ。

 現実世界と違うのは1か月が全部30日で1年は12か月だから1年360日ってことぐらいだろうか。


 うわっ!? ベッドのすぐそばにメイドさんが立っていてワゴンの上に乗ったティーポットで朝の紅茶を準備している。


 私の分は猫のミルクを持ってきてくれたみたい。

 気配なんて全くしなかったのにいつの間に?


 猫になって感覚が鋭敏になっている私が全く気付かない間にすぐ横に立たれていたんだけど!?


 それにご主人様は今上半身裸なのに……このメイドさんは照れることもなくお茶を入れている。

 ひょっとして肉体関係があって……とモヤモヤと18禁なことを考えてしまう。


 いや、私自身は陰キャでそういう経験はないけどマンガや小説でそういうのは見てるし。


「ああ、マリアか。彼女は人じゃない。オートマターだ」


 オートマター!? ご主人様が大魔導士なのは知ってるけど、オートマターに家事をさせちゃってるの?


 ***

 ***


 それにしても異世界に来て知らないうちに猫になっててご主人様に飼われてて、そのご主人様のベッドで寝てたとか……

 まあ、今はそのイケオジの腕に抱っこされて隣の研究室へ移動してるんだけど。


「ミヤコ、今日は君の世界の話を聞かせて貰えるか? その上でミヤコに頼めるなら、使い魔としてミャーコにお願いしようと思っていた仕事をして貰えるか話そう」


 ご主人様は真面目で優しい人だなぁ。この世界での私はミャーコとして生きるしかないのだから無理矢理命じてもいいのに、美弥呼の意思を尊重してくれる。


 まあ、だからこそ私はこの人を信じてみようって思っちゃうんだけどね。

 異世界に来ちゃったのにあんまり不安にならないのは推しのグレインがいたっていうのも大きいけどそれ以上にこの人が優しくて真摯だからだ。


 元の世界の私って事故で死んじゃっているんだろうか? だったらおばあちゃんに悪いことしたな。もちろん娘として生まれたのに先に死んじゃったんだから両親にも。

 元の世界に思いを馳せているとご主人様が心配げに聞く。


「大丈夫か? ミヤコ」


『ありがとうございます。大丈夫です、グレイン様。じゃあ、私自身と私の世界の話……両方しますね』


 この世界が私の世界のでプレイされているゲームの世界かもという情報は伏せて説明していこう。


 なんとなく申し訳ないし、そもそもこの世界が死ぬ直前に見ている私の夢だって言う可能性だって否定できないし。


『あ、そうだ。グレイン様、【ステータス】って声に出してみて貰えますか?』


「ん? なんだ? 『ステータス』」


『えっと、?』


とは? 特に何の現象も起こらなかったし変化もないようだ。魔力も感じなかったが。これはミヤコの世界の呪文なのか?」


 なにも出なかったのか。

「なんだこれは?」って驚くご主人様の焦った顔もちょっと見てみたかったけど……


『えっと、今のは忘れて下さい。……私のいた世界では魔法とか魔術っていうものは存在していません。でも、昔はそういった神秘の力があると信じられていた時代がありました。その時代には魔女がいて使い魔の黒猫を連れていたり、ホムンクルスやオートマターといったものを作れると信じられていたんです』


 私は話す、ゲームの話を除いて。


 この世界は『マジ・マリ』というゲームがベースというか、そっくりだけど、『マジ・マリ』の世界は私の世界で信じられていた魔術や錬金術が存在する世界だ。


 今ではファンタジー小説やゲームで常識になっちゃっているけど、本当は神秘だった魔法がこの世界にはある。


 科学部に入っていてオカルト否定論者だった女子高生の私だけど、この世界での魔術は技術であり科学だ。受け入れていくしかない。


 まあ、ゲームの知識として知っているからそう思えるのかもしれないけどね。


「魔法がないと不便では? 治癒魔法や攻撃魔法なしに魔物と戦うのは大変だろう?」


 グレインの疑問はこの世界の住人としてはごく当然の疑問。


『えっと、魔法の代わりの科学技術が発展していて、蒸気機関とか電気で動くモーターとかが作られて空を飛ぶ乗り物まで作られているんです。そして私たちの世界には魔物はいません』


 戦争の話をしたくないからちょっと濁す。本当は戦争のために殺傷能力のある兵器が開発されて多くの人命を奪っている。


「なるほど……科学技術か、実に興味深い」


 イケオジの実に興味深いいただきました。

 グレインには一度メガネをかけて欲しいって思っちゃったよ。

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グレインにメガネをかけて欲しい人はコメント欄にお願いします。

GW中は2話投稿予定です。次回投稿は明日18時になります。

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