第4話 相性がいいんだろうな。
ロレンツィオ・メディチが旅に出たのは、地方の下級貴族の習慣からだった。貴族とて、子供たち全員に財産、領地など与えられない。一人以外は、自力で勝ち取るか、婿養子先を探すかである。父親が元気である場合、長男から外にでて、成果を上げて帰って来なければ、末子が家をつぐことが多い。黒髪をやや長く伸ばした、穏やかな、気品と知性を感じさせる整ってはいるが、少し地味な顔立ちの長身の魔法剣士、というより何でもこなしている、何でも屋的な戦士が、ロレンツィオだった。家を出て5年目、たまたま仕事を一緒にやった女が、チームを組もうと言い出し、まあ、悪くないと思って同意したところが、押しかけ的に恋人、婚約者と言い出して、べとべとされるようになって2年になる。「鮮血の二人組」という、ロレンツィオは
「?」
と身に覚えがない呼び名でそこそこ名が知られるようになっていた。そういう頃、「明日の宝石」という有力チームに勧誘され、そのチームに入ったのだ
「うわ?すごいわ、こんなに力が、スピードが、魔力が上がるなんて・・・、驚くくらい。」
マリエッタは、2人での仕事の時は彼の支援魔法の発動は断っていたが、今回は、それを試してみることにした結果だった。
狼型魔獣の群れに火球と旋風によるかまいたちの攻撃魔法を放ったところ、たちまちのうちに一掃してしまった。群れが小規模で、半数はこの後止めをさす必要があったとはいえ、今まではこれほどの威力、可能ではあったがかなりの魔力を使うからかなり消耗したものだが、今回はそれもないし平常の力でだしただけなのだ。
「あらら、獲物の横取りかしら?これではどうかしら?」
襲って来たのは、スズメバチ型の魔獣だった。特有の金属音のような羽音と威嚇するような顎を鳴らす音が耳に入ってきた。半弓を背から手に取り、矢をつがえて次々に放つ。一発で、一匹どころか、堅いキチン質の外殻を破り、さらに貫いて、二匹目、さらに三匹目に突き刺さった。その三匹目も地上に、他の二匹と同様に。二の矢、三の矢はさらに計六匹を落とした。その結果に、また彼女自身が驚いた。こんなに簡単に、貫けるものではない、普通は。彼女の魔力を込めた、さらに特注の矢であり、放った半弓はエルフの聖弓であり、そこそこ格が高いものであるとは言えだ。
「倍以上増しているな。」
ロレンツィオが、獲物に止めをさし、解体を始めながら、いかにも計るように言った。何度目かの仕事で、彼もため口になっていた。
彼の計測に同感だと思ったマリエッタだが、ふと、疑問が浮かんだ。
「でも、チームでの仕事の時には、これだけ高めないの?やっぱり疲れるから?魔力が枯渇でもするの?」
チームでの仕事の際、彼はもちろん支援魔法を皆に放っている。彼女ははっきり感じるが今日ほどではない、はるかに低い、3割増し程度か。中には、心持ち、というくらいしか増加を感じない者すらいた。
「人数、範囲もかなり影響があるな。ああ、俺の体調も関係するな。あとは相性とか、当人の能力とかもあるようだ。実際のところ、使っているものの分からないことが多いんだ。」
彼は首を捻りながら答えた。
「彼女さんはどうなの?」
「二人だけで仕事をしていた時は、最大で5割増しかな・・・それ以下かな?」
「あ~ら、私との方が相性がいいのかしら?この浮気者!」
前半はいたずらっぽい、誘うような表情、後半は怒ったような表情をみせた、彼女だった。もちろん、意識してだったが。
「浮気者と言われてもな・・・。まあ、相性がいいのは確かだし、当人達の地力の差が大きいんじゃないかな?」
彼は、少し愛しむ様に彼女を見た。それが少し、恥ずかしくなり、
「まあ、戦闘の時にはいいパートナーだと認めてあげるわ。」
と尊大な調子で言ってしまった。
「私の方が美人よね・・・てか何考えているのよ、私、裸で鏡の前に立っているのよ!」
誰もいない一室で、マリエッタは姿見の鏡の前で全裸で、一人でぼけて突っ込みを入れていた。そこには、自分でも惚れ惚れとするほどのハイエルフの美女の裸体があった。
「でも、筋肉が着きすぎてないかな?可愛い…とは言えないかな、顔は?てか、どうしてそんなことばかり考えているのよ!」
ロレンツィオに感じるこの気持ちが、どうしても分からないマリエッタだった。
「私ってば、何やっているんだろう・・・。」
体が火照ったようで、湯屋で長湯したせいではない、そもそも長湯などしていない、ベットで横になっても眠れず、乳房と下半身に手を伸ばして、そしてブリッジを作って、喘ぎ声を漏らすのを必死に抑えながら、マリエッタは考えていた。
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