第27話 勇者は8人だそうだ
「要するに、前回奪回に成功したトウ市に再奪回を図る魔族の軍が来るようだから、それを迎え撃つ軍の先頭に立つ、それが今回ということですね。」
この地の司令官ウキを前にして、ケンセキは椅子に座りながら確認した。
「そうだ。君達の力で奪回できたトウ市を足がかりに、魔界に侵攻するのは便利だ。勇者様達が認定され、魔王討伐に近日中に出発するという情報が届いている。魔族達もそのことを考えているのだろう。逆もまた真で、勇者に先んじて、トウ市を奪回して、この地を席巻し、勇者達に備える、迎え撃つということもできる。我が軍としても、そのような失態は避けたい。」
彼は一介の冒険者にできるだけ腹を割って話しているつもりだった。幹部、側近の男女は、愛人4人、のはずだったが魔族女まで愛人に加えて5人を従えて、彼女も同室、同席させていることにかなり不快感を持っていた。彼女らと彼が揃う事で、力が10倍以上アップし、ほとんど彼ら5人だけでトウ市を再奪回できたこと、彼がその戦いでの功績をあまり吹聴することなく、軍の成果ということで納得したことを知っているものの、不快感を抑えきれなかった、愛人達同伴という行為に。
「軍の先鋒をお引き受けいたしましょう、微力ながら。」
と彼が頭を下げたので、それでも、彼らはホッとした。
「ところで勇者様方の情報は教えていただけますか?」
「もちろん。ただ、我らにも名前くらいしか情報はないのだ。魔族に特定されてほしくはない、ということだろう。認定された勇者様は8人だ。もちろんチームを引き連れているが、その数も分からない。」
と前置きして、その髭面を撫でまわしながら、勇者達の名前を伝えた。ケンセキは、一人だけ知っていた。ソウもだった。二人は不快な表情だつた、その名前が出た時、それは別々の名に対してだったが。
「そうであれば、魔王もかなりの精鋭を送ってくるでしょうね。心して、下知に従い奮戦させていただきます。」
とケンセキは頭を下げた。それから少し間を置いて、
「それでお願いしていた件は?」
「分かっている。報酬の額も、これから魔王打倒に旅立つことの許可も、その準備についても、魔王打倒のための君のチームへの協力依頼も・・・、その魔族女の部族ととの和平の提言を送ることも、準備し、実施する、約束通り。捕虜にしている同族は解放し、望めば、我が軍に加えることも了解だ。神に誓って。」
この地の司令官は厳かな口調で言った。
「ありがとうございます。」
ケンセキは頭を下げた。頭をあげる時、一瞬、エリをちらりと見た。
「これでいいな。」
と念押しするように。彼女の目は、
「はい。」
と言っていた。
この時、魔王城では、魔王が勇者8人の認定の情報を聞き、奪回された城塞トウ市の奪還とそこからの先制攻撃のために、魔王軍7軍団中最強の龍軍団の団長にその任務を授けていたのを、ケンセキ達は知る由もなかった。
「あの様な城塞、赤子の手を捻るようなもの。一気に奪回し、あの地域を、制圧してくれましょう。」
トカゲ顔、もとい、ドラゴン顔の魔族は魔王の前に跪いて、答えた。
「あなたの、あなたの軍団の力はよく分かっているわ。しかし、あの城塞を守っていた…は弱卒ではなかったし、増援の第一陣として送った部隊、2000もそうだったわ。それが、あの様に短時間で壊滅してしまった。大丈夫とはおもうが、くれぐれも油断はしないように。あなたには、勇者達の殲滅にも活躍ぶりしてもらうのですから。」
魔王は、女?醜悪としか言えない虎頭の体は毛で覆われた巨漢だった。
「は。吉報をお待ち下さい。」
彼は、そう言うと退出した。彼は、自信満々だったし、魔王達以下、よもやとは微塵も思っていなかった。
そして、
「魔族の臭いがして、飯も酒も不味くなるわ。」
「あ~ら、奇遇ね。私達もあんたの体臭とブス顔で、酒も食事も不味くて仕方なかったところよ。」
ソウラが出発の前日の夕食の際、隣のテーブルのグループの女の悪態に切り返した。エリのことを言っているのだが、とにかくケンセキ達に喧嘩を売りたいのだ。
「なんですって!この年増女。いいじゃない、決闘してやるわ。あんたらチームを完膚なきまでに叩き伏せてあげる。」
決闘というのは、何故か合法的争いごと、冒険者という特使やな者達には、とされている。やたらに殺し合いなどしてもらっては迷惑だから、両者合意で手続きを経て、場所と時間を決めればいいだろうということなのだ。逃げても、不名誉にはなるが、ペナルティとかはないし、それを追って・・・は許されない、かえって懲罰を受ける。
ケンセキは、当然拒否した。明後日の朝8時と、騒いでいる連中を尻目に食事を終えると立ち去った。そして、翌日、トウ市に向って旅立った。後で彼らが勝利宣言して、それを吹聴してもどうでもよかった。
そんなトラブルがあったが、魔族の精鋭がトウ市の近くに陣を構える前に、トウ市に入城できた。
魔王軍が現れるまでの間、ケンセキ達は周辺の地系などの再確認、守備隊との作戦会議などもしっかり行っていたが、
「主様は?」
「知らないよ。でも、あっちにニワの姐さんとコウの姐さんがいるから、話しがあるなら、姐さんに話しておけばいいんじゃない。僕の第六感だと、ソウラの姐さんかコウ姐さんとしっぽり濡れているんじゃないかな?よくやるよね。」
「何、文句言ってんのよ。そのおかげで私達は助かっているじゃない。この生活が維持できるのも、そのおかげよ。」
「強い主様、姐さんが、より強くなるわけだしな。」
とケンセキの奴隷達や部下達から、そんなことを言われていた。
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