第24話 魔界への入り口
魔族の、魔獣の活動、侵入が活発化しているというのは、かなり前から言われていた。勇者とそのチームの選抜、捜索は具体的なものになってきていた。1年後には、勇者達が選ばれるだろう、そう言われている。魔界との境界に近いところでは、その侵入に怯えていた。その討伐には、かなりの危険と同時に高額な報酬が約束されていた。ただ、魔王とその軍の本格的な動きというものは、今のところはない。魔王がどういう者なのか、ということは全くわからないである。
このような状態だから、魔界に近い都市には実力はあるが、素行の悪い、過去のある連中や無理やり送られてきた死刑囚、重罪人達の部隊を作って配置したりしている。替えがきく連中で魔族や魔獣退治をやらしてしている。もちろん彼らを監督する荒っぽい部隊もいる。
さらに、腕試しや名声を、高報酬を求めてやってくる冒険者もいる。
「なんだい、お嬢さん達が来るところじゃないよ。とっとと、ママのところにお帰りヨ。」
そんなことを酒場のテーブルから揶揄うように、大声で言ったのは、大柄な、顔に傷のある、まあ、それなりに魅力的なところもある女戦士で、彼女の他二人の女と5人の男がせせら笑いながら、同じテーブルにいた。言われたのは、ニワとソラだった。
「既視感があるわね。」
「同意。」
と言って2人はテーブルの一つに陣どった。ここは、私達のものよ、と主張するものだった。かなり大きなテーブルだった。
「姐さん。お待たせ!」
「持ってきた。」
とわらわらと、まだ少年少女に見える連中からオーガまでやって来た。
「リーダーも、すぐに来るよ。」
彼らは、自分達の椅子を確保、あるいは他のテーブルから持ってきて座った。ニワ達の近くには椅子が三つあったが、そこにはだれも座ろうとしなかった。一人だけ例外がいたが、
「ロリ年増は、こっちだよ!」
「いい加減、自分の立場をわきまえなさい!」
と少年少女達に押さえ込まれて、離れた席に推し込められた。
「なんだい、動物園か、保育所かい?呑気なものだね。」
とまた、先ほどのテーブルから声があがった。
オーガ達が持ってきたのは、西方の辺境、魔界との境界線に位置す一大城塞都市ニュウドでは不足がちの生活物資だということが見てとれた。仕事の報酬の一部がそのようなものの現物支給となる場合も多いし、喜ばれることも多い。
「ちょっと、あんたら、どっから盗んで来たのよ?」
ニワ達は無視した。
それを見ていた、居酒屋の主がいい加減にしろよ、という顔で、
「お前らな」
と口を開けかけたが、ケンセキがソアラとコウを連れて、店に入ってきたので、一旦口を閉ざした。それから、半分ほっとし、半分不安そうな顔で、
「1か月ぶりだったかい?仕事の方は、上出来だったようだな?」
と声をかけた。
「そんなに前だったかい?」
ケンセキは小さく笑ってから、
「まあ、流石に魔族の正規軍、1個大隊以上を相手にすると、流石に少し苦労したな。こいつらのおかげで何とか壊滅させられたよ。報酬もこの通りだよ。」
といって、荷物の方に視線を向けてから、大きなずっしりと金貨が詰まった袋を店主の前に置いた。いつも通り、半分預かってくれ。それから、今日はチームの慰労会だから、これで頼む。」
袋から、10枚を取り出して店主に渡した。
「ああ、わかったよ。」
「じゃあ、いくか。」
とニワ達のテーブルの方に足を向けたる。その彼にソアラとコウが体を擦り付けるように、寄り添った。
「なんだい、あのハーレム野郎はよ。」
「ふん。剣を持って震えているっていう野郎じゃないの?」
「魔獣の餌にもならないんじゃないか?」
「他のチームの手柄をかすめ取ったんじゃないか?」
「後ろから・・・裏切って・・・なんて野郎だ。」
「俺達で正体を暴いて、退治してやらんとな。」
「やってやろうじゃないの。」
囁きながら盛り上がっているテーブルがいた。
「あんたら、まだここにきて間がないようね。」
後ろから、女の戦士がいつの間にか立ったいた。
金髪の、やはり顔に傷跡が、しかも複数あった、ここに長くいるというオーラを感じさせていた。少しの間、言葉が止んだ。
「まあ、彼らが来た時、同じような似たようなことを思ったけどね。彼らに絡んだチームが何組も壊滅したわ。そして、どんな魔族も魔獣も、彼らには瞬殺、数が多くてもね。」
その時、
「姐さん。荷物まとめて持ってきたよ。」
と荷物を持った、彼女より若い衆男。
「おう。来たか、早く座れ。」
とケンセキが2人に呼びかけた。
「今、行きます。」
「ふん。見掛け倒しの同類じゃないか。」
との言葉を背に受けた女は立ち止まって、少し振り返った。
「ああ、魔族の正規軍をなぎ倒す旦那や姐さんを、私は見たんだよ。そして助かったんだよ。手柄を取ろうと、だまし討ちしようとした馬鹿なリーダーと仲間は死んだけどね。」
「相手にしないでいきましょう。」
と男に促されて立ち去った。
「あいつら、あのチームに入るのか?」
「まあ、いいんじゃない?」
「あっちの新米チームは・・・。」
「あいかわらず、ああいう連中はなくならないな。」
「まあ、いなくなって寂しいわけじゃなし・・・。いいんじゃない?」
「そうだな。」
2つのテーブルの様子を眺めながら、他のテーブルではいろいろ無責任な言葉が飛び交っていた。
ケンセキ達は、それを知ってか知らずか酒を呑み、料理を食べ、笑いあっていた。
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