第23話 今度は俺の役にたて

「久しぶり~。」

 とケンセキに抱き着いてこようとした、猫耳の小柄な若い女、少女のようにも見える外観だったが、

「何?このチンチクリンは?」

とニワが首根っこを捕まえて、持ち上げた。

「まさか、あんたも?」

とジト目の3人。

「追放された直後に出会って、こいつのパーティーに誘われてな、散々ぼられた挙句に、追い出しやがった。あ、こいつ童顔だが、俺達と同い年くらいだぞ。」

と言いながら、ケンセキはその猫耳少女、あくまでも外観、を助けようとはしなかった。その見つめる目は冷たかった、と言うほどではなかったが冷めきっていた。


「…というわけで、御主人様達を襲って、殺そうとして返り討ちになったのおー。オーガも、盗賊団も情報を流して呼び寄せて、御主人様達を襲わせたんです。全員、返り討ちになりました。私のチームリーダーも誰かに頼まれたようですがー、私はきいてませーん。ねえ、みんなー、そうよねー!」

 奴隷紋をつけた猫耳少女風は、幼い、かわいいと念わせる口調も織り交ぜて説明した後、他の奴隷紋をつけた面々を振り返って、ギルドで証言した。

 それを引き継ぐように

「だから、オーガーの討伐、盗賊団の壊滅、賞金首の分を除いて、の報酬をお願いします。それから、冒険者約30人のことはこちらの正当防衛と認めて、彼らの持ち物は全て私達のものということで了解していただきたいのですが。」 

と迫るケンセキに、ギルドの職員は、もちろん男で若い爆乳お姉さんではない、はギルド副長の方を不安そうに、同時にざまあみろという顔を下に隠してみた。

 副長は、こちらは女だった。巨乳である。ただし、中年、くすんだ金髪が、頭部が既に薄くなりかけている、肥満気味だが、若い頃はそれなりに美人だったろう、まあ、色気、中年のだが、のある女だったろう、今では一見獣人?ブルドック顔の?と思わせるが、彼女はずっと不安そうだったが、

「本当に、あんたを殺そうとした連中のことはわからないの?」

「全くわかりませんね。知っているだろう連中を殺しちゃったもんですからね。残念無念、恥ずかしい次第です。」

 ケンセキがいかにも残念そうに言うと、安心したような表情になって頷いてみせた。

「こいつか。」

 ニワ達が心の中で声をあげた。


「もういいでしょう?僕もハーレムの中に入れて~!」

 そして、また首根っこをつかまれた。

「助けてよ~。楽しい思いをさせてあげたんじゃないかあ~。」

「本当?」

 また、疑いの目の4人。

「楽しい思いを、お前達がしているのを見せられた、聞かされたの間違いだろう。」

 ケンセキは、彼女を助けなかった。

「お前に枠などない。枠は埋まっている。お前は俺を騙し、詐欺して、裏切って、盗った。そして、その上、俺とこいつらを、俺の妻達を殺そうとした、殺すことに参加した。それでも命を救い、面倒を見てやる代わりに奴隷になった、奴隷契約をした、それだけだ。今度は、俺のために働け。以上だ。それにだ、臭い女は嫌いなんだよ。俺の飼っていた愛猫のクロは臭くなかった。」

 彼が言い終わると、ソアラが手を放した。床に落ちた猫耳少女(偽)はへたり込んだが、ケンセキ達の方を見る、その表情は憎々しいというように、邪悪に歪んでいた。その彼女を、やはり命を救われ奴隷契約をしたオーガの巨漢が拾い上げた。

「行くわよ。臭い、おばさん。」

「あんたも私達と同じ奴隷なんだよ。」

 2人の少年少女は、盗賊団の下働きにされていて、奴隷にされた。


「あらあら、良かったんじゃない?あなた方の名前は出てこなかったわよ。ケンセキは、復讐するつもりはないようよ。」

「変な気を起こすなよ。確実に返り討ちになるからな。安心して、彼のことは忘れろ。」

 カンロ達に言われた男は、

「闇に落ちたのを助けてやろうとしたのに・・・。地獄に堕ちるしかないな。」

と言って、震えながらも、やはり震える猫耳美?少女二人の肩を抱いて、そそくさに、本人は泰然としてのつもりだったが、立ち去った。


「4人とも、彼をサポートしてくれているようだな。」

「でも、彼女ら、あの聖女さんは知らないけど、あんなキャラだったかしら?」

「女は、男で変わるものさ。」

「ひどい偏見よ、それ。まあ、私は分からなかったし、助けてなんかあげなかったしね。失敗したわ。」

「俺も・・・。」

「俺も?何?」

「あいつは足りない、駄目だ・・・と本気に思っていた・・・。知っている奴が自分でやらないで、知らない奴、未熟な奴を罵倒しているのを見て、罵倒している人間の方が役に立つと思っていた・・・ということさ。」

「同感ね。まあ、彼と彼女達の旅立ちに手を振ってあげましょう、明日には反対方向に旅立つんだから。」


「トーナメント。頑張って下さい。リーダー、カンロさん。」

「ありがとう。がんばるよ。いつか、君達の武勇伝を聞かせてくれ。」

「楽しみにしているわよ。」

 ケンセキと二人は手を握り、翌日別れた。

 カンロ達のチームは、腕自慢の冒険者達が各地から集い、競い合い、闘うトーナメントに参加することになっていた。そのトーナメントに参加して、高位になれば名声もランクも上がり、賞金も多額だ。彼らのチームは優勝候補の一つだった。

 その優勝者、チーム戦部門からも、個人戦部門からも、勇者候補が選ばれる。その意味では、ただの祭りではない。勇者候補、勇者チーム候補は別ルートからも選ばれる。

「今は抜け駆けするのにも、高額な仕事を独り占めするのにも絶好な時期ということだ。」

 ケンセキの言葉に、不適に微笑む4人と複雑な気持ちの奴隷達も旅立った、カンロ達と反対方向に。

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