第22話 もうすぐ勇者かな?

 ソアラの剣は易々と、オーガを鎧ごと、さらにその固い体もあっさりと切り裂いた。聖剣とは言え、格の低い彼女の剣は、高位の聖剣のように強力な魔法を纏って、切り口を焼き切り、その波動はその後ろに位置したオーガも切り裂き、その先のオーガを倒す打撃を与えていた。一人を切り裂く速度は、まさにあっという間だったが、切裂いて移動する動きも同様に速かった。仲間を助けよう、仇を討とうとしたオーガは彼女の隙をつくどころか、気が付くと自分が切り裂かれていた。

「おい、油断するなよ。」

とケンセキは彼女に声をかけて、後ろから襲い掛かろうとしていたオーガ数体に、無詠唱での火炎玉多数を放った。熱さと火傷の痛みで悲鳴を上げてもがく彼らを、一刀のもとに切裂いていく。いい剣だが、聖剣でも魔剣でもない彼の剣は、格の高い聖剣のように輝いてさえいた。

「あなたの見せ場を作ってやっただけよ。」

と彼女は微笑んだ。

「それはありがとう。奴らを右から追い込むぞ。ニワとソウは左から頼む。まとまったら、コウ、でかいのを一発頼む。それで、終わりにするぞ。」

 二方向からオーガ達を追いこむ。

「我が敵に、無数の火柱の立つ煉獄の苦しみの中に、焼かれ、悶える姿を・・・」

とコウの詠唱が奏でられた。詠唱通りは、いくつもの大きな火柱が追い込まれたオーガの一隊の中に起ちあがった。阿鼻叫喚、泣き叫び、苦痛の、断末魔の叫びを響かせながら、オーガ達は倒れていった。

「流石にオーガ、まだ死んでいないのがいるな。しぶとい・・・。止めを刺すのは後にした方がいいか。別の連中が用事が有るらしい。」


 今回の仕事は、100匹以上のゴブリンの巣を壊滅させることだった。それは、一時間少しで片付いた、200匹以上いたが、実際は。しかし、ゴブリンの巣を出るとオーガの一隊が、待ち受けていた。前回の仲間らしい。仲間の仇だと襲い掛かってきたからだ。そして、その後には、壊滅させた盗賊団の仲間達らしい連中がやってきた。こちらが疲れたところを見計らって現れたという雰囲気だった。

「事務員の無言の連絡、ありがたいな。後で、感謝するか。」

 ギルドの事務員は、手続きをしながら、しきりに彼の顔をじっと見ては、首を小さく横に振った。指はゴブリン100匹程度という箇所に指を置いていた。警告だということに気が付いた。自分達が相手にするのはこのくらいの数ではないということなのだ、と彼は伝えよようとしていたのである。直接口にはだせないが、ということで。ギルドが打診してきた仕事なのである、それが・・・。かなり怪しいということで、入念に調べてみた。オーガの盗賊団、人間・亜人の盗賊団、そして、彼らの後ろにも10数人はいるとわかった、しかも、かなりの実力者もいる集団らしい。


 ゴブリン掃蕩の依頼は本物なのだろう。それを利用して、彼ら、オーガや盗賊団の吐く悪態、罵倒の内容から、彼らが以前ケンセキ達が壊滅したオーガや盗賊団の仲間、兄貴分の連中だということが、想像できた。誰かが、彼らに詳細な情報を流し、お膳立てをしたのだろう。三段構えで、なおかつギルド幹部、ギルド長または副長くらいが直接関与しているのではないか、と思ったケンセキだが、ひとつ、疑問がある。これだけやって、何の利益があるのか?ということだった。


 冒険者達の一団、雑多なパーティーの集まりのようだった。なんと、知った顔もいた。先頭になって、悪態をついている猫耳の小柄な少女、に見える、奴だった。


 流石に疲れていた、ケンセキ以下5人は。

「如何するのよ?流石に、今の私達じゃ、危ないわよ、かなり。」

 ニワが、汗を拭いながら耳元で囁いた。ソアラ達は、荒い息を整うようと深呼吸をしていた。5人は集まり、互いの背をつけるように全周に対峙していた。それを30人以上の男女が得物を構えて包囲していた。予想より大人数だった。これでも、10人ほど殺すか、動けなくしていた。半分はかなり上級の冒険者達である。

「とりあえず、回復剤を飲め。」

「そんなので何とかなると思うの?」

「一瞬だ。それを逃すな。そのくらいには、十分だ…と思う。」

 回復剤を飲み、闘志が衰えない、いや最後の気迫が高まる彼らを見て、

「しぶとい連中だ。」

「本当に手こずらせるんだから。」

「とにかく男を殺して、女達を虜にすりゃいいんだろう?」

「あとは、あいつらの金とか全部貰って・・・、賞金首もオーガのも・・・。」

「早くかたずけましょう?」

 一気に、全員が一斉に攻撃わかけようとした、その瞬間、力が抜け、膝から態勢が崩れた。


「今だ!」

とケンセキが、或いは女達の誰かがそんな野暮なことを叫ぶ、合図をする必要などなかった。以心伝心、ケンセキ達5人は一斉に飛び出した。

「うわ!」

「詠・・・。」

 誰もが声すらだすことができなかった。それは僅かな時間だったが、5人の動きは速すぎた、回復する余裕は誰にもなかった。いや、それでも聖剣で受けとめた、聖盾を前にかざした、魔法石が発動して防御結界を前面に張った。それでも、2合目の、絶対別の方向から返す剣には対応できなかった。が、2度目はなかった。聖剣は斬られるように折れ、聖盾は真っ二つになり、防御結界は破砕され、彼らの体は切り裂かれていた。

「戦闘力のある奴は全員倒したな。」

「雑魚がいるけど、どうする?」 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る