第20話 もう戻れないんだよ
「こ・・・この仕事・・・わかった、俺がリーダーになってやる。」
ケンセキが翌日受けようと壁からはがした仕事の紙を取り上げて、虚勢のような笑いを浮かべる元チームの男、年上だがチームに入ったのは後である、を無視したケンセキはギルドの窓口で手続きを終えると、彼を待つ4人の女達と合流した。
「おい、お前ら・・・こいつはお前らを盾にでもするつもりで・・・待てよ、待てったら・・・。」
引くに引けなくなったかのように、彼らの後をついて行く男に、獣耳少女と年増女、そして、何人かの手下?もしかたなく、といった風に従った。
翌々日、
「おい、俺のチームの連中をちゃんと守ってくれたんだよな。」
やはり元チームのケンセキより年上の男が、帰ってきた元同輩に、文句がいかにもあるという顔で詰問するように言った。彼の方を向いた、その男の顔を見て、優位にあるという自信を忘れてしまった。
「あ、あいつら・・・オーガの盗賊団どもを・・・半日・・・いや一時間で、ついでに予想外の魔獣や・・・はてはドラゴンまで、簡単に倒しやがって・・・。」
と震えるような声。
「あんな奴らに関わるのはやめようよ~。」
「あたいの第六感が、やばいっていってるんだよ。」
彼の女達が左右から引っ張るのに、彼は抵抗しなかった。
「へん。しょせんは見掛け倒しだな。」
「ブス女は、臆病よね。」
こちらはハーモニー。
そんな言葉を背に受けても、彼らは気にする素振りさえしなかった。
「あらあら、足代だけでもはずんだのに、うちのお人好しのリーダーが用意したのに。受け取らずに行っちゃったわね。あれ、あんたがたも、私達の仕事に同行する?明後日いくけど?」
簡易鎧を聖女服の上につけたニワが、残忍な笑いを浮かべて、貨幣の入った袋を片手で弄びながら声をかけた。彼女は、聖女服の下に鎖帷子もつけている。
「どうだい聖女様。あんな奴に危ないことをさせられるより、俺のところに戻って来ないか?あいつらと一緒に。あいつに騙されて出て行って、後悔しているのはわかっているんだから。心配しているんだぜ、俺は。」
本人は、優しく、紳士的、上品に言っているつもりだった。
「あんたね~、私らは、あんたを必要としないのよ、だから、追放したのよ。私達のことはきいているでしょう?もっと勉強しなさいな。」
「意地を張るなよな。俺はこだわっていないからよ。」
ニワと大きなため息をついて、反論はやめてその場を立ち去った。
「どいつもこいつも、自分に都合のいいように記憶しちゃってさ。いつもそうよ・・・。」
翌日、依頼の完了報告と途中で出会って倒した魔獣の引き渡しの手続きを終えて四人の待つテーブルに向かった彼を迎えたのは、いかにも不機嫌そうで、かつ心配そうな四人と、
「ヤッホー、久しぶり、元気だった?」
と明るい声をだしていて立ち上がって、手を振る見事な金髪の美人だった。彼が、チームを追放され、しばらくして一流チームに移っていった、カンロだった。“相変わらずのすごい美人だな。”緩みかける表情を、必死に抑えて、彼女がさしだした手を握って握手して、空いている椅子に座った。“彼女がいると、一応美人のこいつらが、ひどく貧弱に見える。”と思った。
「元気で彼女達と上手くやっているのを見て安心したわ。それに、みんなで大化けしたんでしょう?聞いているわよ。すごいじゃない?」
彼女は、邪気のない笑顔を浮かべていた。殊更、無表情を装おう、ケンセキは、
「どうしてここに?」
と尋ねた。
「二つあるわね。」
彼女は真面目な表情になった。
「あなたを出て行くままにしちゃったことを謝りたかったの。あなたの不満は当然だったわ。出て行って当然よ。」
「で、もう一つは?」
彼女は、少し小馬鹿にするような目でもって微笑んで、
「共通の元チーム仲間に頼まれたのよ。彼女達があなたに騙されているから、あなたを彼女達から引き離して欲しい、その間に彼女達を救いたいと頼まれたのよ。あ、こうも言ったわ。あなたの女達は性悪ブス女達だから、あなたも清清して、幸せになるってね。」
「矛盾しているんじゃないか?そんなことを言う奴の頼みを聞くようなあんたじゃないはずだけど?」
彼のいかにもおかしい、という顔に、彼女は今度は寂しそうな微笑みを浮かべた。
「そうね。でも、私は引き受けた。だって、あなたを手に入れられるかもしれないから。誤解しているだろうけど、私はあなたがずっと好きだったの。あなたが、チームを出て行った時は悲しかったわ。あなたに告白したかったけど、みんなに邪魔されて…。どう、私とチームを組まない?今のチームに不満はないわ。私達は、順調に実力が認められているし…。私は、自分の冒険者としての実力を認めていもらうことに必死だった。それであなたを失った…。だから、やり直したいの。」
真剣な表情だった、少なくともケンセキには見えた。半ば真実ではないと分かっていたが、それでもいいとさえ思ってしまった。彼女はその顔を、ずいっと彼の方に近づけた。
「パワーアップは相性次第。相性は愛情に比例しないよ。」
何とか耐えて、窺うように、試すような表情を向けようとしたが、蕩けさせられたような表情になるのを、抑えられなかった。
「1~2割増でいいわよ。十分役にたつもの。それに、そんなのなくたって、私達はやっていけるわ。そうでしょう?どう?」
清楚さに妖艶さが、矛盾するそれが、両方合いまった表情だけでなく、その体全体に発散する彼女に、ケンセキは、“だめだよ~。、反則だよ。た、耐えられない!しかも、息が当たる…。もうだめだよ~。”と思った。それに、彼女が完全な出鱈目で自分を騙すような女ではないと確信もしていた。が、彼の口から出た言葉は、
「駄目だよ、残念だけど。もう彼女達とは一心同体、一蓮托生、もう戻れないよ。」
だった。カンロは本当に悲しそうな顔になっていた。
「そうよね。これでホイホイ、私についてくるような小悪党じゃないものね、あなたは。」
「ずいぶんな言われようだな。」
「あら、褒めているのよ。じゃあ、あなた達、彼を大切にね、助けてあげてね。彼、本当はいい男だし、少し助けてあげれば、と~ても頼りになる男だからね。じゃあ、ケンセキ、サヨウナラ。でもね、力に溺れないようにね。あ、それから、もっと無責任になっていいんだからね。」
そう言うと、さっと立ち上がり、金貨を二枚置いて、背を向けて去って行った。振り向くことはなかった。
“あー、失敗したー!”とその瞬間、ひどく後悔したケンセキだった。
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