第13話 豚は食べられるしか能はないわ。

「それは、聖女様が足を引っ張っただけじゃない?しっかり回復、治癒してれば、彼の助けなんか…。」

「目一杯加護を授けてもらい、防御結界を大盾士のように常時かけてもらっていながら、私に自分を守るために闘わせただけでなく、前に立って闘わせておいて、四人分働かせておいて、よく言うわね。」

「だって、チームじゃない?お互いに補填しあって、守り合うのが当然じゃない?」

「それを言うなら、ニワのせいにすべきではないわよ。」

 ニワとセキの言い争いがヒートアップしそうなところで、ソアラが割って入った。

「それに、彼が入ってから、私達順風満帆じゃない?上手くいっているのよ?」

とコウも指摘した。

「それは、私達が彼を助けているだからじゃない?彼のおかげじゃないわ。思いだしてよ、彼のせいで、チームがめちゃくちゃになったんじゃない?」

「は?」

 3人は、セキの主張に唖然とした。

「彼はチーム発足の時のメンバーよ。」

 ソアラが指摘したが、

「それがどうしたのよ?」

 セキの言葉に3人は、

「?」

「まあ、彼がリーダーでなくても、カリスマ性やみんなを率いる、まとめる能力に秀でて、みんなの意見をまとめて、不満が出ないように説得して、納得させて、全てを切なくこなして、解決させることができて、慎ましく、一歩も二歩も後ろに立って、自分の功績を語らず、分け前も人より少なく、ランクが抑えられていても怒らず、自分が至らないと考えて、常に笑顔で対応して、日々自分を反省して、娼館にも通わない、自分が借金してでも、チームに必要な装備を購入して、みんなに提供していれば、チームはまとまっていたでしょうね。」

 ニワが、いかにも皮肉っぽい調子で淡々と口にした。

「それが当たり前じゃない?そんなダメな奴と一緒にやっていってやる必要はないわよ、ねえみんな?」

 セキだけは分からなかった。3人は、大きなため息をついた。

「そんな奴いるかしら?私が知っている限りいなかったけど、前にはいたの?」

 流石にセキもそれには答えなかった。

「で、でもさ、偽の愛で縛られるなんて、耐えられる?力がとか、仕事が上手くいっているとか、金が入る、とかでそれを受け入れるのは可笑しいわよ!そうでしょう、みんな?」

 セキは、必死に訴えるようだった。3人がすぐに同意しないのを見て、彼女は恐怖に近いものを感じた。

「セキのいうとおりね。」

「?」

 ニワが味方になるようなことを言い出して、セキは途惑った。ニワは構わずに進めた。

「全ては虚構なようなもの。彼がいるからのもの。力に、金に、名誉に、そして性の快楽に溺れるということよ。このままだったら、もう其所から脱げ出せなくなるわ。そうなったら、人を止めるようなものかもしれないわね。」

 彼女の表情はしかし、その今の快楽を体を震わせて求めているかのように妖しいものだった。“離したくないわよ!”と彼女は感じていた。

「そ、そんなのに手放したくないなら…豚は、食べられるしか能がないのよ。だから。」

「あなた、自分がなにを言っているか分かっているの?」

 ソウが思いあまって、あまり自分の意見を言わないのだが、叫ぶように言った。それで、沈黙となった。


「後は、自分で決めることね。チームは解散…私達が出ていきましょう、また、彼を追放と謂うのは悪いしね。それに、私はあんた方と、もう一緒に仕事をする気はないしね。」

 ニワが言うと、

「あなたはどうするつもり?彼について行くつもり?」

 コウが疑わしいという表情だった。

「私?力ね、あの力、何でもうまくいく、何でも得られるかもしれない、ゾクゾクするわね、確かに。それに彼に抱かれた、あの感触、快感、忘れられないわね、あの死ぬくらいの、あの・・・。」

 彼女は手放したくないというような、妖しい表情を見せた。

「ちょっと、まさか、あんた・・・。」

 コウが心配そうな顔になった。

「冗談よ。力と快感に溺れた人間の末路は知っているわよ、童話でだけどね。」

 ニワは笑って、表情もうって変わって明るいものになった。不信そうな表情の3人。じっと考えこむのが一人。

「まあ、彼が仕事を終えて帰ってきて、次の仕事にでるまでに決めればいいから、よく考えればいいわ。」

 ニワの言葉で締められてしまった。ニワ以外は、不審半分、心配半分、期待半分で互いに顔をチラチラと見ていた。

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