第8話 彼じゃなくても・・・。彼じゃないとだめよ。
「あんたね、支援魔法を使える奴って少ないのよ。それもあって報酬の相場は高いのよ。3人もいたら、私達の取り分がなくなっちゃうんだから。あの出ていった支援魔法使いも言っていたでしょう?払うものを払えって。約束した報酬を払わないで、約束した覚えはないとか、替えは幾らでもいるなんて言い出して・・・あんたらのチームの頭を疑ったし、今も疑うわよ。」
ニワが、呆れたわよ、と嘆く様に言ったのは、彼女らの共同で借りている部屋の中で、そして、ケンセキがチームに戻ってきてから1か月が過ぎようとしていた頃だった。ソウラとコウは、ケンセキと前回の仕事での魔獣の牙などの売却交渉に同行していたので、留守だった。自分の提案、つい軽口で言ったことなのだが、大上段に否定されて、しょんぼりして猫耳が下を向いているセキと2人を交互に見ておろおろしてみるソウ。コウが、支援魔法士を別に複数雇えば、ケンセキの代わりを務められるのではないか、言いだしたことから始まった。
「あら、どうしたの?なんか険悪な感じだけど?」
ソウラが部屋に入ってきて、驚きの声を上げた。
「馬鹿よ。そんなこと考えちゃだめよ。気持ちはわかるけど・・・。」
話しを聞いて、大きなため息をついたソウラだったが、
「気持ちはわかるって、どういうこと?」
ニワが疑わしそうな視線を向けたので、観念するように苦笑して、
「彼だって悪い所はあったかもしれないけど・・・やっぱり私達は身勝手すぎたということよ。」
彼女も支援魔法使いについて調べたと白状した。
「安く二人くらい雇って、相乗効果で3倍くらい強化できればとか・・・一回失敗しておいて・・・だめよ、ニワのいうとおり。」
大きなため息をついた。
「ねえ、前から聞きたかったんだけど、私が知っている、あんたらのチームに元居た連中って、自分がいつも正しいとは思わない、なんていうのにはほど遠い連中だったけど、出ていったり、死んだメンバーはそれとは正反対の聖人みたいなお方だったの?」
とニワはさらに白状しろというふうに問い詰めてきた。
「それって、私達もその中に、ほど遠いという、入っているわけ?」
ソウが、心外だという顔だった。
「当たり前でしょ?入っているわよ。」
と平気で言うニワに、
「ひっどーいよ。」
とセキが抗議したが、ソウラが吐き出すように、
「同じよ。俺が、私が間違っていたわ、なんて殊勝に言うのはいなかったわ、私も含めてね。」
「それで。ケンセキにだけは、自分だけが正しいと思っている、と叱責したわけね。」
「ええ、そうよ。そしてね。」
ソウラがさらに語った言葉に、
「そんなことまでして、しかも分け前を・・・。あんたらの方が追放に値するんじゃない?」
ニワが呆れたように言ったのは、彼の冒険者ランクを上げようとしなかったことだ。冒険者にとってランク、12階あるが、は重要なことである。高ければ、当然報酬も高くなり、ギルド内での特権が付与されるから名誉だけでなく、しっかり実利もあるもので、そのランクを巡っては血を見ることさえある。ランクは、仕事の実積や能力を、ギルドが判断して人程度する。個人なら個個が、チームに属していれば、チームがチーム内の貢献度も考慮して申告する。支援や回復力、治療、索敵とかが多い彼はランク引き上げの対象から外されていた。チームは、縁の下の力持ちも効力しないといけないのだが、本来は。前衛で戦わないからと言って低評価し、たまたま、また、我慢しきれず大活躍したら、
「チームワークを乱すな」
あるいは、
「本当の実力を持たないと危ないからなんだ。」
と激しく叱責する。
個人で仕事を受け、その実積でランクアップになると、厳しくけん責された。
「怪我してチームに迷惑がかかったらどうする。」
「そういう目立ち屋精神があるから、ランク引き上げを申告しなかったんだ。」
とか。ただし、誰もが、チームの仕事がないときには、個人で仕事を受けていたにもかかわらずである。しかも、彼が支援魔法使いであると分かったギルドが、彼の引き上げをしようとすると、何とか阻止しようとした。結果として、半年遅れたらしい。少なくとも、
「支援魔法が使えるだけでランクアップは、本人のためにならないから、ギルドに言って止めさせてやった。」
と本人の前で何人かが言ったということだ。なんと、彼を追放でした時には、ランク引き下げまでさせたらしい。かなりの金を出したという。ちょっと信じられないが、彼が長期リタイアとかの理由なしに、ランクを落とされたことは事実らしい。
ちなみに、魔法は国や教会の管理がなされていて、冒険者ギルドも魔法を使える者、その使える魔法の種類、ランクはしっかり把握し、国、教会に報告することが義務づけられている。
「だって…、チームワークは大切だし、自分だけ稼ぐとか、ランクを上げようというのは悪いし、彼のことを思ってだし…そう思っていれば…それに彼が相手をもっと立てて、もう少し我慢しても良かったんじゃないかな?そうすれば…。」
とセキが反論し始めたが、ソウラが止めた。
「じゃあ、あんたが分け前を減らされて、ランクをあげてもらえずに、いつも悪いのはお前だと言われて、その通りだと我慢してくれるわけ?私はいやよ。それにさ、私達にとって、今はずっとずっといいじゃない?彼に感謝していても良いんじゃない?」
しんみりした調子で窘めた。ニワは、少し面白くなかった。彼女が三カ月ほどリーダー的なことをしてやったことも、貶されているようだったからだ。文句を言おうとしたが、ぎりぎりで止めた。その代わりに、
「彼は、豚もおだてれば木に登る、タイプだから、いっぱい褒めてあげましょうよ。」
と言った。
「あ、彼は豚だったんだ!そう思えばいいんだね。」
セキが素っ頓狂な声で、面白そうに言いだした。慌てて、ソウが、
「あんた、本当に、そんなこと思っているの?」
とソウが彼女の頭を小突いた。
「は?」
という彼女を無視して、
「とにかく、彼は少しは大切してあげること。後は、少し助けてあげればいいのよ。そんなことも、あんた達はできなかったのよね。その彼がいたから、チームがまとまっていたんだけどね。」
「まあ、そうね。今度は、逆の方向で、彼とまとまっていくつもりよ。」
とニワとコウが、その時になって始めて気がついたように、
「あれ?コウは?」
「あ、あれ、言ってなかった?まだ、買い物が、あるからと言って、彼と一緒に買い物よ。」
この時、彼女等には、特に、彼女が抜け駆けしたとも考えず、焼きもちを妬くこともなかった。
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