第49話 参考作品を求めて
「ダメだー!」
いろいろとゲームを触ったオレだったが、結局調理実習で参考になりそうなシチュエーションを見つけることができずにいた。
「調理実習なんてイベントねーよ!」
『自力で攻略すればいいじゃない!もう二人も攻略してるのよ、それなりに骨身になってるでしょう!?』
「骨身ってのは経験から付くものなんだよ。オレは調理実習イベントなんてやったことないのだから、先人から学んだ方が良いに決まってる。それに、今回は同時に三人の好感度を稼ぐチャンスなんだぞ、下手にオリチャー発動して失敗したら目も当てられないだろ」
『あっそ。じゃあ、他の媒体から参考にすれば?ゲームだと参考に出来ないんでしょ?』
「他の媒体か……」
頭を悩ませながら自室を出ると、同じタイミングで彩夜の部屋から楓が出てきた。
「あれ?鏡夜じゃん!」
「おう、楓。来てたのか」
「鏡夜、休みの日なのに部屋に一人で籠ってたの?もしかして、遊ぶ友達いないとか?」
ぐぅッ!
こいつ……意地の悪いにやけ顔で煽ってきやがって。
反論のしようがない事実で煽ってくるのは反則だろ!
「その顔、もしかして図星?しょうがない、あたしがかわいそうな鏡夜の友達になってあげるよ!嬉しい?」
「うれしい、うれしい」
「そうか、そうか。あっでも、ちゃんと高校でも友達作るんだぞ!」
「へいへい。そうだ!楓と彩夜に聞きたいことがあるんだけど、ちょっとだけいいか?」
「いいよ」
オレはリビングで彩夜と楓を待つ。
なぜわざわざリビングかと言うと、彩夜の部屋に入ろうとしたら、ものすごい勢いで拒絶されたからである。
彩夜の奴、また汚部屋にしてるな……久しぶりにまた掃除するか。
「お待たせ。で、質問ってなに、アニキ?」
「今度学校で調理実習があるんだけど、知らない奴と組むことになっちまってな。参考になりそうなもんを探してんだ。ドラマとかで調理実習風景とか見たことない?」
「そもそもあたしはほとんどドラマと言うかテレビ自体見ないし。てか、ほとんどの学生が基本、動画とかゲームで時間潰してるしょ!」
「そうなのか……。彩夜は?たまにテレビつけてるよな?」
「たまに見るけど、最近のドラマは学生が主人公の作品ほとんどやってないから、調理実習どころか学校のイベントの参考にすること自体が無理だと思うよ」
「あ、そうなの?」
ダメか~。
「てか、いくら知らない人と組むからって、調理実習の予習とかするか普通?」
「しない」
「念のためな、念のため」
君たちにはわからんだろうな!イベントにおける予習の大切さが!!
やるとやらないではその後の行動が天と地ほど変わってくるんだよ!……たぶん。
「ねえアニキ、最近ゲームやってるのってそれ?」
「え!?」
は?え!?彩夜にゲームのことバレてた!?
大量の恋愛シュミレーショゲームの山を見られた!?
それだけならいい。いや、よくないけどまだマシだ……エロゲの方を見られていたら……。
彩夜の一言に背筋が凍り、冷や汗が垂れる。
落ち着け、落ち着け。
エロゲが見つかっている可能性は低いだろう……。
基本的にダウンロード版で購入し、フォルダーの森の奥の奥の方に隠している。ダウンロード版がないものに関しても、店頭で購入しベットの下などという使い古された場所ではなく、大量の全年齢向け恋愛ゲームとともにクロゼットの中に隠してある。
「ど、どうしてゲームのことを……?」
うおー!動揺してめっちゃ声が震えてるー!!
「だって、アニキがこのゲームは参考になるだとかならないだとか言ってるのが部屋から聞こえてくるし。それにこの前の子犬育てるゲームも面白かったけど、アニキが買うようなやつに思えないし」
「ああ、そうなんだ……」
セーーーフ!!
この感じはエロゲどころか普通の恋愛ゲームの方も見られてないな。
「なぁなぁ、もしかして、好きな人を落とすために調理実習の予習しときたいってこと?」
「そうなの!?」
「い、いや、違うけど」
急に核心を抉ってくんじゃねーよ!ドキッてすんだろ!
「じゃあ、なんで最近ゲームやるようになったの?」
「前はやってなかったのか?そいつは怪しいな」
楓の奴、楽しんでんだろ!?
ええい、背に腹は代えられん!
「実はあまり友達がいなくてな……それで一応努力してんだ……」
くそぅ。妹の前でこの発言。
なんて情けない兄なんだ……。
「あはははは!!」
嗤うんじゃねーよ、楓!
彩夜もそんな哀れんだ目で見ないでくれ……。
ああ、穴があったら入りたい……。
「ゲームもドラマもダメとなると、後は小説とマンガか……。オレと近しい人でこの手のものに詳しい人は……」
『村雨さん?』
「そうなんだが……今回は村雨が班にいる以上、聞けねんだよなー。こいつ予習してるってバレることになる」
『じゃあ後はー、陰浦さんとか?図書室でいつも大量の本を積み上げてるし、マンガはわからないけど、小説は読んでそうじゃない!?』
「同学年の人は避けたいんだが……それしかないか」
放課後、オレは久しぶりに図書室へ向かう。
なんやかんや、体育祭前ぶりだな!
図書室は相変わらず人がおらず、閑静な場所である。
『ここ、いつ来ても陰浦さんしかいないわね!』
図書室への来客に驚いたのであろう、こちらを見た陰浦と目が合う。
目が合った途端、陰浦はサッとオレから目を切る。
いつも通りだな。
陰浦のことをなにも知らない人からすれば、陰浦の行動は失礼な行動に移るかもしれない。しかし、オレからすれば人見知り全開の陰浦の行動は、見慣れた安心感のある行動だ。
マーカーは……まだあるか。
「ふーーー」
オレは大きく息を吐く。
初恋マーカーが付いている以上、ターゲット候補だ。
嫌われることのないよう、細心の注意を払わねばならない。
オレが受付へと歩みを進めると、それに気づいた陰浦は隠れるように頭を本で覆って縮こまる。
これで、受付が務まるんだろうか……人が来ないから助かっているだけのような……。
「久しぶり、陰浦さん。ちょっとだけ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「……なっ…なんでしょう」
陰浦は本で目線を隠したまま、蚊の鳴くようなか細い声で返答する。
図書室が静寂に包まれていて助かった。そうじゃなかったら、確実に聞き取れなかった。
「えっと、調理実習のシーンがある小説かマンガを探してるんだけど、いい本を知ってたりする?」
「…………」
「…………」
……長い。
しかし、この手の寡黙キャラはゲームではただ無意味に黙っているだけではなく、大量の地の文が用意されている。頭の中では適切な表現や会話をしようといろいろ考えており、それをアウトプットするのが苦手なだけ。
つまり、アウトプットできる状態になるまで待ってあげれば、会話が成立する。
だから、ひたすら陰浦の言葉を待つ。
「……料理に関する本なら……」
「あー、料理じゃなくて調理実習がいいんだよね……。そうだ、図書室になくても陰浦さんのおすすめの作品でもいいよ!買って読むから!」
オレのその発言を聞いた陰浦の手がペンを持ち奔る。
筆談が始まったか……。
そう思ったが、違った。
「こ、これ……」
オレは陰浦から紙を受け取る。
そこには、大量の単語が並んでいる。
「これは?」
「あっ……えっと…………ごめんなさい。多すぎですよね?」
「……?」
頭の中で会話が進んでいるんだろうが、わからん……。
陰浦の方が先に自身が先走り過ぎたことに気付いたらしい。
急いで会話を戻してくれた。
「調理実習のシーンがある作品……です……」
「ああー!ありがと!いっぱい挙げてくれて助かるよ!」
「……い、いえ……」
オレは陰浦からもらったメモを握りしめ、本屋へと向かう。
『陰浦さん、最後嬉しそうだったわね!』
「自分の好きなものを受け入れてもらえるのは嬉しいもんだからな!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます