第47話 夜闇に響く慟哭
オレはあまりの衝撃にその場で固まる。
「お、お邪魔してます。鏡夜くんにちゃんと話しておきたいことがあったから……その~……」
いやいや、なに考えてんだ、この人!!
もうそろそろ0時だぞ!
そんな時間に男の家に来るもんじゃないだろ!!
「何時だと思ってんですか、親御さんが心配しますよ」
「それは……」
「駅まで送ります。話しは歩きながら聞かせてください」
「え!?でも……」
「暗い中、女の子一人で返すわけにいかないでしょ?それともなんですか?思春期の男子がいる家に泊まる気ですか?」
「……ごめんなさい」
「彩夜、兄ちゃん風歌先輩送ってくるから」
「わかった。風歌さんの話ちゃんと聞いてあげてね?」
「ああ」
オレと風歌先輩は駅までの夜道を並んで歩く。
「急にごめんね」
「それは構わないですけど……。よく家わかりましたね」
「彩夜ちゃんと連絡先交換したからそれで……」
いつの間に……。
だから、彩夜が風歌先輩のことを気遣ってたのか。
「それで?こんな時間にわざわざ来て、何の用ですか?」
「あっ、うん。雷歌ちゃんをけしかけるために、鏡夜くんに近づいたって話……。アレは違うの!?いや、違くないんだけど、その~……」
「ふっ。随分思い切った滑り出しですね」
「え!?なにが?」
「風歌先輩が、オレがあの時の話を全部聞いてたと想定して話しているので」
「それは……いいの、ちゃんと全部話すつもりだから。
でも、そうだよね。最初から説明しないとわかんないよね?」
そう言うと、風歌先輩は今までの行動意図を語って聞かせてくれた。
「雷歌ちゃんはね、私が好きな人に興味を持っちゃう子なの。でも、私が好きなった人と雷歌ちゃんの相性は良くないみたいで、毎回長く続かないの。
だから、今まで私が好きになった人とは違うタイプの人だったら、雷歌ちゃんは上手くいくんじゃないかなって思ったんだ……あと、私も取られなく済むし……」
「なるほど、そこで白羽の矢が立ったのがオレということですか」
「うん。学校一の不良さんだって聞いて、私は絶対関わろうとしないだろうな~って……でも、実は最初話しかけた時迷ったんだ。
雷歌ちゃんと話してる時も噂みたいに怖そうじゃなかったし、私の時も……でも、この人しかいないんだと思い込んでたから……」
風歌先輩との最初の会話か……覚えてないな……。
「途中までは雷歌ちゃんも鏡夜くんに興味持ってそうだし、上手くいってたと思ってたんだけどね。
でも、失敗しちゃった……ううん、最初から失敗してた……」
風歌先輩が立ち止まる。
数歩前に出たオレは風歌先輩の方へ振り返る。
「私、鏡夜くんが好きです。
最初は確かに不純な動機で近づいたけど、今は違うの。
優しくて、かっこよくて、ダメダメな私に自信をくれる鏡夜くんが好きです」
予感があった。
風歌先輩は駅までにきっと勇気を振り絞ると……だから、オレに迷いはなかった。
「ありがとうございます。……ですが、その告白にお応えすることはできません」
「……やっぱり雷歌ちゃんの方が……」
「いえ、オレは誰とも付き合う気はないです」
「そっか……そっか……聞いてくれてありがとね」
「いえ……」
風歌先輩の声が震えている。
零れ落ちそうな涙を必死に堪えているのが伝わる。
かける言葉が見つからない。
「よかった……ッ……ちゃんと……っ……ちゃんと言えた……。
初めて……ヒック……告白できた……好きな人にっ……ぅ……好きだって……。
好き……好き……で……」
夜闇へと風歌先輩の慟哭が昇る。
大粒の涙でぐしゃぐしゃになった風歌先輩の顔が月明かりに照らされている。
オレがもっと上手くやっていれば……いや、そもそも出会い方が違ければ、別の未来もあったのだろうか?
風歌先輩に触れる資格のないオレはその場から動くことすら出来ずに、目を閉じた。
どれだけの時間そうしていたのだろう?
風歌先輩は涙を拭いながら鼻をすする。
「ごめんね、みっともないとこ見せちゃって?」
「いえ、みっともなくなんて……」
その後、駅まで沈黙が続いた。
この場合、どうしたらよかったのだろうか?なんと声をかけたらいいのだろうか?恋愛ゲームにはこう言ったシチュエーションの正解もあったりするのだろうか……。
オレはここまで二人の攻略を成功させた恋愛ゲームに信頼を置いている。
だが、あまり調べる気にはならなかった。
「終電、問題なさそうですね」
「うん」
「最寄りに着いたらご家族の方に迎えに来てもらってください。こんな時間に一人は危ないですから」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「いえ、心配させてください。告白にはお応えできませんでしたけど、風歌先輩はオレにとって大切な人に違いありませんから」
「ありがと……ねえ、鏡夜くん。もし、彼女を作ってもいいと思ったら、その時は教えて欲しいな。きっと再チャレンジするから!
それと、たぶん雷歌ちゃんも鏡夜くんのこと本気で好きだと思うの。それでね、もし鏡夜くんが雷歌ちゃんの方がいいなと思ったら私に遠慮しないでね?その時は泣かないから」
「わかりました」
風歌先輩を見送ったオレは、猛ダッシュで駅の個室へと入る。
「間に合った~」
『なに?お腹痛かったの?しんみりしたムード台無しね!』
「ちげーよ!もうすぐ0時なんだよ!てか、腹痛だと思ってんなら一緒に個室に入ってくんなよな!」
トーカと言い争っているうちに、時計の針が0時を指す。
と同時に、オレの脇腹から激しいピンク色の光が放たれる。
オレはその光が可能な限り漏れないよう、手で必死に覆う。
「あっぶねー!」
『なーんだ!そう言うことね!』
「この光、なんとかならないのか?」
『さあ?』
「くそ。この仕様も面倒くさいな」
オレは脇腹のマークを確認する。
ゲージはちょうど五分の二くらい貯まっている。
「やっぱ、五分の一ずつしか増えないのか」
『この調子ならあと三人だし、思ったよりもすんなり達成するんじゃない?』
「だといいんだがな」
約二ヶ月で二人。ペースはかなりいいと言えるだろう?
あと、ターゲット設定されてるのは日菜と桔梗さんか。
日菜は初恋の人を教えてもらえていないから成就待ちだろ?となると、次は桔梗律かな?
真面目だし堅物だしで相性悪そうなんだが、大丈夫なんだろうか?
それと、あと一人か……。
現状だと、図書委員の陰浦とクラスメイトの三人。どれも難しそうだな~。
オレが家に帰ると、彩夜が起きて待っていた。
「まだ、起きてたのか。夜更かしは美容の大敵なんだから早く寝なさい」
「気になったから……。風歌さんに告白されたんでしょ?なんて返事したの?」
「なんでそう思うんだ?」
「普通、女の子がこんな時間に同じ学校の男の家に来ないよ。それに、家に来た風歌さん、なんか思い詰めながらも覚悟してる感じあったし。わかるよ。それで、なんて返事したの?」
「断ったよ」
「!?……そう……」
「もう気になってることはないか?ないなら寝なさい、彩夜は明日も学校だろ?」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
体育祭明けの火曜日、オレはいつものようにいつもの席でゲームをしている。
昨日はせっかく体育祭の振り替え休日だったってのに、最低限の家事だけやって後は抜け殻状態だったからな。早く普段の感覚を取り戻さねば!
「今日はあの先輩こーへんのやね」
「雷歌先輩か?体育祭終わったしな。わざわざ接点のなくなった後輩に会いに来ねーだろ」
「そないもんなんか」
雷歌先輩が来なくなったことで、オレの席は以前の静けさを取り戻している。
今回もきちんとリセットは働いたようだ。
それと、雷歌先輩がオレと付き合っているという話も聞かない。どうやら雷歌先輩はオレのお願いを守って体育祭の後のことは誰にも話してないようだ。
『そう言えば、さっき雷歌先輩と風歌先輩が一緒に談笑しながら歩いてるのを見たわよ!仲良くしてるみたいでよかったわね!』
「そうか」
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