第46話 予想外の来客
雷歌先輩の攻略を完了したオレは安堵から自分の席へ腰をおろす。
と、いかんいかん、気を抜いてる場合じゃない。
まだ終わってないな、リセットしないと。
それと、今日の0時までこのことを話さないよう口止めもしとかないとダメだな。
「ふふっ。鏡夜、本当にそこ好きだね」
「別に好きじゃないですけどね」
「ねえ、座ってもいい?」
「どうぞ」
オレは雷歌先輩を受け入れるように手を広げる。
雷歌先輩は正面から座ろうとする。
「ちょっい!なんでその向きで座ろうとしてるんですか?」
「もうちょっとギュッとしたい。お願い♡」
「しょうがないですね」
雷歌先輩は嬉しそうにオレに跨り腕を回してくる。
これは……身長差がなくなった分、より近いな。
『とっととキスすればいいのに……お邪魔虫は退散するからね』
「ねえ、鏡夜も腕回して」
「はいはい」
「えへへへ」
「相変わらず甘えん坊ですね」
前から思ってたけど、すごい甘えっぷりだな……相当我慢してたんだろうか?
彩夜もこれくらい甘えてくれたらな~?
それなりに厳しくしてるし、甘えてくれもいいと思うんだがな……。
「ねえ、鏡夜。鏡夜は私に甘えたいと思ったりする?」
散々、頼られたくないと言っていたのに急にどうした?
ここで「はい」と答えたら破局とか?
でも、初恋マーカーが消えたってことは、初恋が成就したと思ったってことのはずだし……。
ここからマーカー復活とかは勘弁だぞ。いや、でもトーカは基本説明不足だしあり得るのか?
一応、細心の注意を払うか。
「どうしたんですか急に?」
「その……鏡夜も妹がいるんでしょ?だったら、そういう感じ出さないけど、鏡夜も私と同じで本当は甘えたかったりするのかな~って……」
「そういうことですか。特に思ったことはないですね。雷歌先輩はオレに甘えて欲しいんですか?」
「ちょっとそう思うかも……好きな人に甘えてもらうのって幸せそう……。それに私ばっか甘えてるのちょっと不安」
おっと!これは意外な返答だったな。
てっきり甘えて欲しくないのかと思ってたんだが……。
「甘えたくなったら、言ってくれていいからね?私も鏡夜にいっぱい甘えるから」
「それじゃあ、お言葉に甘えて、お願いいいですか?」
「いいよ、なんでも言って!」
「しばらく、オレと付き合ったことを誰にも公言しないんで欲しいんですけど……」
「なんで!?私と付き合ってるの知られるの嫌なの!?」
雷歌先輩は胸ぐらを掴む勢いで迫ってくる。
まぁ、そうなるよな。
「落ち着いて、雷歌先輩。ちゃんとわけを説明しますから」
雷歌先輩の口止めは最も重要な項目だ。失敗できない。
確実に雷歌先輩をコントロールできるように慎重に言葉を選べ、湾月鏡夜!
「雷歌先輩は風歌先輩の好きな人を奪ってきたことをちゃんと反省してるんですよね?」
「してる」
「じゃあ、今、風歌先輩がオレと雷歌先輩が付き合ったと知ったらどう思うと思いますか?」
「それは……」
「オレは雷歌先輩には風歌先輩と仲良くしてもらいたいです。
だから、風歌先輩に嫌な思いをさせないためにも、風歌先輩はもちろん周囲の人にもしばらく黙っていて欲しいです。
雷歌先輩とは周囲からちゃんと祝福された状態で付き合いたいので。
雷歌先輩はどうですか?」
「私は……私も風歌にちゃんと認めてもらいたい」
「では、納得していただけますか?」
「うん、納得した。私たちのこと考えてくれてありがとね、鏡夜」
「いえいえ」
よーし。
これで、口止めも完了!
後はリセットするだけだな。
「ところで、風歌先輩にも甘えてみたらどうですか?」
「それは……私、お姉ちゃんだし……」
「別に姉が妹に甘えたっていいんですよ。風歌先輩、甘やかすの上手ですし」
「そうなの!?」
「ええ」
「ん?……ねえ鏡夜?なんで風歌が甘やかすのが上手だって知ってるの?もしかして、風歌に甘やかされたことあるの?」
あっ……。
姉妹中を良好にしようという変な気を起こしたら墓穴掘った。
まずい。雷歌先輩のほっぺがリスみたいになってる。
「いや、その……」
「どんなことしたの?」
「弁当作ってもらいました」
「もしかして、体育祭準備の日のお昼に二人ともいなかったのそれ?」
「はい」
「ふーん。風歌には甘えたのに、私には甘えたいと思わないんだ……」
「いやいや、そうじゃなくて……ほら!好きな人だと小恥ずかしいというか、なんというか……」
「……」
めちゃめちゃ疑われてるーーー!!
そうだよな。ついこの前まで他の女の人に甘やかされてましたとか、あり得ないもんな。
急にオレは雷歌先輩に顔を掴まれる。
「ちゃんと目を見て答えてね!私と風歌どっちが好き?」
「雷歌先輩です!」
「先輩いらない」
「へ?」
「雷歌って呼んで!あと、タメ口がいいかも……」
オレの失態だしな、ここは
「雷歌、オレは雷歌が好きだよ」
「──ッ!?」
雷歌先輩は下を向いてしまう。
これは……許してもらえたのだろうか?
「じゃ、じゃあ……」
雷歌先輩がオレの上でもじもじする。
言いにくいことか知らんが、この体勢でその動きはまずい!
「あ、あの、雷歌!?」
「え?あっ!?」
オレの状態に気付いたのだろう、雷歌先輩がオレの上から跳び降りる。
顔が真っ赤である。
いや、恥ずかしいのはオレだから!
てか、前は同じ状況でオレのことおちょくってたのになんで今回は照れるんだよ!
「こ、これは、前にも言った通り生理反応ですからね!?生物としてしょうがないやつです!」
「私が好きだからとか……ないの?」
「あ……ありますけど……」
「そう……」
「それで、さっきなに言おうとしたんですか!?」
「え!?あ、あの~……キス…してみたい……」
!?
どう切り出すかと思っていたが、向こうから切り出してくるとは……。
「いいよ。おいで、雷歌」
「うん」
静寂に包まれた真っ暗な教室の中に、唇の重なる音だけが聞こえる。
『これで、二人目ね!順調じゃない!』
「スピード的にはな。だが、もっと上手く立ち回らないと……今回は行き当たりばったり過ぎた」
『そう?初恋成就成功したんだし、別にいいんじゃない?』
トーカは能天気だな。
「そうだトーカ、確認いいか?」
『なに?前にも言ったけどスリーサイズはまだ好感度が足りてないわよ!』
「ちげーよ!初恋が成就するとマーカーが消えるだろ?あれ、途中で気が変わったから復活とかねーよな?」
『ないわよ。初恋マーカーは消えたら二度と現れないわ!だから、一度騙せればそれでミッションの達成条件もクリアよ!安心しなさい!』
騙すって、言い方わりーな。
……まぁ、その通りなんだけど。
「ちなみに、マーカーって初恋が成就しなくても消えるだろ?どんな感じで消えるんだ?」
『さあ?よく知らないわ!見たことないし!』
「は?え!?そうなの!?」
大丈夫かよ、この天使。
初恋成就は本来トーカの仕事だろ?
職務に関することを把握してないとは……そら、神に怒られて堕天させられるわ。
時刻はすでに今日の終了を知らせようとしており、近所の家の灯りもポツポツと消えている。
彩夜はまだ起きてるのかな?
オレの家にはまだ灯りがついている。
オレは彩夜が電気をつけたまま寝落ちしている可能性も考慮して、静かに玄関を開ける。
「ただい……」
玄関に翁草高校のローファーが置かれている。
また、日菜の奴来てんのか……てか、何時だと思ってんだ!?もう23時回ってんだぞ!
深夜まで遊び歩いている不良少女に説教でもしてやろうと、オレはリビングへと足を運ぶ。
「おい、ひ……──風歌先輩!?」
玄関の靴の主は日菜ではなく、風歌先輩であった。
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