第45話 阿雲雷歌との決着
暗い教室の中、一人になったことでオレは冷静さを取り戻した。
よくよく考えたら、必要なのは雷歌先輩の好感度であって、風歌先輩の動きは関係なかったろ。なんであんなことで動揺したんだ。
いや、終わったことをどうこう言っても前に進めない、重要なのはここからどうするかだ。
なにも聞いていませんは……逃げた時点で無理だよな、不自然過ぎる……。
となると、腹をくくって、次に雷歌先輩にあった時にエンディングまで行くしかない。
『鏡夜!雷歌先輩来るわよ!』
「はぁ!?」
なんで!?
いや、あの状況から追いかけてきたとしたら、教室に来てもおかしくないか!
「阿雲風歌の方は?」
『風歌先輩は走って学校から出ってたから、別のところに鏡夜を探しに行ったんじゃないかな?』
ということは、ここに来るのは雷歌先輩だけか……。
ちょうどいい、ここで決着といこう。
オレが覚悟を決めたのと同時に、教室の扉が開く。
「……いた!よかった……」
「雷歌先輩……」
廊下で大きく息を吐いた雷歌先輩は覚悟した顔で、オレの方へと歩み寄ってくる。
「鏡夜、アレは違うの!!」
「アレってどれのことですか?」
雷歌先輩はオレがどのタイミングから聞いてたか知らないはず、こちらに話しを合わせることができないように情報の開示はなるべく避けさせてもらう。
「だから、その……」
やはり、なにを話してもいいか迷ってるな。
ダメ押しするか。
「どうしたんですか?なんか弁解しに来たんですよね?別に悪いことがなければ、弁解する必要がないですし、ご自身でもこれは良くないと思うことがあるから来たんですよね?」
「あっ、えっと、それは……その……」
ウソをつかれたら面倒だ、考える時間を奪うか。
「もしかして今、都合のいい言い訳とか考えてます?本音じゃないなら聞く意味ないですし、オレ帰りますね」
「待って!!ちゃんと、ちゃんと話すから……」
『ちょっと!いくらなんでもやり過ぎなんじゃないの!?嫌われたらどうすんのよ!?』
だとしてもだ!
あの場面に遭遇してしまった以上、このタイミングが雷歌先輩攻略の恐らくラストチャンス。
予想外の出来事が起こった時ほど、人の本性は露わになる。感情が昂っているであろう今が最大の好機だ。この場で好感度がどの程度か測らせてもらう。
少なくともオレを探してまで弁解しに来たんだ。勝算がないわけではない。雷歌先輩の本心、ここでぶち撒けてもらうぞ!
それに、そもそもこの状況は雷歌先輩の身から出た錆でもあるしな、多少やり過ぎでも文句ないだろ。
雷歌先輩は助走をつけるように、何度も浅く呼吸をする。
オレはそんな雷歌先輩を黙って待つ。
「わた、私……っ……私が……風歌の……ヒック……うっ……うッ……」
は!?
雷歌先輩は嗚咽交じりに話し始めたかと思ったら、大粒の涙を流し始めてしまう。
「ちょちょちょ、どうしたんですか!?なんで泣いて……」
雷歌先輩の涙にオレは無意志に席から立ち上がり、雷歌先輩へと近づいていた。
「……っ……嫌われたくない……鏡夜に嫌われたくないよ……!」
感情が決壊した雷歌先輩はオレの胸にしがみつき、わんわんと泣き始めてしまう。
くっそ、これはずるいだろ!
母さんが「女の涙は最強の武器だから気を付けなさい!お父さんなんてそれでイチコロだったんだから!」と言っていたが……こんなもん優しくせざるを得ないだろ!
「嫌いになったりしませんから、落ち着いて全部話してくれますか?」
「そんなことないよ!……っ……言ったらきっと嫌いになる……」
わかってんなら、初めからそんなことやるなよな……。
その言葉をグッと飲み込み、オレは雷歌先輩をあやす。
「大丈夫ですよ。人間誰しも悪い所はあるもんです。オレだってろくでなしですし。今後それを直していけばいんですから!それに、オレは雷歌先輩の良いところも悪いところも知っておきたい、だから聞かせてくれませんか?」
「……っ……ほんど?……嫌いにならない?」
「なりません」
「……わがった」
その後、雷歌先輩は今まで風歌先輩が好きになった相手をことごとく奪ってきたこと、オレに対しても最初は同じように奪うつもりで近づいたこと、その動機についても声を震わせながら洗いざらい話した。
行動の動機は、ストレスと風歌先輩に対して嫉妬だそうだ。
雷歌先輩は、双子だけど自分がお姉ちゃんと決められたから、頼りになる姉たらんと努力したそうだ。結果、親に甘えることもできず、周囲にも完璧を求められ、ことあるごとに「お姉ちゃんでしょ?」っと我慢させられてきたらしい。
対して妹の風歌先輩は、親へ素直に甘えることができ、ドジっても周囲からは許され、努力もしなくていい。
それが、不公平とのことだ。
『風歌先輩はいっぱい努力してたのに!!』
同感だ。
オレが風歌先輩と一緒にいた時間は短かったが、それでもドジれば周囲から常に雷歌先輩と比較され貶されてたし、その分努力をしていたのも見てきた。
ただ、努力を評価されなかったのは雷歌先輩も同じなのだろう。
努力が見えないから、雷歌先輩はなんでもこなせる天才に見られ、完璧を求められたのだろうから。
それでも、雷歌先輩の嫌がらせが正当化される理由にはならんがな。
「幻滅したでしょ?」
「そんなことないですよ」
初恋とその記憶まで奪ってるオレが幻滅とか、どの口がって感じだしな……。
「ただ、今後はやめるように!自分でもよくないことだと自覚してるんでしょ?それと、風歌先輩はきっと雷歌先輩が思っている以上に傷づいてきたでしょうから、きちんと頭を下げてください。許してくれないかもしれないですが」
「うん。ちゃっと謝る。……それで……」
「わかってますよ。オレも他言しませんから」
「そうじゃなくて!その……私、鏡夜が好き。他の人と仲良くしてると不安になるの、一緒にいると素直になれるの。だから……あなたの彼女にしてほしいの!」
あー、そうだった。
一瞬、攻略のこと忘れてた。なに真面目に更生やってんだオレ!
今のところ本気で好きになってくれてそうではあるんだけど……一応確認するか。
「風歌先輩はオレのこと好きじゃないですよ?」
「風歌にも錯覚だって言われた。でも、風歌が好きなだからとかじゃなくて、鏡夜が好き!」
「オレなんでもかんでも甘やかしたりしませんよ?」
「ちゃんと怒ってくれるところも好き!」
「オレが甘やかさなかったら、すぐ破局ですか?」
オレがそう質問した途端、再び雷歌先輩の目から涙が溢れる。
「ちょ、なんで泣くんですか!?」
「だって……鏡夜、ずっと断る言い訳探してる……ぅ……だから……諦めようと、思ったけど……っ……諦めたくないよー……好きだよー、大好きだよーー……うぁぁああん!!」
「いや、そうじゃないですよ!雷歌先輩に好きって言ってもらえるのが嬉しくて、つい意地悪を!!オレも雷歌先輩好きですよ!?」
「……ほんとに?」
「ほんとに!」
「……でも……」
頑固だな。
まぁ、オレの失態だけど……。
「雷歌先輩、両手出して?」
「ん?」
「ちゃんと好きです。これで信じてくれますか?」
雷歌先輩が両手を出したところで、オレは正面から雷歌先輩を強く抱きしめる。
抱きしめられた雷歌先輩もオレの体に腕を回し返してくる。
なんか、自分からこういうことするの背中がむず痒いな。
雷歌先輩は一向にオレから離れる気配がない。
「あの~雷歌先輩、そろそろ……」
「もうちょっとだけ…………ふふふ」
「な、なんすか」
「鏡夜の匂いがする」
「それ、なんか嫌ですね」
「私は好き。それと、鏡夜の鼓動が伝わってきて、あードキドキしてくれてるんだ~って安心する」
「そりゃまぁ、雷歌先輩とハグしてるわけですし……」
「大好き……大好き!」
雷歌先輩が強くオレを抱きしめると同時に、雷歌先輩から激しい光が放たれ、オレはとっさに目を閉じる。
光が納まり目を開くと、雷歌先輩の頭上にあった初恋マーカーが消えている。
ふーーー。随分と不格好だったが、なんとか攻略完了だな。
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