第22話 赤点補習

 翌週、オレは意気消沈の中登校した。


『なんかゲームをクリアするペース早くなってない?』

「結構な本数プレイしてるからな。あーあ、現実もこれくらいサクッとクリアできればいいんだけどな」

『ほんとにそうね!ここまで苦戦するとは思ってなかったわ。もういっそ当たって砕けろ方式でどんどん告白してくってのはどう!?』

「却下。そんなんでコロッと落ちるような奴は初恋まだですって状況になってねーよ」

『そうよねー。いろいろと拗らせちゃってそうだもんねー』


 早朝に誰よりも早く登校し、教室でゲームをやる普段通りの日常。

 気分が落ちている時こそ、いつも通りのルーティンをこなすべきなのである。そうすることで、気持ちも自然といつも通りになるものだ。

 よーし、落ち着いてきたな。この調子で瀬流津に対しても慌てずに対応しよう!冷静さを欠くとロクなことにならんからな。

 努めて普段通りにすることで気持ちをリセットしてると、なにやら廊下が騒がしくなる。


『なにかしら?』

「行ってみるか」


 オレは声に釣られるようにフラ~ッと廊下へ出る。

 すると、廊下へ出た瞬間、人にぶつかる。

 なんだ?全然見えなかった……。


「子ども?」

「子どもじゃないわよ!って湾月じゃない!?」


 目線を降ろすと、桔梗が尻もちをついていた。


「ちゃんと前見なさいよね!」

「いや、お前が小さいから……」

「はあ゛?」

「すんません」


 いらんこと言ったな。

 桔梗に睨まれ、オレは謝りながら手を差し伸べる。


「ありがと。それよりアレはどういうこと?」

「アレ?」

「定期テストの結果よ!最下位じゃない!しかもダントツで!!」


 ああー、そういや今日はテストの順位が張り出されるんだったな。

 じゃあ、さっきの騒ぎの原因はそれか。

 と言うかなんで、この学校は全順位張り出すかね?オレみたいな下位順位の奴とか晒し者同然じゃん!張り出すならトップ10とかでよくないか?

 ……ってダントツ!?


「なあ、もしかして点数まで張り出されてんの?」

「そうよ。全科目の合計点が張り出されるのよ!」


 なんなん!?この学校!

 めちゃくちゃ晒すじゃん!!

 つまりなに?オレがただのバカじゃなくて、超が付くバカだって学校中に知れ渡ったってこと?

 ふざけんなよ、もー!


「あの点数、あんたいくつ赤点なわけ?」

「国語以外全部です」

「はー!?留年しちゃうわよ!ちゃんと勉強しなさい!!」

「あい」


 朝から母親に怒られた気分だ。

 まぁ、母さんに成績でどうこう言われたこととかないんだが……。


「ちなみに、桔梗さんの順位は?」

「何位だと思う!?」


 え!?クイズ形式?

 面倒くさいな…。

 こういうの絶妙な数字答えないと好感度下がるやつだろ?ゲームのイベントでもあったわ。

 どうすっかなー?たしか桔梗って頭いい方なんだよな?


「……うーん、四位とか?」

「ハズレー!」


 この感じ、四位より上かな?

 だったら、いいとこいったんじゃないか!?


「正解は?」

「一位よ!」

「一位!?すげーな……。おめでとう」

「別に大したことじゃないわ!」


 その割には、鼻高々って感じですけどね。

 その後オレは、登校してきた詞にも成績を心配され、村雨にはケタケタと笑われた。



 授業後、オレは担任の色増いろます先生に生徒指導室に呼び出された。


『また何かやらかしたの!?』

「知らん!オレはなんにもやってない!」

『じゃあ、なんで生徒指導室になんて呼び出されるのよ!』

「だから知らんて!」


 オレとトーカが言い争っていると、色増先生が入ってくる。


「では、赤点の補習を始めます」

「へ?」

「赤点の補習です」


 そう言いながら色増先生はオレが座っている席に用紙を置く。


「これ、テスト初日の科目です。なにを使って調べて構いませんので、全部きっちり解いてくださいね」


 オレは用紙をペラペラとめくる。

 用紙には結構な量の問題がズラーッと並んでいる。

 これを全部解くのか……。

 ……って、テスト初日の科目って言った?


「あの~、テスト初日の科目ってことは、これがテスト期間分、つまり一週間続くってことですか?」

「そうですよ」

「補習って毎回こうなんですか?」

「さあ?先生も補習を担当するのは今回が初めてなので。そもそも赤点取る生徒自体がここ最近いなかったそうですし」


 左様でございますか。

 この学校では皆さん優秀と言うよりは、オレが特別おバカってことですね。

 にしても、そんなストレートに言わずに、もうちょっと配慮してくれてもいいんじゃ。

 頭がよくない自覚はあるけど、面と向かってここ最近の中だと君だけがバカですって言われると、オレも普通に傷つくからね?


「これって持ち帰って翌日提出するとか……」

「ダメです。終わるまで生徒指導室にいてください」

「……まじすか」

「まじです」


 地獄じゃねかぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!

 ここから一週間、放課後毎日この大量の問題を解き終わるまで、この生徒指導室で缶詰!?

 この学校の補習きつ過ぎない?

 オレの学力だと下手したら、終電どころか日が昇るまでかかるんじゃ……?

 いや、それは絶対ダメだ!!

 今は瀬流津の攻略中。

 いつ瀬流津が秘密の練習に帰ってきてくれるかわかんねんだ!毎日キッチリ顔を出さなきゃ!


「ほら、湾月くん。手が止まってますよ?湾月くんが終わらせてくれないと先生も帰れないんですからね?頑張ってください!」

「あい」


 先生も帰れないって……。

 要はこの補習は、クラスから赤点の生徒を出した担任へのペナルティーも兼ねてるってわけか。

 そいつは色増先生に申し訳ないことをしたな。

 よし!一丁頑張りますか!



 ──まったくと進まん。

 暗記科目である日本史は問題なかった。

 それこそ穴が開くほど教科書を見れば、答えを発見できるからな!

 だが、問題は数学だ。

 応用だかなんだか知らんが、基礎をこねくり回さないと答えに辿り着かないってのが難易度高すぎる。

 知恵袋に頼ったりもしたのだが、返ってきたのは「それくらい自力で解けるようになりましょう」という解答のみ。

 あー、ストレスが溜まる!

 いや、落ち着けー落ち着けー。

 焦ったら周りが見えなくなって、できることもできなくなる。クールに思考しろ、湾月鏡夜!

 オレは大きく深呼吸する。

 冷静さを取り戻したオレはあることに気が付く。


「あの~、先生」

「なんですか?」

「この問題、なにを使って調べてもいいって言いましたよね?」

「言いましたね」

「それって先生じゃなくて、学校が決めたルールですか?」

「?そうですけど」


 ビンゴ!


「先生、ここの問題教えてください」

「え!?それは──」

「先生だって、こんなところで不出来な生徒に構ってるくらいなら、自分の仕事を終わらせてちゃっちゃと帰りたいでしょ?

 それに、別に答えを教えて欲しいとは言いません。解き方を教えて欲しいんです。

 それなら、学校の意向にも反してないですよね?」

「まぁ、解き方を教えるのなら……」


 よし、釣れた!

 先生だって人間、不出来な生徒が解き終わるのただひたすら待つなんて苦行ですもんね。

 とっとと終わって欲しいという気持ちを抱えてたに違いない。

 だったら教師として押し止めていた楽な道を正当化してやれば、オレの意思に従ってくれるってもんよ!

 攻略を始めてから、頭の回転よくなってきたな!


「説明ちゃんと聞いてますか、湾月くん?」

「はいはい」


 先生を味方につけたオレはササッと問題を片づけるのに成功した。

 やっぱ冷静になるって大事だな!

 おかげで、思ったより時間取られずに済んだ。

 この調子なら攻略に支障を出さずに、補習もなんとかこなせそうだな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る