第21話 山積みの問題

『来なかったわね……』

「これはさすがに予想外だ……。部活にはいたんだよな?」

『いたわよ。イジメてた先輩たちはいなかったけど、他の子たちとの関係は改善されてそうだったわ』

「そうか……」


 となると、オレとの関係に問題があるってことだよな……。

 通常の恋愛であれば、ここで手を引いてしまうのが賢明なのだろう。

 しかし、オレにはターゲット設定と言う縛りがある。これがある以上、現状で撤退という選択肢はない。

 厄介な縛りだな!もう!



 数時間前──


 オレはないとは思いつつも、女子更衣室乱入事件で学校の話題は持ちきりであったらどうしようかと恐怖していた。

 教室に入った瞬間、クラスメイトの鋭い視線を浴びせられ、噂が広まってしまっているのかと心臓が痛くなった。

 しかし、どうも鋭い視線は噂が原因ではなかったらしい。


「おはよう、鏡夜!」

「久しぶりの遅刻やない?今日は誰を助けとったん?」

「ランドセルが木に引っ掛かった小学生」

「そうなの!?」

「あははは、なんやそれ!」

「にしてもやっぱ、あんたが遅刻してくると教室の空気がピリッとすねんな」

「だから遅刻しないようにしてたのに……」


 これはオレの女子更衣室乱入の件、噂になってないか?


『ねえ、もしかして瀬流津さんのこと噂になってない?』


 トーカも同じことを思ったか。

 まぁ、その可能性は十分あると思っていたけどね!


「みたいだな。まぁ、広めるとしたら先輩たちだけだろうしな」

『そうなの?』

「ああ。まず瀬流津は言いふらすような性格じゃない」

『それはそうね!』

「で、教師陣も生徒のやらかしを外部に吹聴するのは、仕事に差し支えかねない。

 となると、言いふらす可能性があるのは、先輩たちか部外者と言うことになる。

 ただ、あの日はテスト期間最終日であり、学校は午前中で終了。しかもほとんどの部活が活動を再開していなかったから、校舎内に残っている生徒は極端に少なかった。

 現に更衣室にも、いつ何時でも練習している瀬流津とその瀬流津に嫌がらせしていた先輩たちしかいなかったしな。

 そう考えると、部外者の線も薄いだろうな」


 仮にあの場に部外者がいたとしても、そいつらも先生たちに口止めはされるだろうがな。

 言いふらす、言いふらさないは別にして。


『なるほどー!でもなんで先輩たちも言いふらさなかったんだろ?』

「リスクを負うことになるからだろ」

『リスク?』

「っそ。先輩たちは3つのリスクを冒すことになる」

『どんなの?』

「一つは自分たちがイジメをしていたという事実が学校中に広まるというリスク。

 オレがやらかしたと言いふらせば、当然なんでそうなったかは聞かれるだろう。

 その場合、芋づる式に自分たちが、瀬流津に対しやっていたことが明るみになりかねない。

 この学校は素行の悪い奴はお断りって空気感が強いからな、そんなリスクは負いたくないだろう」

『ふむふむ』


 この学校の素行不良に対する当たりは、オレも身に沁みて感じているからな。

 空気感を作ってる側には悪意が全くないから、対抗する手立てがなくてきついんだよな~。


「もう一つ、裁定が重くなるリスク。

 オレの問題行動の発端は先輩たちの行動によるものだ。それは学校側も承知している。

 にもかかわらず、オレのことをどうこう言っていれば心証はよくないだろう。

 今回の件でどんな裁定をもらったか知らんが、反省の色なしとして罰が重くなる可能性がある。

 それは嫌だろう」

『確かに……』


 学校としてもイジメについて公表する気はないみたいだし、瀬流津も自分のやられたことを吹聴するタイプじゃない。自分たちが静かにしていれば外部に漏れることもないだろう。

 その対応がいいのか悪いのかは置いといて、オレにとっては正直都合がいい。

 庇われてる分、自暴自棄になって洗いざらいぶち撒けるってことがないからな。


「で、最後に、オレと言うリスク」

『鏡夜がリスク?どういうことよ?』

「先輩たち的には、オレは怒りに任せて女子更衣室に殴り込み、全員しばく宣言をした何をしでかすかわからない極悪の不良だぞ。

 そんな奴の失態を吹聴しようものなら、今度こそどんな目に合うか想像もしたくあるまい。

 要はここでも不良という特性が活きてくるということだな!」


 このリスクが一番怖いだろうな。

 オレが逆の立場でも取りたくないリスクだ。


『最後のが一番嫌なリスクね。ただ確かに、それだけリスクがあると、言い回ったりはしないわね』

「とは言え、絶対ではないからな。悪いが校内を観察してきてくれるか?」

『任せなさい!』


 トーカは張り切って飛んでゆく。

 先輩たちがちゃんと考えて行動できる人間であれば噂が広がることはないとは思うんだが……。

 まぁ、バカなオレでもこれくらいはパッと考え付くんだ!先輩たちも問題ないだろう!

 ただな……後輩にレギュラー取られそうになって、イジメを始めるような人間なんだよな~、大丈夫かな~。



 そして現在──


『やっぱり、噂が広がってて来づらいとか?』

「調べたんだろ?」

『調べたわよ!なに!?アタシがテキトー調査したって言いたいの!?』

「いや、心配してたのトーカじゃん。オレは信用してるって!」

『そう!それならいいけど!』


 なんなんだまったく。

 まぁ実際、トーカの情報取集にはかなり助けられてるんだけどな。

 バレることなく学校中の情報を集めるなんて、人間技では絶対無理だ。


『で?どうすんのよ?』

「とりあえず、様子見をしよう。今日は用事とかがあって、たまたま来なかっただけかもしれない」

『だといいんだけどね。嫌われてたらどうするの?』


 考えたくはないが……なくないよな……。

 全然幻滅だってあり得る行動だったんだ。

 かと言って、今あの場に戻れたとして、妙案があるのかと言うと思いつかないのだが。


「そうだな~。そうだったらアレしかないな!」

『アレ?』

「クリア後に解禁される大技、初手告白」

『初手告白?なにそれ?』

「序盤のイベントを一足飛びにスキップできる機能だよ。内部データ的にヒロインの中に一周目の記憶が保存されてるから、イベントを飛ばしても問題ないシステムのゲームがあるんだ」

『またゲームの話?』

「瀬流津にだってオレとの思い出はあるだろ?その点は同じだ」

『そこだけじゃない!』



 瀬流津攻略に頭をいっぱいにしていたオレは、ある重要なことを見落としていた。


「はーい。それではテストを返却しまーす!」


 忘れてたあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 やばい!完全い頭から抜けていた。

 テストは各授業ごとに返却され、その後順位が下駄箱前の掲示板に張り出される。

 名前を呼ばれたオレは震える手でテストを受け取る。


 24点。


 終わった……。

 赤点まず一つ。

 いや、これはもっとも自信のなかった数学だ。他の教科は赤点じゃない可能性も──。


 ──一週間後。


「鏡夜?大丈夫?」

「大丈夫なわけないやろ、瑠璃花。定期テスト壊滅だったんやで。な?」

「あーーーうん」

「あんたほとんど赤点やったんやろ?留年なんとちゃう?」

「そんな!?次、次頑張れば大丈夫だよ!次頑張ろ、鏡夜!?」

「……そうだな」


 オレがここまでダメージを受けているのは、テストの点が悪かっただけではない。

 この一週間一度も、瀬流津が秘密の練習に来なかったのである。

 やばいよな~。

 廊下ですれ違う時も、二組と三組の合同で行われる体育の授業の時も明らかに避けられている。

 瀬流津の攻略が行き詰ってるてのに、赤点の補習にやらかしの罰として体育祭の手伝いまでしなくてはならない。

 未来が暗い。

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