第19話 イジメ強制解決
テスト期間最終日に問題行動を起こしたオレは、生徒指導室に連れていかれた。
ここが生徒指導室か……。殺風景なんだな。
生徒指導室は非常に狭く、机と椅子以外何もない。
「大人しく待ってろ。事と次第によっては停学もあり得るからな!」
「あーい」
一発停学って、随分罰が重いな。
女子生徒を様子が気になっているのだろう、先生は生徒指導室にオレを残して退出する。
『ちょっと!これ──』
「トーカ、瀬流津麗華たちの様子を見に行ってくれ。特に先輩たち」
『え?て言うか、そんなことより──』
「いいから!様子を見に行ってくれ。向こうが口裏を合わせてる可能性がある。先輩たちだけが口裏を合わせてるなら何の問題もないが、瀬流津麗華も一緒に口裏を合わせているなら、こっちもそれに合わせてやる必要がある」
『……なにが「コソ泥だからヒーローにはなる気はない」よ。結局、瀬流津さんのために貧乏くじ引いてるじゃない。ここからなんとかなるのよね?』
「ああ」
『信じてるわよ、鏡夜!』
なんとかなると言うか、なんとかするしかないんだよ。
生徒指導室で待つこと数時間。
先生より早くトーカが戻ってくる。
『ただいまー』
「おかえり。どうだった」
『さすが進学校の先生と言ったところね。口裏を合わせられないように、関係者全員バラバラに聴取していたわ。さすがのアタシも分身は出来ないから瀬流津さんの聴取を覗き見させてもらったけど、それでいいのよね?』
「ああ、助かる。で?瀬流津麗華はなんて?」
『「先輩たちが窓からバッシュを投げて、それが下にいた湾月くんに当たった。そのことに怒った湾月くんが更衣室に殴りこんで来て、自分は犯人じゃないと開放されたから先生たちを呼びに行った」って。
自分が先輩たちにイジメられてたとかは一切話してなかったわよ。
あと、ずっとあんたは悪くないって主張してたわ』
「そうか……」
口裏合わせがないとなると下手なウソはつけないだろう。
瀬流津は先輩たちを守ろうとイジメの事実を話さなかったんだろうが、窮地に立たされた時の先輩たちのあの様子じゃ徒労に終わるだろうな。
先輩たちからすれば瀬流津や他の仲間がイジメについて暴露すると考えているだろう。そうなったら、隠していることが後から発覚するという形になるから、自己の印象が悪くならないように保身に走ってイジメの原因を押し付け合う形で、墓穴を掘るだろうな。
トーカが何か言おうと口を開いたところで、先生が入ってくる。
「待たせたな」
「……」
「どうしてあんなことをしたか聞かせてもらっていいか?」
さっきと明らかに態度が違う。
オレの行動理由を把握した上で、念のための聴取って感じかな?
「たまたま池のところにいたら、シュートという声とともに更衣室からオレの頭に物が降ってきまして、頭にきて乗り込みました」
オレは瀬流津とオレの関係性については伏せて説明する。
「なるほど、シュートと聞こえたから故意だと思ったんだな?」
「はい」
「そうか──」
その後はほとんどオレの話すことはなく、先生が一方的にことの経緯をオレに説明する形で終わった。
オレに物が当たったことは事故であり故意ではないこと。
先輩たちは一様にオレに反省の態度を示していること。
そして、瀬流津に対する嫌がらせが発覚したこと。
また、瀬流津のイジメについては瀬流津自身の希望もあり、吹聴しないようにと釘を刺された。
まぁイジメられてたなんて、下手に周囲の注目を集めるし、家族にも心配かけるしであまり周りには公言したくないよな。
……と言うか、それならオレに言うなよ!勘づかれてると思ったんだろうけど!
一通りの報告を聞き、これで終わりかと思っていたオレは最後にとんでもないことを宣告される。
「今回の件、お前が怒った理由は理解できる。ただな、実際に手は出してはいないとは言え、怒りに任せて女子更衣室に乗り込み、恫喝して、ロッカーを壊したことは反省してもらわなければいけない。だからお前には来月開催される体育祭の準備を手伝ってもらう!いいな!」
「わかりました……」
停学に比べたら体育祭の準備くらい安いのものか!…………じゃねーよ!!
オレ被害者だよね!?なんでオレにペナルティー発生してんの!?
いや、理由は説明してたし、学校側の体裁もあるんだろうけどさ!!
納得いかん……。
オレは不満に口を尖らせながら生徒指導室から解放される。
『もう!派手にやらかしてこれからどうすんの!?あんだけ「目立ったら攻略に支障が出る」って言ってたのに、女子更衣室に殴り込むなんて学校一の有名人になっちゃうじゃない!?』
「しょうがないだろ!イジメのことを知ってて見て見ぬふりなんかできねんだから」
『まぁ、それはいいわ!で?もう一つの不良のいいところってなんなのよ?今回活かされたの?』
「ああ、それな。いわゆる説得力ってやつだよ」
『説得力?』
「そう。オレが先輩たちを恫喝した時、先輩たちは本気でビビってたろ?
あれが不良じゃなかったら、人数で勝ってるしとか、地の利があるしとか、本気で殴ってくるはずがないとか高を括ってたかもしれない。
不良ってレッテルはああいう場面では、説得力を持たせてくれる」
『それだけ?』
「いや、もう一つ。次学校に登校した際、きっと今回の騒動で話が持ちきりだろうな」
『でしょうね』
「そんな時に不良だと、周りの反応は「へ~そうなんだ~怖いね~」くらいで終わる。予想通りで驚きがないからな。これが真面目系の奴がやると周囲の反応がことさらにでかくなる。これが悪い奴が悪いことしても波風立たない理論だ!」
『最低の理論ね!』
「人間なんてそんなもんだ」
つっても、攻略には間違いなく影響出るよな~。
今回の件が、ないとは思うが万が一広まってしまった場合、こういうの大嫌いであろう桔梗の攻略は絶望的だろうな~。
せっかく少しずつ話せるようになってきたところだったのに。
他の生徒にしてもそうだ。
女子に対し、一切遠慮することなく恫喝する男と恋に落ちる女子はいないとは言わないが、ほぼ存在しないだろう。
つまり、翁草高校の生徒は十中八九攻略可能対象から外れてしまう。
他校の生徒か~……きっついな~。
それに、瀬流津の状況も読めなくなってしまった。
本来恋愛ゲーム通りなら、瀬流津から悩みを打ち明けてもらって、悩みを解決して後試合の応援でエンディングだったはずだ。それが、今回のことで無理矢理悩みを暴き出す形となってしまった。
瀬流津が先生を呼んできて、イジメていた先輩たちをオレから助けることで、瀬流津の英雄路線は確保したから、人間関係は修復できた可能性は高いんだが……。
「これじゃあ、完全に恋愛ゲームのルートから外れているよな~」
『もう恋愛ゲーム無理なんじゃない?そもそも現実の人間をキャラに当てはめようってのが無理なのよ!』
「いや、今回は不測の事態でオレが勝手に恋愛ゲームのルートから外れただけだ。実際、恋愛ゲームのセリフや行動、選択肢はこうだったらいいという理想を踏襲したもののはずだ。ちゃんと従えば成功の可能性はあるだろう」
『そうだったとしても、瀬流津さんは恋愛ゲームのルートから外れちゃったのよね?どうすんのよ?』
そうなんだよな~。
人間関係に対する悩みは、今回の件で悪化しない限りほぼ解決済みと言っていいだろう。
他にオレに相談してくれそうな悩みがあればいいのだが……悩みができるのを悠長に待ってるわけにもいかないし。
「再度、調査から始めるしかないかな……」
『えー!?ここまでやってきたのに!?』
「ターゲット設定されてしまってる以上、逃げるわけにはいかないだろ!まだ、オレに惚れてるわけでもないだろうし、他の奴と初恋を成就させる選択肢も残ってるんだ!こうなったら、いろんな角度から挑戦していくしかない!」
一人目から
命が懸かってんだ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます