第18話 素行不良の使い方
今日は定期テスト最終日である。
正直ここまでのテスト結果は、帰ってきて欲しくないという気持ちが大きい。
初日ほど壊滅的ではないと思うが、それでもクラス最下位はまず間違いなく、赤点が回避できているかも五分五分……より分が悪い気がする。
『今日でテスト期間終わりなんでしょ?と言うことは桔梗さんと会う機会が減るかもしれないのね』
「特にこれだけ教えてもらってダメダメなんてことになった暁には、ガチで失望されて取り返しがつかんかもしれん」
『頑張りなさいよ!』
テスト期間中、毎日桔梗に付き合ってもらったけど、現状だと正直申し訳ない結果になりそうだ。
いや、最後は桔梗がもっとも自信があると言っていた国語だ!
過去最高に丁寧に教えてもらったわけだし、ここはなんとしていい点数を取らねば!
いい結果を報告できれば、桔梗の好感度上昇に繋がるかもしれないからな!
残念ながら勉強会ではあまり好感度を貯められなかった。
ただ、物理的距離自体は最終的にかなり近くまでいけた。
それこそ、桔梗が嫌悪する素振りもなく、ほとんど頭と頭が付く距離までは近づくことができた。最終日には向こうの方から近づいてきてくれたくらいだ!
まぁ、好意と言うよりは警戒心が薄れてきたということなんだろうが……それでも大いなる一歩だ!
しかし、手応えがあったのは、これくらいだ。
他はオレがいかに勉強ができないかを露呈させただけな気がする……。
「おはよう、鏡夜!中間テスト今日でラストだね!」
「そうだな」
「ラストなのにテンション低いやん?」
「結果が結果だからな……」
「……」
「……」
「なんか言えよ、二人とも!沈黙が一番つらいわ!」
「が、ガンバ!」
「あはははははははは!!」
二人とも楽しそうだな。
くそぅ。絶望してるのはオレだけかよ!
まぁ実際、今日で定期テスト終了と言うこともあって二人だけではなく、クラス全体が浮かれている感じがある。
午前中で学校が終わる上に、今日ばかりはテスト勉強から解放されるともなれば無理もないか。
オレも勉強から解放されるのは嬉しいし。
先生がテスト持って教室に入ってきたことで、浮ついた空気が流れていた教室内がピリッと締まる。
「では、始め!」
さぁ、やるぞ!
オレはテスト用紙を勢いよく裏返すとテストに目を走らせる。
あれ?解けるぞ!
これ、桔梗に教えてもらったところだ!!……いやまじで。
国語は出題者がどこをどのように出してくるか予想するのも手と言って、予想される問いを教えてくれたが、ピンポイントじゃん!
国語のテストとはつまるところゲームの攻略と言うことだ。
この方法なら今後の国語のテストは希望が持てる!
「そこまで!!」
テスト終了と同時に、オレは初めてみんなと同じ解放感を味わうことができた。
テストの手応えがあるってこんな感じなんだな。
「なんなん?晴れやかな顔して」
「いや~国語は結構解けた気がする」
「ほんと!?よかったね、鏡夜!」
「おう!」
まぁ、その後の教科では再び絶望に打ちひしがれたのだが……。
『テスト期間終了ね!今日はこの後どうするの!?』
「そうだな~。とりあえず、瀬流津はいつも通りバスケの練習をするだろうし、終わるまでテキトーに時間潰すかな~」
『あ!?バスケ部で思い出した!
そう言えばテストの初日に瀬流津さんに嫌がらせしてたって先輩たちを見かけたから追いかけたのよ!そしたら、テスト最終日に瀬流津さんの持ち物を池にシュートしてやるって言ってたわよ!』
「なんでそう言うこと早く言わねーんだ!」
オレは即座に走り出す。
『だって、忘れてたんだもん!』
池ってあそこだよな!?
この学校は校内にヘドロが溜まり生臭いにおいを放っている誰も近づかない小さな池がある。
オレは階段を飛び降りながら池へと走る。
テスト終了後にみんなで遊びに行ったのか、人が少なくて助かったぜ。走りやすい。
「誰もいない?」
息を切らしながら池に着いたオレは周囲を見回す。
「まだ来てないのか?」
オレが安堵していると、頭上から「シュート!」と声が聞こえる。
その声に釣られ上を見上げると、女子更衣室のある部屋の窓から何かが投げられたのを目撃する。
普通、下の状況を確認せずに二階から物を投げるか!?
ただ、今回は都合がいい。
と言うか、アレって瀬流津のバッシュだよな?
見覚えのあるバッシュ入れが宙を舞っている。
「トーカ。不自然に見えないようにオレに向かってアレ落とせるか?」
『任せて!』
オレはトーカを信じて、気づいてないかのように目線を切る。
投げた奴らも今頃下を確認したのか、落下先にオレがいることに気付いて騒ぎ始める。
オレは避ける気はない。
覚悟を決めて落下物に備える。
「って!」
バッシュって結構重量あるんだな。
思ってたよりもずっとイテ—。
ただその甲斐あって下準備はできた。
他人の大切なモノを粗末にする奴には覚悟してもらおう。
オレは早歩きで女子更衣室へと向かう。
『ちょっと大丈夫!?』
「ああ」
『なんでキャッチしないの?素振りも見せなかったし』
「トーカ、前に不良は悪い意味だったとしても目立つからいいって話したよな?」
『うん!覚えてるわよ!』
「もう一つ、不良のいいところってのを教えてやるよ」
こんなやり方をしたら間違いなく、後のミッションに響くだろうな。
だが──。
オレはこの一か月、この学校の誰よりも瀬流津麗華と言う女の子を見てきた。
瀬流津は優しくて強い女の子だ。
助けを求めたらその人もイジメのターゲットにされるんじゃないかという思いから、自分がどんな状況に立たされようとも周りにヘルプを出すことはしないだろう。
だからオレも、こういうやり方をさせてもらう。
「おい!ゴラアアアアァァァァ!!」
オレは乱暴に女子更衣室のドアを開ける。
更衣室の中には、瀬流津とイジメの主犯と思われる上級生が五名の計六名。
「「……!?」」
「おい!これ投げてきた奴誰だ!?」
「ちょっと!ここ女子更衣室ですよ!」
「「そうよ!そうよ!」」
「だから何だ!?そんなクソみたいないい分で何とかなると思ってんのか!?」
「「……」」
オレの剣幕に女子更衣室が盾にならないことを察したのか、先輩たちは静かになってしまう。
そして、一人の先輩が瀬流津を指す。
「それこの子のです」
「だから何だ?オレは誰が投げたかって聞いてんだよ!?」
すると先輩たちを庇うように瀬流津がオレの前に歩み出る。
「ちょっと落ち着いて、わ──」
瀬流津に名前を呼ばれそうになり、オレは口を押さえるように瀬流津の顔を掴む。
「持ち主がてめぇの物投げるわけねぇわなぁ?てめぇは関係ねぇ。失せろ」
先輩たちに瀬流津のせいにできないように圧をかけた後、オレは瀬流津を引き寄せると耳打ちする。
「助けたかったら先生呼んで来い」
それだけ言うとオレは瀬流津を女子更衣室から放り出す。
放り出された瀬流津が走っていく音が聞こえる。
先輩たちは瀬流津が逃げたことで絶望の表情をしている。
さて、どれくらいで先生を呼んでくるかな?
「で?投げたの誰だ!?」
「「……」」
ダンマリ、そう簡単には仲間は売らないってか……。
その仲間になんで瀬流津を入れてやれないかね?
「あそ。じゃあしょうがねーな。全員しばくか」
「な、投げたのミサでしょ?」
「え?投げようって言ったのテンカじゃん!?」
「でも、投げたのはミサでしょ!?て言うか、最初にやり始めたのアンズだし!」
「はぁ!?今回は何も関係ないじゃん!!」
「今回だけでしょ!?いつも一番やってるじゃん!!」
あーあー。責任を押し付け始めたな。
醜い責任の押し付け合いを眺めていると、廊下の先から先生を呼ぶ瀬流津の声が聞こえてくる。
来たか。
じゃあ、ちょっと派手にやりますか!
ガンッ!!
オレはロッカーに拳を叩き付けると、走って来てるであろう先生に届くように大声で威圧する。
「ごちゃごちゃうっせーぞ!!どいつが投げたんだって聞いてんだ!?あ゛ぁあ!?」
オレの怒声に先輩たちが縮こまったところで、瀬流津と先生たちが到着する。
「何やってんだ、お前!?今すぐ生徒指導室に来なさい!!」
「君たち大丈夫か!?」
先輩たちは助かった安堵から泣き出してしまう。
オレは駆けつけた先生の指示に抵抗することなく、素直に生徒指導室へと向かう。
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