第16話 打算的思考
『ちょっと!テスト期間中の秘密の練習なくなっちゃたけど、大丈夫なの?』
「問題ない。それよりも思ったより好感度を稼げてない方が気になる……あの流れなら直接イジメられてるから助けてではなくとも、さり気ない悩み相談くらい合ってもいいと思ったんだが、まだそこまで信用されてないってことか……」
『どうすんのよ!?』
「落ち着けって。攻略において重要なのはキャラクターとそれに合わせた適切な手順だ。その点では間違ってはないはずだ」
リトライできない以上焦りは禁物だ。
出会い方もここまでの過程も悪くはなかった。
あともう一押し、もう一押しあればエンディングまで行ける気がするんだが。
『それゲームの話でしょ?』
「ゲーム以外の攻略手本がないんだから、ゲームを信じるしかない」
経験値がない以上、独力で女の子をメロメロにするとか相当イケメンか口達者じゃないと不可能だ。
他に頼れるものもない。
『はあ~、まあいいけど。それで瀬流津さんはゲーム的にはどういうキャラでどういう手順を踏むもんなの?』
「瀬流津麗華はスポーツ女子という恋愛ゲームにおいて比較的ポピュラーなキャラだな。
スポーツ女子の攻略パターンは基本的に二つ。
一つは、ヒロインがスランプに陥っているパターン。
これは主人公が的確なアドバイスをすることで、ヒロインがスランプを脱し再び試合で活躍することでエンディングだ」
『瀬流津さんはスランプってわけじゃないから当てはまらないわね』
「もう一つは、ヒロインが下手なパターン。
これは、主人公のアドバイスと特訓により、ヒロインがめきめきと上手くなって試合で活躍できるようになってエンディングだ」
『瀬流津さんはもともと上手だからこっちも当てはまらないわね。──ってどっちも当てはまらないじゃない!!』
そう、瀬流津はどっちのパターンにも当てはまってない。
だが、オレが恋愛ゲームを信頼する理由がここにある!
「『ドリームキス』ってゲーム覚えてるか?」
『確か最初に買ったゲームの一本よね?』
「そう。そのゲームのヒロインの一人が今の瀬流津麗華の状況に非常に近い」
『どんな内容なの?』
「ヒロインの名前は
彼女はレギュラー争いに勝利したことで部内イジメにあってしまう。そこをマネージャーとして入部した主人公に助けられることで仲が深まり、試合で活躍してエンディングを迎えるんだ!
いや~これがなかなかいい話でな!エンディングの入り方も最高なんだよ!中でも一番神シーンは──」
『脱線してるわよ!』
「悪い悪い」
『まぁでも、確かに状況としては似てるわね。瀬流津さんもレギュラー争いから人間関係に亀裂が入ってるんだし。て言うか、その主人公に習ってマネージャーになればよかったじゃない!』
「瀬流津麗華だけがターゲットならそうしただろうな。ただ、他にもターゲットがいる以上そうはいかないだろ。ゲームみたいに周囲の記憶ごとリセットできるわけじゃないんだし」
『そっか。でもそれなら後はアタシが最初に言った通り瀬流津さんを先輩たちから救ってあげればミッション達成じゃない!?』
単純に考えればトーカの言う通りだ。
だが、事はそう単純じゃない。
まず、秘密の練習以外で関わりを持たないオレは瀬流津が人間関係で苦労していることを本来知らないはずなのだ。
実際、瀬流津も他のバスケ部員もそのことを上手く隠しており、恐らく他の誰も気付いていないだろう。
それに悩みってのは、打ち明けてもらうことに意味がある。聞かれたから答えたではなく、自分から打ち明けたでなくてはならない。
なぜなら、それこそが信頼の証であるからだ!
まぁ、オレは打ち明けてもらえてないんだが……。
ゲームなら今どれくらい好感度が貯まっているのか一目瞭然なんだけどな~、現実ってクソゲーだろ!
『ねえ、ゲームの主人公を参考にスパッと解決できないの?』
「そこは残念ながら参考にならん。珠代のためにテニス部のマネージャーになり、テニスコートで全生徒が注目する中「世界中が敵になっても俺は絶対お前の味方だ!!」って絶叫する主人公だぞ。そんなことしたら取り返しがつかなくなる」
『じゃあどうするのよ?』
「そうだな……」
悩みを打ち明けてもらえるほど好感度が貯まってなかったのは問題だが、まだ逆転の目は残されている。
一学期の半分が終了した時点で、バスケの授業も終了している。
そして、オレが放課後の遅い時間に瀬流津に会っていたのは、体育の練習のためということになっていた。バスケの授業が終わった以上オレが通う理由はない。
だが意識したか無意識かはわからないが、瀬流津はテスト期間は練習を中止にすると言った。
「テスト期間後、何事もなく秘密の練習を受け入れてくれれば望みはあるか……」
『テスト期間中にアプローチすればいいじゃない!?』
「無理だな。テスト期間中は桔梗律と勉強会することになっちまった。そのタイミングで瀬流津麗華と桔梗律が鉢合わせしてみろ。拗れ方次第では、今までの全てが水泡に帰す可能性がある」
『そうだった!』
と言っても悠長にはしてられない。
好感度を上げ、悩みを聞いて、問題を解決し、その後試合に応援に行って瀬流津の活躍を見届ける。
バスケの試合って確か6月だったよな。今5月の後半だから……。
まずいな。あまり時間がない。
そして、今のオレには瀬流津とは別に緊急の問題が降りかかっている。
「はあ~」
『どうしたのよ?ため息つくと幸せが逃げちゃうらしいわよ!』
「定期テスト」
『ああ~、鏡夜頭悪いもんね!」
「うるせー」
ただでさえ序盤のやらかしで不良だと思われているのに、頭も悪いとなったら湾月鏡夜不良説に拍車をかけることになる。
ターゲット候補はもちろん、進学校なだけあって学校全体で不良嫌いの傾向が強いからな。
冷ややかな視線を向けられないためには、どんな手を使っても赤点だけは回避しなければ!
そう!カンニングしてでも!!
でも、カンニングがバレたらそれこそ不良で確定だし……あーなんかいい手ないかなー。
あっ!そうだ!
「なぁトーカ、相談があるんだが……」
『なに?アタシに家庭教師は無理よ!できるのは教師のコスプレまでだからね!』
「わかってるよ!──って、その衣装変えられんの!?」
『変えられるわよ!あっ!もしかしてして欲しいコスプレがあるとか!?なになに?ちょっとくらいならサービスしてあげてもいいわよ?ただし、エッチなのはなしだからね!」
「そうだな~、じゃあ……じゃなくて!テストなんだが、トーカが周りの奴から答え拾ってきてオレに教えるってくれればバレることなく赤点回避できるよな?」
『ダメ』
「そう言うわずに頼むよー。なっ!この通り!!」
『ダメなものはダメ!』
「随分と頑なだな。なんか理由があんのか?オレが赤点取っちまったらミッションに影響があるかもしれないぞ?そしたらお前も困るだろ?」
『そうだけどダメ!そんなことしたらアタシ、神に怒られて二度と戻れなくなっちゃうもん』
「そうなのか……」
くそう。神様め!
試練を与えるだけ与えといてこの仕打ちか!
しょうがない。自力で赤点回避するか。
どうすれば回避できるのか皆目見当もつかんが……。
とその前に、ゲームで勉強会の予習をしとかないと。
もしかしたら、桔梗の方で拾っとかないとエンディングに辿り着かないフラグが発生するかもしれないからな!
勉強から逃げてるわけじゃないからね?
ミッションには命が掛かってるから!優先順位の問題だから!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます