第15話 瀬流津麗華の過去
オレが体育館へ向かおうとすると、なぜか桔梗がついて来る。
「帰らないの?」
「え?ああー帰るけど……?」
「裏門からの登下校は禁止よ!もしかして普段から裏門使ってるの?」
「いや、そんなことはないけど……」
「ふーん。まぁ、今日のところは見逃してあげる。今度から使っちゃダメよ!」
「はい」
このまま桔梗を連れて瀬流津に会いに行くわけにはいかない。
桔梗と一緒にオレは正門まで向かう。
『ちょっとどうすんの!?瀬流津さん放っておくの!?』
ンなわけねーだろ!
そんなことしたら今までの積み重ねが崩壊しかねん。
桔梗の帰宅経路は知らんが、なんとか校門で分かれられる方法を考えなくては!
「湾月って確か電車通学よね?」
先制攻撃だとーーー!?
やばい!深く考える時間が!?
と言うかなんでオレが電車通学だって知ってんだよ!?
「なんで知ってんの……?」
「英さんと幼なじみだって聞いて、だから家近いのかな~と思って…別に調べたとかじゃないからね!!」
「わってるよ!」
日菜の奴、他の奴らに挙動不審の理由を詰められたか?
まぁ、明らかに怪しい動きでオレを監視してたもんなぁ。あれで聞かれないとかあり得ないか。
「桔梗さんは?通学手段なに?」
「私も電車だけど」
「そっか、じゃあ一緒になることもあるかもね」
「そ、そうね」
通学手段が違うって選択肢は潰れたか……。
しゃーない。あまり使いたくはなかったが、いざとなったら家庭の事情を使うか。
校門前でオレは切り出す。
「じゃあ、またな」
「え!?どこ行くの?駅はこっちでしょ?」
「少し寄ってく場所があるんだ」
「寄り道はダメよ!」
やっぱ素直にはいかないか……。
「ひ、英からオレの事情は聞いてない?」
「事情?」
「いや~実は基本家に親がいなくてな、オレが家事とかやってんだ」
「そうなの!?家事とかやるのね…意外……」
「ああ。だから買い物に行きたいんだ。ほんとは自宅のそばで買い物したいんだが、この時間だとまだ店が開いてるか微妙でな」
実際は定期配送っていう便利なものがあるんだけどな。
「なら私が手伝ってあげようか!?」
「いやいやいや。悪いって!それに女の子を遅い時間まで連れ回すわけにはいかないしな」
「そう……」
ふー。なんとか納得してくれたな!
瀬流津はすでに待ってるだろうし早く行かなきゃ!
「じゃ、じゃあな」
これ以上長引かないようにオレは背を向け振り返らずに帰る振りをする。
あんまり学校から遠ざかりたくはないから牛歩だが。
『ちょっと!マジで時間ヤバいわよ!!』
「わかってる!」
だが、どの辺まで歩きゃいいんだろ?
もう桔梗が見送ってないか、振り返って確認するのは怪しいよな。いや、実はもういなかったり?
「ねえ!!」
悩んでいるとオレの背に向かって桔梗が呼びかけてくる。
くそ!だが、ここで無視はない!
オレは素直に振り返る。
「ん?」
「よかったら!その~……」
すまんが、マジで急いでるんですけど!?頼むから要件を早く言ってくれ!!
「テスト期間中一緒に勉強会しない?」
え?それは……。
えーい悩んでる余裕はない!
「おう!いいよ!」
「ほんと!?じゃあ図書室で!!」
「ああ。また来週な!」
言いたいことを伝え終わったのだろう。
桔梗は走って帰っていた。
オレものんびりしていられない!
オレは外の体育館まで走る。
『ちょっと!桔梗さんといい感じなんじゃない!?』
「そうだな!」
理由はよくわからんが、なぜか桔梗との関係は進展しているみたいだ。
ゲームに風紀委員のキャラっていたかな?あと、勉強会での動き方は早急に予習しておかないと!
体育館からはダムダムとバスケットボールをつく音が聞こえる。
やっぱ瀬流津もう来てるか!
オレは体育館へと駆け込む。
「すまん!遅くなった!」
オレが体育館に来た瞬間、暗かった瀬流津の表情がパッと明るくなったのをオレは見逃さなかった。
よし!積み重ねた好感度はまだ落ちてないな!
「湾月くんってなんか部活やってるんだっけ?」
「いや、オレは帰宅部だよ」
「ふーん。じゃあ今日はサボったてことだ!」
「え?いや、来てるんだしサボりでは──」
「言い訳は聞きません!サボった分今日は厳しくいくからね!」
「へいへい」
なんなんだ?
『なんか瀬流津さん機嫌よさそうね!もしかして今日いい風吹いてるんじゃない!?』
「どうだろうな……」
妙にテンション高い──と言うか無理してるって感じだな。
悩みごととかならいいんだが、吹っ切れたとかだと厄介だ。
いつも以上に慎重に行動せねば。
その後の練習は普段と特に変わりなく進んだ。
「あ゛ー。また、一本も取れなかったか。さっきのクロスオーバーは完全に抜いたと思ったんだけどな~」
「残念でした。でも、もしあそこでターンアラウンド・フェイダウェイができてたら一本取れてたかもね」
「マジか!?」
「うん。すごい成長だよ。私なんかとは大違い」
「そんなことはないだろ」
「あるよ……」
あれ?なんかテンション下がった?
成長スピードの配分ミスったか?
現実は最初の段階で手を抜いてたってだけで、もうお釣りがないから、ここから瀬流津を追い抜くことは不可能に近いんだが……。
それを知らないと確かにとんでもない成長速度に映るよな。
オレが瀬流津から自信を奪う展開は望ましくない。
なんとかしないと。
ただどうすれば……。
「私ね、この学校にはスポーツ推薦で入ったんだ。だから最初の練習でも「天才だ天才だ」って言われたの。
でも、私は天才なんかじゃない。
誰よりもセンスがなくて、昔は後から始めた子にもどんどん抜かれてたの。
それが悔しくて情けなくて、いっぱい練習するようになった。そしたら他の子にも負けないようになった。やっぱりバスケ楽しいってなった。
でも、全国には私がどんなに努力しても勝てない子がいて、つい才能があるっていいな~って思っちゃう。
きっとそういう子たちは私以上に努力している子たちのはずなのにね。
あーあ、努力が数字とかで見れたらいいのにな~」
実際、努力が数値として見えたら、瀬流津麗華の努力量的に先輩たちは文句言えないだろうからな。
まぁ、オレは好感度が見れるようになってほしいけどな。オレだけに!!
『これ、アタシが調査してきたやつじゃない!?そうよね!』
そうだな。
トーカが調査してきたレギュラー争い問題のやつだな。
あー、役に立ったのをアピールしたいのはわかるが、ドヤ顔が鬱陶しい。
「努力してない身からすると耳が痛いな」
「湾月くんはすごい努力してるじゃん。今だってバスケ上手くなろうと夜遅くまで練習してるし」
「まぁ、バスケが上手くなりたいというか……」
オレの場合は命が掛かってるからな~。
そうじゃなかったらダラダラしてただろうし。
「ねぇ湾月くん、今日どうして来るの遅かったの?」
「え?」
やっぱり最初はあえて聞かないようにしてたか。
桔梗のことはバレかねんが、ここで下手なウソは逆に墓穴を掘りかねんな。
「勉強してたら遅くなった。ごめん」
「そっか。よかったー、嫌われちゃったかと思った」
「そんなはずないだろ」
「ふふ。来週からテストだもんね。でも意外だなー。真面目に勉強してるのね」
「どんなイメージか知らんが、オレは至って真面目だよ」
「そうだね」
やっぱ不真面目だと思われてんのか。
まぁ、勉強に関して不真面目なのは事実だけど……。
「そうね!テスト期間は秘密の練習なしにしよっか!部活もお休みだし、私も勉強しなくちゃだし!」
「そうか。淋しくなるな」
「ホントに?ラッキーとか思ってない?」
「ホントだよ。瀬流津さんと練習するのオレ好きなんだから」
「練習……。じゃあ今日はここまでにしよっか!」
オレと瀬流津は練習を終え、いつものように学校を出る。
ぶっちゃけオレとしてはテスト期間中に秘密の練習がないのは瀬流津が言った通りラッキーだ。
テスト期間中、学校は午前中で終了し、その後の部活動もない。
テスト期間中に図書室で桔梗と勉強会をする約束をしてしまった以上、仮に秘密の練習の時間が前倒しになった場合ブッキングする可能性が非常に高かった。
どう考えてもうまく切り抜けられんかったよな~。
それにしても、来週一週間、お互いに会うことないだろうが特別なことは何もなかったな~。
いや、それより──マジで赤点がヤバい!!
なんかいい赤点の回避方法ないかな~。
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