第14話 予想外の遭遇

 豚箱行きを逃れ一安心のオレであったが、どうも世界はオレを地獄に引きずり込みたくてしょうがないらしい。

 授業後に担任の放った一言で、オレは絶望に叩き落された。

 まぁ、今回絶望を味わったのはオレだけではないだろうが。


「皆さん!来週から中間テスト期間となります。赤点の方は放課後に補習となりますから、赤点取らないよう頑張ってくださいね!」


 忘れてた……。

 そう言えば、先週先生が中間テスト一週間前だとか言っていたような気がする。


『鏡夜大丈夫なの?この学校マークシートの運だけで入ったんでしょ?勉強してる様子全然なかったけど?放課後、補習なんかになったらミッションに支障が出るわよ!?』

「大丈夫なわけねーだろ」

『はー!?自分がバカなことわかってんでしょ!?何やってんの!?』

「しょうがねーだろ!頭の中ミッションのことばっかでテストのことなんて頭から抜けてたんだよ!」


 実際、瀬流津の攻略に使うカロリーはものすごく高いんだよな。

 割とハードめな運動が必要になるため体力的に普通にしんどい。しかも、帰宅時間が遅くなるから自宅では十分な睡眠時間が取れない。自由に動ける時間は攻略対象やその候補の情報取集をしないとだし。

 授業中に船を漕いでしまうのを許してもらいたいくらいだ。

 まぁ、授業をまともに聞いていないから今絶望してるんだが……。


「はあ~」

「どうしたの、鏡夜?ため息ついて?」

「中間テストで絶望したんやろ、どうせ」

「ああ!テストって緊張するもんね!」

「違う違う!瑠璃花は前の席やからわかれへんかもしれんけど、湾月授業中基本的に寝とるからね。赤点ほぼ確実で絶望してんねやろ」

「あー……が、頑張って!」

「随分と余裕そうだな。お前らはどうなんだよ?」

「うちは問題ないわ。別に賢いわけちゃうけど赤点取るほどアホでもないし」

「ボクも勉強得意ではないけど、たぶん大丈夫かな?……大丈夫だよ!最初の定期テストは簡単だって先輩たちも言ってたし!」


 進学校の奴らが言う簡単ほど当てにならないものもないと思うが……。

 ああー、受かったからってレベルの高い学校を選択したのは間違いだったか?


「土日あるし頑張るわ」



 その日の放課後、オレはいつものように瀬流津との練習まで図書室で時間を潰す。


「中間テスト期間前だってのに、ここは相変わらず人っ子一人いねーな」

『でも、陰浦さんは毎日来てるわよね?』

「一人が好きな人にとって、生徒どころか先生すら寄り付かないここは憩いの場だからな」


 そういう意味では陰浦はオレと近い性格なのかもな。

 いや、陰浦は受付に本を山積みにしてずっと読んでるし、ほんとに本が好きだから図書室を利用しているんだろう。

 それに比べてオレは、トーカと会話する上で人のいないここが都合が良いから利用してるだけだし、やってることと言ったらゲームだしで、ミッションがなかったら図書室は利用してないだろうな。

 そう考えるとだいぶ性格違うか。

 そんなことを考えながらオレは鞄から教科書を取り出す。


『あれ?今日はゲームじゃないのね?』

「来週テストがあるって言ってただろ?勉強しないとまずいんだよ」

『じゃあアタシまた瀬流津さんを監視しに行くから!』

「おう」


 トーカもいなくなり図書室にはオレと陰浦の二人きりになる。

 だが、お互いに一切話しかけたりすることはない。

 ターゲット候補ではあるが、今は瀬流津の攻略に集中したい。だから、ここで下手に仕掛けることはしない。今はオレの存在をなんとなく認識してもらえていれば御の字だ。

 まぁ、陰浦も陰浦でオレとは接触したくないだろう。なんたってオレは不本意ながら不良として認識されているようだからな。

 普段通りだ。

 だが、今日はやはり普段通りとはいかないようだ。


「湾月?」


 声を方をパッと見るとそこには桔梗律が立っていた。

 は?えっ!?なんで桔梗がこんなところに!?


「へー。あなたもちゃんと勉強するのね?」

「桔梗さん?なんでここに?」

「勉強しに来たに決まってるでしょ。あなたと同じよ」


 そう言いながら桔梗はオレの向かいの席に座る。

 なんでオレの前に座るの!?オレたち仲良く勉強する間柄でもないですよね!?

 無意識?もしかして桔梗って人の近くに寄りたいタイプの人なんかな?

 混乱の中、オレは周囲を見渡す。

 すると本の読む振りをしながらこちらを観察していた陰浦とパチリと目が合う。しかし、一瞬で目線を切られる。

 そりゃそうだ。不良と学校一の真面目ちゃんの組み合わせだもん!気になるよね!オレでも見るわ!

 ただまぁ、この状態も考えようによっては悪くはない。

 陰浦も他の生徒と同じく、オレを怖い不良生徒だと思っているだろ。

 だが、桔梗と一緒に勉強することで「実は不良ではないのではないか?」と気を許してくれるかもしれない!と言うかこの際近づきがたい雰囲気が解消できるなら、「風紀委員に首輪付けられてるんだ~」でもなんでもいい!

 それにこれはゲームにあったテスト前の勉強イベント!!

 確か主人公がヒロインに勉強を教えてあげると好感度が上がるんだったよな。

 立場は逆だが、応用してやれば──!!


「ねえ?ずっと教科書読んでるけど、ノートとか開かないの?」

「ノートねぇ……」


 授業中寝てるからノートなんて取ってないんだよなぁ。


「私ノートの見せ合いっことかしたことないから、他人のノートがどんな感じか気になるのよね。よかったら見せてよ!」


 マジか!?

 ここで見せ合いっこができていれば、好感度上がったんじゃねーの!?こんなイベントゲームになかったぞ!

 ゲームのヒロインはノートはきれいに取れてるけど、要点が掴めてないとかだったし!

 と言うかそんな期待感でいっぱいのキラキラした目で見ないでくれ!心が痛い!!


「あの~すまん。ノートは取れてなくて……」

「そうなの!?もしかして授業中に寝てたとか?」

「はい……」

「呆れた……。どうしようもないわね。はい!私のノート見せてあげる!」

「マジ!?ありがと!」


 やっぱ桔梗って優しいよな!

 オレは桔梗のノートに目を通す。


「きれいだな……」

「えっ!?」

「すごい見やすく取ってあるからさ!なぁこれ写してもいい?」

「いいけど……」


 ラッキー!!

 これさえあれば赤点回避行けるんじゃないか!?桔梗と知り合っておいてよかったー!

 オレは無我夢中でノートを書き写す。



『鏡夜!鏡夜!』


 ん?

 トーカがオレの頭上を飛びながら呼んでいる。


『バスケ部の練習終わったわよ!』


 時計を見るとかなりの時間が経っている。


「やっべ!集中し過ぎたか」


 オレが桔梗の方を見ると、桔梗は寝息を立ててスヤスヤと眠っている。


『もしかして桔梗さん!?』

「ああ。ノートを貸してくれたんだ」

『進展あったの!?』

「あんまりかな」


 トーカは興奮しているが、最初以外会話してない上に眠りこけるくらい退屈な時間だったんだ。

 1ミリも進展してないだろうな。

 オレは桔梗を揺すって起こす。


「桔梗さん、桔梗さん?」

「ん?」

「もうこんな時間だから帰るよ!」

「ウソ!?寝ちゃった私!?」


 よっぽど安眠できたのだろう、飛び起きた桔梗の口からは涎が垂れている。


「はい、これ」


 オレはハンカチを差し出す。

 桔梗は顔を真っ赤にしながら受け取ると口と机の涎を拭き取る。

 耳が茹で上がってるな。まぁ、涎は恥ずかしいか。


「あ、ありがと……」

「どういたしまして」

「寝顔……なんでもない!!」


 可愛らしい顔だったし気にすることはないと思うけどな……まぁ、本人が気にしてるなら何も言うまい。

 とそんなことより、瀬流津のところに行かないと!?

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