第13話 やんちゃ行動

 昼休み。

 オレが校内を歩いていると周囲の、特に男子生徒がオレのことをチラチラと見てくる。

 目を合わせないよう気付かない振りをしてはいるが、中にはオレに恨みがあるのか、睨んでくる奴もいて鬱陶しい。


『ねえ、なんか監視されてない?』

「みたいだな」


 最初はなんでかと思ったが、原因は間違いなく日菜だな。

 日菜がオレのことを尾行しながら監視している。

 まぁ、オレの帰りが毎回遅いことをめちゃめちゃ疑ってたししょうがないとは言え、校内でコソコソと探偵ごっこしてんのは怪しすぎるだろ?

 日菜は、自分がこの学校でそれなりに人気あるって自覚してないのか?

 オレに突き刺さる男子生徒の視線が痛すぎて、これじゃあ気付くちゅーの。たぶん周りの奴ら、日菜がオレに好意を抱いてるって誤解してるだろこれ。

 噂が変に広がったりしたら、オレのミッションにも日菜の初恋にも響いて、面倒だからまじで止めて欲しい。


『ねえ、声掛けてみなさいよ!?ターゲットである日菜さんの方から関わろうとしてくれてるんだし!』

「そんなことしたら他の攻略に支障が出かねんだろ」

『じゃあ、どうすんのよ?』

「この廊下を曲がった先に換気のためにいつも開いてる窓がある。そこで撒く」


 オレは日菜に気付いてない振りをしながら廊下を曲がると、素早く二階の窓から飛び降りる。

 まさか、高校生にもなってこんなやんちゃなことをする羽目になるとはな。

 瀬流津の攻略で飛んで跳ねての運動をしといてよかったぜ。運動不足でこんなことしたら膝やら腰やらをやってたかもしれん。

 日菜の奴、オレを見失って今頃慌ててるだろうな。


「ちょっと!何やってるんですか!?」

「やべっ!」


 大きな声で注意され、オレが振り向くと、そこには桔梗が鬼の形相で立っている。


「あなた!?湾月きょ──!!」

「ちょちょちょちょちょ!!」


 オレは急いで桔梗の口を塞ぐと、二階から死角となる校舎の陰まで押してゆく。

 あんな場所で大声で名前を呼ばれたら日菜の奴にバレるだろうが!?

 ここはほとんど生徒がいない校舎裏の花壇だろう!?なんでこんなところに桔梗がいるんだよ、タイミングわりーな!!

 他の生徒には見られてないよ──!?


「いっ!?」


 オレが周囲を確認していると脛に激痛が走る。


「ちょっと!なに──!!」

「しーーーー!!!頼むから大声は勘弁してくれ!!」


 オレは桔梗に静かにしてもらうために、顔を至近距離まで近づけて、ジェスチャーしながら小声で圧をかける。


「わ、わかったから、ちょっと離れて!ち、近い……」


 ん?

 確かに近いな。キスするんじゃないかって距離だったか……焦り過ぎた。


「バレてないよな……?」


 オレは一応再度周囲を確認する。


「また何かやらかしたの?あなた」

「またってなんだよ?てか、なんであんな大声出すんだ!」

「だって!あなたが急に口を押さえて迫ってきたから……無理矢理されるんじゃないかと思って……」


 ああ~。それは怖いわ。

 そうだよな。不良と思われる奴にあんなことされたらそう思うよな。どんだけテンパってんだオレ……。

 て言うか、その涙目になりながら体を守るように制服を握りしめるのやめて?罪悪感がすごいから……いや、オレが全面的に悪いんだけど。


「す、すまん。怖い思いをさせた」

「別に、誤解ってわかったからいいわ。許してあげる」

「あざます!」

「で?なんで校舎から飛び降りてきたの?問題行動よ!」

「え!?いや~その~ちょっとした事情が……」

「だから、その事情が何かを聞いてるんだけど!?言えないっていうならさっきの行為、先生に報告するわよ!」


 さっきの行為って飛び降りた方?怖い思いをさせた方?どっち?

 いや、どっちもヤバいんだけど!

 どうする?日菜の監視を撒くためなんて言えねーよな?

 えーっと、えーっと。


「桔梗さんが見えたから、ちょっと驚かせようかな~……なんて?」

「はあ?」

「いや、その!桔梗さんって、頭いいし!しっかりしてるし!可愛いいし!お近づきになりたいな~って!」


 厳しいか?厳しいよな!?


『なにそのあり得ない言い訳?あんた着地時に後ろ向いてたし、桔梗さん見て「やべっ!」って言ってたじゃない!』


 トーカに正論を言われる日が来るとは……。

 いい言い訳が咄嗟に出なかったんだよ!

 オレは詐欺師じゃねーんだ!そんなにポンポンと完璧なウソなんて吐けねーよ!

 て言うか、平穏無事な学校で二階から飛び降りる納得のいく言い訳とか、超一流の詐欺師でも厳しいだろ!?


「ふ、ふーん。……そう。まぁいいけど。そこの花壇荒らさないでね!風紀委員が美化活動できれいにしてるから!」

「は、はい」


 桔梗はそれだけ注意すると、オレをその場に残しスタスタと行ってしまった。

 終わったーーー。完っ全に終わった。

 まぁ、今ので誤魔化すのは苦しいわな。

 大して賢くもないトーカに、きっちり正論で指摘されるレベルのお粗末極まりない言い訳しか捻り出せなかったんだ。オレが悪い。

 ここから震えて先生からの呼び出し待つのか……地獄だ。

 と言うか、桔梗が飛び降りた方じゃなくて怖い思いをさせた方を伝えた場合、最悪豚箱行きでオレの人生チェックメイトだよな。


『崩れ落ちて何やってんの?』

「地獄に落ちる前に地獄を味わってんだよ……」

『なにそれ?哲学?』


 オレは絶望の中残りの授業を受けた。

 しかし、締めのホームルームが終わり生徒たちの下校が始まっても、オレが先生に呼び出されることはなかった。

 あれ?許された?

 桔梗が先生に報告しなかったってこと?

 うおおおおおおお!桔梗様ありがとうございます!!助かったー!

 オレは歓喜から両拳を掲げる。


「なにしてん?」

「あーいや、ちょっとな!」

「あれ?鏡夜元気になった?よかったー。昼休み以降元気なさそうだったから心配してたんだよ」

「自分気付いてないかもしれんけど、負のオーラすごかったで?」

「え!?まじ?」


全然気付いてなかったーーー。と言うか、そんなことに気を回せる状況じゃなかったからな。

あー、これでまたクラスの奴らの警戒度が上がったのか……。


「たぶんクラスのみんな気にしてたと思うよ。なんか覚悟を決めたみたいな座った目で、一言も話してなかったから」

「やっぱ湾月って改めて目付きが怖いな。うちなんてビビッてもうて、借りてきた猫みたいになってもうたわ」

『アタシも気を使って静かにしといてあげたわ!感謝しなさい!』


いや、お前はオレの事情を知ってんだから励ます側に回れよ!

呑気に静観決め込んでる間に、クラスメイトのオレに対する警戒度上がってるからね?


「いや~、気を使わせたなすまん」

「ほんまやで」

『まったくよ!』

「ボクは気にしてないから大丈夫だよ!鏡夜のピリッとした感じ、雰囲気があってかっこいいな~って思ったし。それに、元気になってよかった!」


 詞の笑顔は毎回元気が貰えて、相変わらず天使って感じだな。

 それと、オレのやらかしを見逃してくれた桔梗の優しさも天使級だな!

 天使二人目だ!!

 三人目じゃないかって?いや、トーカは天使カウントじゃないから。疫病神だから!

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