第12話 クラス事情

 翌日、オレは詞に話を合わせてもらうように頼み込む。


「──というわけで、放課後はオレと遊んでたってことにしてくれないか?」

「うん。わかった!」

「ありがと!助かったよ~」


 これで日菜に詰められても何とかなるな。

 初日に詞が話しかけてくれてよかったーーー!

 そうじゃなかったら今頃、誰からも話しかけられることもなく、話しかけても怖がられ距離を置かれ、日菜に言い訳のしようもなく瀬流津とのことがバレて、この段階で詰んでた可能性があったな。


「ところで鏡夜」

「ん、なに?」

「ほんとはどこで何やってたの?」

「え?」


 え?え?えっ??

 詞さん、相変わらずかわいい笑顔ですが、目が笑ってないですよ?

 まさか、詞も日菜と同じパターン!?

 やばい。そんなに言い訳のストックねーぞ。


「あはは。ウソウソ。鏡夜に冗談言ってみたかったんだー。冗談を言い合うって、仲のいい男友達って感じがするでしょ?ボクやったこともやられたこともなかったから、やってみたかったんだー。えへへへ」

「へ?あっそうか……冗談か……」


 かわいいな、くっそ!


「うん!隠しておきたいことってあるもんね。無理に話してくれなくっていいよ!あードキドキした」


 いやオレもドキドキしたわ。二重の意味で!

 それこそ、心臓が飛び出るかと思ったわ。二重の意味で!

 普段なら「小悪魔っぽいのもかわいいな、くそぅ」とか思ってたかもしれんけど、今の状況だとマジで心臓に悪い。だいぶ寿命が縮んだわ。

 ……いや、かわいいと思ったんだけどね!


「もし鏡夜がボクに話していいかな~って思ったら教えてね!それと、あんまり妹さんに心配かけちゃダメだよ、わかった?」

「……はい」

「……ねえ鏡夜」

「ん?」

「今度本当に一緒に遊びに行ってくれたら嬉しいんだけど、どうかな?」


 なんだこの天使……?

 これ、さっきまで小悪魔のような挑発的な笑顔を覗かせていた人間と同一人物か?

 オレの前に上目遣いで小首をかしげている最強にかわいい天使が降臨してるんだが……。

 まぁ、モノホンの天使は、意味もなくオレの周りウロチョロ飛んでいるこいつなわけだが……。


『なによ?』


 はあ~、まぁ、情報収集で役に立ってるし良しとするか。


「鏡夜?ダメかな?」

「ダメじゃない!ダメじゃない!今度、というかすぐ行こうな!」

「ほんと!?じゃあ楽しみにしてるね!」


「おーい!瑠璃花ー!」

「はーい!」


「呼ばれたから行ってきます!」

「おう。いってらっしゃい」


 仲良し夫婦か!?

 これ、詞が男じゃないって最初に知らなかったら結婚を申し込んでたかもな。

 てか、詞がオレの立場だったらあっという間にミッションコンプリートだったんじゃ……。

 いやもしかして、詞がすごいというより、オレがチョロいのか?


「ねぇ?」


 詞を見送ったオレに村雨が話しかけてくる。


「なに?」

「さっきの話聞こえててんだけど、妹さんってブラコンなん?」

「は?どういうこと?」

「だって、うちらもう高校生よ?夜遅く帰ることだってあるやろ?」

「まー学校のある日は毎日だったしな。心配してくれたんだろ?」

「ふーん。で、ほんまは遅くまで何やってんの?」

「内緒」

「まぁええけど。でも、知られたないことやったら気を付けた方がええよ。特に、ヤバいことやったらなおさら」

「どういうこと?」

「櫟井くんや姫路さんたち、あんたのことよく思ってないやろ?弱みは握られん方がええんちゃう?」

「櫟井と姫路さんね……」


櫟井いちい正義まさよし

 このクラスのカースト最上位男子だ。

 ルックスがよく、裕福な実家、一年のこの時期ですでに次期テニス部のキャプテン候補となっているらしく、中学時代には全国大会にも出場経験があるらしい。

 学力はよく知らないが、もし学力も申し分ないんだとしたら、何を持ってないの?って感じの完璧超人だな。

 ロクに関わったことはないが、遠目から見ている感じ、性格も別に悪い奴ではないと思う。


姫路ひめじとおる

 同じくカースト最上位女子だ。

 こちらもルックスがよく、桜ノ宮に負けないくらい派手だ。

 非常に我が強く声がよく通るため、ぶっちゃけこのクラスの最高権力者と言っても差し支えないだろう。恐らくというか絶対に、櫟井にホの字だな。

 無意識かどうか知らんが、他人を見下してるような言動が目に付くし、正直苦手なタイプなんだよなぁ。……まぁ、ターゲットでも何でもないしいいんだけど。


 そんな二人を常に複数の取り巻きが囲み、クラスの一軍を形成している。

 ターゲット候補の藍川楚麻理もその一人だ。

 そんな一軍連中が、理由はわからんがオレから距離をとっていることはオレも気付いていた。


「なんでオレ嫌われてんの?なんもしてないと思うけど……?」

「だって湾月の印象って不良かつ一匹狼やし、素直に従ってくれなそうにないやん?そういうタイプは上に立っていたいと思っとる人たち的には、目の上のたんこぶって感じやろ?」

『ちょっと!前に「クラスメイトはオレを悪い奴ではないという認識に変わってきたはずだ!」とか言ってなかった?全然認識変わってないじゃない!?』


 あれれ~おかしいぞ~。

 いい奴オーラ全開で出てると思ったんだけどな~。

 そもそもオレ──


「不良じゃないんだけどな~……」

「それは話してみんとわからんよ。あんた、背ー高い上に目つき悪いし。うちも話すようになるまで完全に関わったらあかん奴やと思っとたし。大体、入学式に遅刻どころか扉を蹴り飛ばしてくるような奴は、いくら本人が不良じゃないってゆうても不良やろ」

「だよなー……。でもそれなら村雨もオレとしゃべってると櫟井たちに目付けられるじゃないか?」

「アハハ!なに?心配してくれとんの?別に気にせんでええよ!そもそもうち、中学ではほとんど友達おらんかったし、そうなっても大して影響ないわ。それに、きっとそんなことにはなれへんよ。女子であんたと同じタイプが、もう一人このクラスにおるからね」

「ああ~。桜ノ宮さん?」

「そう!うち、あの人は絶対一軍やと思ててんけどな~」


 それは同感だ。

 派手な出で立ちでまさに上級って感じだし、身に纏うオーラもオレら庶民とは一線を画した凄まじいものがあるからな。

 ただ、思ったより物静かだし、素行不良もないんだよな~。

 クラスメイトととも話すには話すけど、特定の誰かと常に話してるってわけでもないから、誰とも一緒のグループ感がない。

 詞や村雨しか話せていないオレより、桜ノ宮の方がよっぽど一匹狼って感じだ。


「桜ノ宮な~……」

「なに?気になるん?」

「ん~まぁ、なんかよく他人に物をねだられたりしてるじゃん?それを平然とあげたりすんのがちょっとな……」

「とんでもない金持ちみたいやし、そんくらい大したことないって感じなんとちゃう?うちには考えられへんけど」

『なに?桜ノ宮さん攻略すんの?』

「う~ん……」


 藍川楚麻理はオレを避けてる一軍グループだし、桜ノ宮真姫は誰とも打ち解けず心の扉を固く閉ざしてる感じだしで、会話もできそうにないんだよな。

 村雨とは仲良くなり過ぎたのかサバサバとした会話ばっかで、ロマンの欠片もないし……。

 クラスメイトの攻略は後回しにすると決めたとはいえ、村雨含め自クラス三人の攻略の糸口が一切見えん。

 いや、変にいろいろと考えるのはやめよう!

 今はターゲット設定されてる日菜、瀬流津、桔梗の三人の攻略に集中しよう!

 はあ~、クラスメイト以外で初恋ポイント貯まり切ってくれたりしないかな~?

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