第9話 攻略準備完了

『そんなに頭を抱えることなの?こうなることも想定してたんでしょ?』

「してない……ことはなかったけど、こんな形になるとは思ってなかった」


 現在、図書室にてオレは桔梗と瀬流津の二名が想定外にもターゲット設定されてしまったことに視界を歪ませていた。

 いいんだけどね!いずれはやることになってただろうし、予想外とは言え踏ん切りもつくというものだ!

 なぜ図書室かと言うと、基本誰もいないからである。いるのは受付で読書をしている図書委員だけ。

 トーカと意思疎通する際、オレは声を出さないとトーカに意思を伝えられない。

 だから、人がいない図書室は非常に都合がいい。

 ここが人気スポットじゃなくてよかったぜ。まぁ、学校の図書室なんて今時誰も利用しないわな。

 理由はもう一つ。

 受付に座っている子の頭上に初恋マーカーが出ているからである。

 名前は裏陰うらかげしおり

 図書委員は何人かいるはずだが、どういうわけかいつ来ても受付をしているのは彼女だけである。

 彼女を調査できるということもあり、トーカと相談するときは基本図書室である。

 自宅には彩夜いるしね。


「はあ~……よし!やるか!」

『どう動くつもりなの?』

「一人ずつ攻略していく。今のオレに複数同時攻略ができるとは思えん」

『確かにね!じゃあどっちから行くの?』

「まずは瀬流津麗華からだな」

『やけに即決ね。理由は?』

「印象値の差だな」

『印象値?なにそれ?どういうこと?』

「瀬流津麗華と桔梗律が今どれくらいオレに対しての印象があるかってこと。

 オレとの接触の際、桔梗律はオレを明らかに嫌悪していたのに助けてくれたろ?普通であれば結構な印象値が見込めるはずだ。ただ、桔梗律のあの感じ的に、困ってる人に積極的に手を差し伸べることは意識せずとも当たり前にやってきたことのように思える。そうだった場合、オレも普段助けてる一般人の一人、あんまり印象に残ってないかもしれない。

 対して、瀬流津麗華はオレが助けた側だ。しかも、助けられることすら印象値が上がりやすい条件なのに、階段から落ちるという滅多に起きないことというオマケ付き。その後も肩を貸し保健室まで同行するなどフォローも完璧なはずだ。オレの印象はそれなりに強いだろう」

『前に言ってた無関心が一番よくないってやつね!』

「そ!と言うことでトーカ、明日から瀬流津麗華の監視を頼む。好き嫌い、人間関係、行動パターン、手に入れられる情報は全部頼む」

『はいはーい!』


 恋愛において最も大切なのは情報!

 ゴッドアイテム、恋愛ゲームにもそう記されている。



『ふー。もう十分なんじゃない?』

「そうだな。本格的に動くとしよう」


 トーカの幽霊みたいな特性は情報収集ではかなり便利だな。

 普通じゃ手に入れられないであろう情報まである。


瀬流津せるつ麗華れいか

 ・短髪高身長でかなりのスタイルの持ち主(腹筋が割れているらしい)

 ・バスケ部に所属するスポーツ女子(小さい頃からバスケをやっていたらしく中学の頃には全国大会出場の経験もあるとか)

 ・好きなこと:運動、食べること  苦手なこと:勉強

 ・朝練、昼休み、午後練と基本体育館にいることが多く、練習終わりにも一人体育館に残り自主練している


『もしかしたら瀬流津さん人間関係の構築が得意じゃないのかも』

「なんでだ?クラスメイトとも関係良好なんだろ?」

『そうなんだけど、部活内で問題を抱えてるみたい』

「問題?」

『彼女、期待の超大型新人としてこの学校に入学したみたいなんだけど、今のメンバーの誰よりもうまいらしいのよね』


 努力の量も尋常じゃなさそうだしな。


『そのせいで引退が近い三年の先輩たちから疎まれてるみたいなのよ。相手が上級生ってこともあって他の子たちも逆らうことができず、孤立状態って感じね。しかも、この前の足のケガも上級生にやられたって話もあったわ』


 高校ラストの試合に出たいという気持ちはわからんでもない。

 翁草高校は文武両道を掲げているこの辺だと優秀な学校だ。

 そのため、学業はもちろん部活動にも力を入れており、運動系はどの部も生半可な気持ちでは続けることも厳しいそれなりの強豪だ。

 それ故、先輩たちも人並み以上に努力してきたはずだ。

 それが入って数日の奴に活躍機会を奪われるとなるといい気はしないだろう。

 ただ、今の話が本当だとすると、瀬流津の才能への妬みにしては少々行き過ぎだな。


『それと朗報もあるわよ!』

「なんだ?」

『彼女、バスケ一筋の人生を歩んできたからか、まだ誰かに恋してる様子はないわ!誰よりも早くあんたが堕とせば初恋ポイントゲットよ!』

「なるほど」


 情報が集まったと判断したオレは体育館を覗きに行く。

 翁草高校の体育館は二カ所。

 校舎から離れたところにある入学式にも使われていた大きな体育館と校舎の二階にある室内体育館である。

 バスケ部は普段二階の体育館だったかな?

 室内体育館は外の体育館と違い外から中の様子を観察できる窓の類がついてない。


「うーん。中の様子は確認できないか……」

『扉を開けて入ればいいじゃない!』

「そんなことしたら変に目立って警戒されるだろ」

『じゃあどうすんの?』

「オレはその辺で時間を潰してる。トーカは瀬流津麗華の様子を観察しながら報告してくれ」

『アタシがいてよかったわね!』

「そうだな」


 そもそもお前がいなければこんなことしなくていいんだけどな!

 まぁそれは口に出すまい。

 こいつの場合の自分の命もかかっていることすら度外視で拗ねて協力を止めかねんからな。



「鏡夜?」


 オレが恋愛ゲームをプレイしながら時間を潰していると不意に声を掛けられる。


「おう。日菜」

「こんなところでなにやってんの?」

「えっとー、ゲーム?」

「家でやりなさいよ!てか鏡夜ってゲームなんてやってたっけ?」

「まぁ一応な」

「ふーん。まぁいいわ。それより鏡夜、しょうがないとはいえうちのクラスでの評判結構悪いわよ」

「安心しろ。こっちのクラスでもだ」

「もうっ!それでいいの?」

「まぁ、ゆっくり誤解を解いてくよ」

「鏡夜がそれでいいならいいけど……」


 実際、悪評にもメリットがあるしな。

 今の日菜の発言でもわかる通り、オレという存在は多くの人に認知されてる。

 後はこれをよきタイミングで好印象に変えていけばいい。

 うまくできるかは知らんが。


「そ、そう言えば前にわたしの好きな人を聞いたでしょ?」

「ああ。もしかして教えてくれるの?」


 おいおい!まさかのこっちが進展すんのかよ!

 ラッキー。

 日菜は学内でも男子人気がかなり高いと調査済みだからな!上手いこと相手を誘導できればほぼ勝ち確じゃん!


「そ、そうじゃなくて!」


 違うんかい!

 まぁ、そううまくは運ばないわな。


「その~、鏡夜は好きな人とかいないの?……な、なんかね!なんかその!わたしだけ言うのも違うかな~って言うか……その~……」


 交換条件ってことか。

 どうする?

 素直にいないって答えたら、ずるいってなって教えてくれない可能性があるよな。

 かと言って適当に答えた場合、答えた人と違う人を攻略してる時に見られでもしたら厄介なことになるのは必定。

 はあ~。


「いないよ」

「えっ?」

「俺に好きな人はいないよ」

「そうなの!?」

「ああ。というか初恋すらまだだしな!」


 ここは嘘偽りなく返答するのが正解だろう。

 日菜は人気があるんだ。

 であるならば、放っておいても達成される可能性もある。


「そっか…………じゃあわたし帰るね!」

「おう」


 あれ?

 適当に言った方がよかったか?もしかして選択肢ミスった?

 オレが日菜の背中を見送っているとふわふわとトーカが飛んでくる。


『部活終了!ターゲットが動くわよ!』

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