第8話 不用意な行動
『ちょっと!慎重にやるっていっても進捗なさすぎじゃない!?』
「それはそうなんだが……思ったより難しんだよ」
そう、オレのここ一か月の進捗はほぼゼロに近かった。
無論なにもしていなかったわけではない。
学校内を歩き回り、初恋マーカーが出ている人の情報収集も進めはしたし、村雨との仲も依然良好である。
ただ、女の子と恋仲になる。
このハードルが童貞どころか恋愛経験すら皆無のオレにはどうしても高い。
現状、詞や村雨と一日だべっている間に一日が終わってしまっていた。
まぁ、だべっていることも悪いことではないんだけどね。現にクラスメイトのオレに対する警戒心は明らかにほぐれている……はずだ。
というか、あれから問題行動を起こしていないオレの評価はむしろいいまであるのではなかろうか?
同時に、クラス内での影が薄くなった気もするが、それも複数人と接触しなければならないことを考えれば悪くはない。
は~、まぁ、言い訳していてもしょうがない。上空からがみがみと説教してくる鬱陶しい天使の言う通りなんとかせねば。
「もうちっと積極的に動くか……」
『そうよ!それがいいわよ!』
ということで、オレは廊下に出る。
なぜ、同じクラスの藍川や桜ノ宮に話しかけないかと言うと、接点の少ない他クラスの方が今後の動きに制限がかかりづらいと予想されるからである。
断じて、日和っているからとかではない!
「とりあえず、日菜のクラスに向かうか」
『えー。英さんのクラスじゃあんたビビるじゃない!?』
「ビビんねーよ!」
実際、日菜のクラスには入りづらい。
日菜のクラスである一組は進学クラスという校内でも頭のいい生徒が集まったクラスであり、他のクラスと互いに何となく選民し合うような空気感が流れてしまっている。
そのせいで、普通クラスのオレではそもそも接点を持つことが難しい。
まぁ、怖いもの知らずだった最初の頃に、日菜とは顔見知りだし入りやすいだろうと甘い考えで一組の教室に入ろうとしたことがあるのだが……。
結果、オレの素行を警戒した進学クラスの連中から非常に冷酷な視線をプレゼントされて敗走した苦い経験がある。
オレは放課後で人が減った他クラスの扉をカラカラと開き覗き込む。
同時に、残っていた生徒たちの鋭い視線がオレに突き刺さる。
日菜も他のターゲットもいないな。
お目当ての子の荷物は…まだあるな。しばらく待って見るか。
『このクラスの雰囲気ってあんたのクラスとちょっと違うわよね。なんかピリピリしてるって言うか……』
「風紀委員の
『ちゃらんぽらんのあんたとは相性の悪い子ね』
オレとトーカが一組の前で話していると急に声をかけられる。
「私がなんですか?」
「へ?」
声の主は会話の中心である桔梗律。
初恋マーカーが付いているため当然調査済みである。
【
・校則に厳しめの風紀委員
・学内でぶっちぎりに背が低い
・他人以上に自分に厳しいがその性格が災いし友人関係は狭い
・親が法律関係の人であり、その影響を色濃く受けているという噂
やばっ!トーカとの会話中だってのに気を抜いてた。
慌てたオレは消火用具の入っている謎の出っ張りに手を引っ掛ける。
「あっつっ!」
「大丈夫!?」
「ああ。平気平気」
オレは何でもないことを桔梗にアピールするため両手を軽く振る。
しかし、これが裏目に出る。
「血が出てますよ!?消毒と止血しないと!」
「あっ、おい!」
<ターゲット設定完了。リセットポイントが設定されました>
しまった……。
かなり相性が悪そうな相手がターゲットになっちまったぞ、どうすんだこれ……。
いや、ターゲットになっちまった以上やるしかない!なんとか桔梗と近しい関係にならないと。
「とりあえず保健室いかないと、ばい菌が入ったら大変よ!」
「保健室ってどこか知らないんだけど……」
『あんた保健室の場所知ってるじゃない?』
この天使は……少しでも一緒にいるためのウソに決まってんだろうが!
こいつの声がオレ以外に聞こえてなくてよかったぜ。
「なら案内してあげるわ。ついて来て」
「ありがとう」
さて、接点ができた今が好機!ガンガン距離を詰めないとな。
「桔梗律さんだよね?オレ、湾月鏡夜。よろしく!」
「知ってるわ。有名人だもの。それよりあなた、ネクタイはしっかり締めなさい!見っともないわよ」
「ふっ」
「何がおかしいの?」
「ああいや、奥さんみたいなこと言うからさ!」
さて、どう返す?
「…………」
あれ?怒らせたか?
「桔梗さん?桔梗律さーん?……律さん?」
「名前呼びやめて」
「ごめん。……自分の名前好きじゃないの?」
「そうじゃないわ。あなたみたいにチャラチャラした人に気安く呼ばれたくないだけ!」
うーん。これは思ったよりも嫌われてるな……。
こいつは仲良くなるの厳しいぞ。
『ちょっと!すごい嫌われてない?どうすんの!?』
わかってんだよ!
「ふーん」
「なに?」
「仮にオレが真面目な人間だったら名前呼びしてもいいの?」
「そう言う意味じゃない!男女が名前を呼び合うのって、そ、そういう関係とかでしょ!?湾月くんとはそういう関係じゃないし……」
おっと、思ったよりもピュアピュアだな。ゲーム的には白馬の王子様に恋い焦がれるメルヘンタイプの可能性もあるか?
いずれにしろガードは固そうだな。
「なるほどね。恋人だったら名前呼びが許されるのか」
「バカにしてる?」
「まさか。桔梗さんはどんな人がタイプなの?」
「…………」
「桔梗さん?……律さーん?」
「だから名前で呼ばないで。好きな人なんていたことないから自分でもよくわかりません!これでいい!?」
ウソじゃないっぽいな。
桔梗もオレが堕とせばミッションの達成条件が成立するのか……。
かなり嫌われてるようだが、その点はありがたい。
オレと桔梗は保健室の扉をノックして入室する。
「失礼します!」
「……誰もいないのか?」
どうやら保健室には誰もいない。
『押し倒すチャンスよ!』
アホか!退学どころか豚箱行き&地獄行き確定のバットエンド直行コースじゃねぇか!
オレがトーカに呆れていると、桔梗が棚の扉を開け始める。
「何してんの?」
「いいから、そこ座ってて!」
オレは言われるがままに椅子に座る。
「手出して!」
オレが手を出すと、桔梗は慣れた手付きで消毒と止血をし始める。
「優しいのな」
「放っておけないだけ」
「下の子とかいるの?」
「一人っ子よ」
「……ありがとう」
「……」
オレの治療が終わり、オレと桔梗は保健室を出る。
するとびっこを引きながら階段を降りてくる人物がいる。
あれは確か
彼女も初恋マーカーが付いているターゲット候補である。
あんな状態でなんで一人で?まぁいい、とりあえず手を貸した方がいいだろう。
オレが手を貸そうと近づくと、瀬流津が足を滑らせる。
「危ない!!」
考えるよりも速くオレは瀬流津を助けるために動いていた。
階段から落ちてくる瀬流津の下へオレの体を滑り込ませ、瀬流津を受け止めて衝撃を緩和する。
「ぐえっ!」
オレより体の大きい瀬流津を完璧に受け止めることができず、オレは瀬流津の下敷きになる。
ちくしょう!もうちょいかっこよく受け止められたらな~。
というか、やばい!
瀬流津の柔らかい巨大なボールを体に押し付けられているせいで、下手に動いたらオレの息子が反応しかねん。
落ちつ…でけーな……じゃなくて冷静になれ煩悩を捨てろオレ!!
オレは体を硬直させる。
「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫!大丈夫!」
オレは起き上がるため差し出された手を取る。
<ターゲット設定完了。リセットポイントが設定されました>
しまったーーーー!!!
まさかのターゲット設定今日二人目。
煩悩に思考力を奪われていた自分を叱りつけたい。
ああ~まずいまずいまずい!これ以上複数になると手が付けられなくなりかねないぞ。
不用意な行動により、オレは攻略を急ぐ羽目になった。
「何とかせねば……」
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