第7話 ゴッドアイテム

『遊んでる暇あるの?』

「遊びで来てんじゃねーよ!」

『まぁ、確かに一人寂しくショッピングじゃ、遊びとは言えないわね』

「お前がいるんだから一人じゃねーだろ」

『なっ、アタシはターゲットじゃないわよ!』

「わーってるよ」


 オレは現在、大小さまざまな店が立ち並ぶショッピングモールに来ている。

 無論、訳のわからん天使とデートというわけではない。

 ここにはを探しに来たのだ。


「とりあえず本屋だな」


 本屋に入ったオレは迷いなく雑誌コーナーへと足を運ぶ。

 お目当ては恋愛攻略雑誌だ。

 そんなものがあるのか知らないが。

 しかし、なくては困るのだ!童貞であるどころか恋愛経験すら皆無のオレには知識が圧倒的に足りない。それを補うためにはどうしても先人の知恵が必要である。


『へ~。恋愛テクニックだって!これとか役に立つんじゃない?』


 オレはトーカが指さす雑誌を手に取る。


「ダメだな。明らかに女性向けだ。オレがこんな真似してもぶりっ子かましてる痛い男子高校生の出来上がりだ」

『そんなこと言ったって、ここにある雑誌全部女性向けの雑誌でしょ?』


 そうなのだ。

 本屋においてある恋愛のうんちくが載っている雑誌はどれもこれも女子向けの雑誌ばかり。

 端っこに追いやられている僅かな男性向け雑誌もモテる髪型やら服装やらで、肝心の親しくなる方法が見当たらない。


「雑誌はダメだな」

『恋愛小説とか恋愛漫画は?結構参考になるんじゃない!?』

「そうだな。もう一軒くらい回って見て、何もなければ人気の漫画でも買って帰るか……」


 オレは足取り重く一軒目の本屋を後にする。

 くそぅ。こんなことなら恋愛漫画を日頃から呼んでおくんだった……。て言うか恋愛経験を積んでとっけ話なんだが……まぁ、悔やんでてもしょうがないか。

 最悪、多少の失敗は覚悟のトライ&エラーで何とかするしかない。


『鏡夜!鏡夜!』

「なに?」

『これ!村雨さんが持ってたグッズのキャラクターじゃない!?』


 キャラクター?

 トーカがガラスに顔を貫通させながら覗き込んでいる方を見ると、そこには確かに村雨心和が持っていたグッズに描かれていたキャラのゲームが発売されていた。

 このキャラクターってゲームのキャラだったのか……。

 こいつを使えば村雨心和と仲良くなれるだろうか?いやしかし、昨今のヲタクと呼ばれる人種はにわかが軽々しくすり寄ってくるのを嫌うとも聞いたことがあるし、悪手になるかも…………ん?

 その時、ガラス張りの店内にひときわ輝く商品を見つけた。


『あっ!ちょっと!』


 オレは急いで店内へ入るとその商品を手に取る。


『どうしたの?何か見つけたの?』

「見ろこれ!恋愛シュミレーションゲームだって!これだろこれ!!」


 オレは商品を裏返すと商品紹介に目を走らせる。


「適切な選択肢を選びさまざまな女の子を攻略する本格派恋愛シュミレーションノベルゲーム。主要キャラクターは6人。分岐によってそれぞれ違った結末を迎えるマルチエンディング。個性豊かなヒロインたちとあなただけの最高のエンディングを迎えよう。だって!これはすごい教材なんじゃないか!?」

『確かに……。役に立ちそうね』

「だよな」

『でも、これ色んな種類があるみたいだけど……どれがいいのかしら?』

「よくわからんから、とりあえず2、3本買っておこう」



 その日からオレの一日のルーティンが決まった。

 早朝、日が昇り切らないうちに起き、朝食とオレと彩夜のお弁当の準備。遅刻しないように誰よりも早く登校し、ここで恋愛シュミレーションゲーム。生徒たちが登校してきたら日が沈む頃まで授業とターゲットたちの調査。帰ったら残りの家事をこなし自室にて恋愛シュミレーションゲーム。

 いや~非常に充実した高校生活…………と呼べるのだろうか?

 学校以外の時間ゲームしかやってないけど……。

 自らの生活に不安を感じていたオレであったが、ゲームは予想外の効果をもたらした。



「うーん。この子の特殊エンドにどうやっても行かないんだが……」

『ここの選択肢が違うんじゃないの?』


 それはいつものようにオレが誰よりも早く登校して、教室でゲームをやっていた時である。

 いつもはまだ誰も来ない時間に突然、教室の扉が開く。

 村雨心和だ。


「おはよう!」


 オレが明るく挨拶すると、村雨は少し驚いた顔を見せ小さく会釈をする。

 まぁ、仲がいいというわけではないしこんなものだろう。

 そう思っていると予想外に村雨の方から会話を振ってきた。


「早いねんな」

「ああ、うん。入学式から二日連続で遅刻しちゃったからね」


 オレの返答に村雨は再び驚いた表情を見せる。


「意外。不真面目系の人やと思ってた」

「まぁ、この顔であの行動をしちゃったらそう思われるよね」

「自己紹介の時に話しとったおばあさんを助けたってやつ?あれほんま?」

「ほんとだよ」

「ふーん」


 村雨は興味あり気にこちらを観察する。


「何のゲームやってんの?」


 村雨の質問にトーカが慌てる。


『女の子に恋愛ゲームやってるなんてバレたら引かれるんじゃない?どうすんの?』


 確かにその可能性はゼロじゃない。

 だが、逆に恋愛に興味がある、かつ恋愛下手でチャラくないというアピールにもなり得る。

 それに村雨はゲームキャラのグッズを学校に持ってくるほどのゲーム好きだ。勝算は十二分にある。


「『ドリームキス』って言う恋愛ゲームなんだけど──」

「ドリキス!?」

「知ってるの?」

「な、名前は…知っとるけど……」


 おおっ!この感じ、さてはプレイしたことあるな?

 しかも、ゲームの話はしたいけどゲーム好きとは思われたくないってところかな?

 ヲタク系の子はヲタク趣味を隠したがる。だが、内心では布教及び同志とヲタク話で盛り上がりたいだったな。

 マジでゲームの通りじゃん!恋愛ゲームすげー!!

 よし!ここからどう誘導するかが重要だな!


「そっか。選択肢を選んでいく面白いゲームなんだけど意外と難しくてさ、思ったエンディングになかなかいけないんだよね」

「ふーん」

「そうだ!これ貸すから、やってみない?」

「え!?別にええよ。えっとー自分で買ってプレイするから」

「マジ!?じゃあプレイしたら今度感想聞かせて!」

「え、ええけど……」


 よーし!これで村雨と親密になる取っ掛かりができた。

 ゲームありがとーーー!!

 オレは机の下で密かにガッツポーズをする。

 村雨との初会話は、その後続々とクラスメイトが登校してきたことによりお開きとなった。

 まぁ、まだ人前でオレと仲良くするのは抵抗があるか……。

 詞とは仲良く話してんだけどな~。……詞としか話してないけど。


『やっと進展があったわね』

「次の会話の布石も打てた。ゲームさまさまだな」

『本当に役に立つとはね!ゲームに無駄金を使っただけなんじゃないかと思ってたわ!ゲームの内容だとヲタク少女はチョロいのよね?このまま堕としに行くの?』

「いや、もう少し慎重に行こう。二次元の完璧超人キャラに慣れ過ぎて要求ハードルがめちゃくちゃ高い場合があるそうだ」


 そうじゃないことを祈るが……。

 それにターゲット以外の記憶を消せない以上、クラスの奴を攻略する際は周囲の連中にも気を回さねばいけないしな。



 それからというもの、オレと村雨はよく会話をするようになった。

 村雨もあまり友人を作るのが得意ではないようで、教室内では基本オレと詞としか会話していない。

 オレとしては好都合だ。

 恋愛の話題も少しずつ話せるようになった。

 村雨は好きな二次元キャラは両手両足ですら収まりきらないほどいるが、三次元に対しては恋愛感情を持ったことがないらしい。

 というか、そういう対象として見たこともないらしい。

 攻略対象としてはうってつけだ。

 後はどのタイミングでターゲット設定するかだが……手を繋ぐのハードル高いな。

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