第6話 クラス一の美貌の持ち主
オレが他のクラスの偵察に席を立とうとした時、前の座席に座っていたクラスメイトが振り向き、声をかけてきた。
「あ、あのっ!」
「かわ──」
思わず「かわいい」という感想が声となって漏れそうになり、オレは慌てて口を押さえる。
今までこの世で我が妹、彩夜以上にかわいい存在などいないと思っていたが、これは……。
真珠すらも霞む透き通るような美しい肌、パッチリと開いた大きな目、小さく艶やかな唇、そしてふわりと柔らかいショートヘアーからは甘い香りが漂ってくる。
何という造形美。
彩夜という存在がいなければ、完全に心を掌握されていただろう。危なかった。
「えっと……なに?」
いきなり修羅場とは……。
ここは爆弾解除のごとく慎重にならねばなるまい。
目の前のクラスカースト上位必至であろう美少女が割と大きめの声で、クラスの問題児候補ナンバーワン絶賛独走中であろうオレに声をかけたのだ。クラスの連中が
ここで下手な返答をしようものならその瞬間、オレのこのクラスでの扱い、ひいては立ち位置が決まることになるだろう。絶対にミスは許されない。
というか、クラスの奴ら注目し過ぎだろ!異様なほど教室内が静まり返ってますけど!
『ねぇ鏡夜!他のクラス見に行かないの?ねぇ聞いてる!?』
うるせえな、このポンコツ天使!今それどころじゃねーんだよ!
今まさに文字通り生死のかかった重要な局面に、オレの頭をフル回転させなきゃなんねーんだよ!
何の用だ?さぁ来い!!
「その~……おばあさんを助けたって偉いね!」
「…………」
「…………」
そんだけ!?それ言うためだけに今一番クラスで警戒されているだろう存在に声かけてきたの!?
もうちょっとこう……あるだろ!なんか!
いや、まぁ高校生活初めの会話というのは得てしてこんなものか。
「道案内しただけだけどね」
「それでも偉いよ!ボクじゃきっとできないし」
「ボク……」
ボクっ子だと……!?マジか!?人生で初めて会った。
女子で一人称がボクの奴がいるってのは聞いたことがあったけど、この容姿も合わさると想像以上の破壊力だな。
「やっぱり高校生にもなってボクって変だよね?」
やっべ!地雷だったか!?
「いや、そんなことはねーよ!ボクが一人称でもいいと思うぜ。というか、その方がいいんじゃないか!?」
「でも、やっぱり男なら俺の方がかっこいいんじゃ?」
「どっちでも……ん……?」
男?
って座ってたから背もたれに隠れててよく見えてなかったが、男子の制服じゃん!
ってことはこの容姿で男!?
とんでもないトラップだな。これは世界中全員が引っ掛かるだろ!?
「どうしたの?」
「え?ああ、いや」
上目遣いで覗き込んでくるな!破壊力がすごいんだよ!男とわかっててもドキッとしちゃうでしょうが!
「湾月くんだっけ?」
「ああ」
ヤバい。自分の自己紹介に集中してたせいで、この子の名前覚えてねーよ!
「って自己紹介一応しといた方がいいよね?ボク、
笑顔の破壊力もやはりすごいな。後ろに花の幻覚が見える。
というか、オレが名前覚えてないの察したのか?もしかして見た目以上に察しがいい?トーカのこともあるし一応警戒しとくか。
「湾月鏡夜。鏡夜でいいよ。よろしく!」
「じゃあボクも詞って呼んで!それで鏡夜の一人称なに?」
「オレかな」
なにこの中身のない会話…………最高だな!
『しょうもない会話してないで、早く他のターゲットを探しに行きましょうよ!』
うるさいな、この天使。今いい感じなんだよ!
そんなことやっているうちに授業が始まってしまった。
『ちょっと!他のターゲットを探しに行くんじゃなかったの!?』
「まぁ、そのつもりだったんだけどな」
『時間は無限じゃないってわかってるの!?』
「わかってるって。そもそも、さっきの会話の価値は高いんだよ」
『どういうこと?』
「今のオレは二日連続の遅刻によりクラスメイトから警戒されている。この状態では、ターゲットがいたって近づくことすら難しい。だが、今みたいに柔らかい雰囲気で会話しているところ見せれば、警戒を解きやすい。それに都合が良いことに今の会話はクラス全員が注目していた。つまり、今クラスで一番認識されているのはオレってことになる」
『認識されることがいいことなの?』
「当然だ。恋愛において無関心が一番まずい。元々評価が高いに越したことがないが、無関心よりは評価が低い方がずっといい」
『どうしてよ?』
「目で追ってもらいやすくなる。好きなものと嫌いのものは反射的に目で追ってしまうからな、目で追ってるうちに気になっていると錯覚する可能性がある。それに、雨の日に子犬を拾うヤンキー理論というのがあってな、低評価の存在が良いことをすると一気に株が上がるという理不尽な理論がこの世には存在する。これも、無関心な奴が良いことをしても認識すらしてもらえないのに対して、嫌いな奴は目で追われてるから良いことをした時に認識されやすいってことが根底にある」
『なるほど!』
「今のクラス内のオレは全員が認識している存在で、二日連続で遅刻はしたが会話ができないほど怖い奴ではないってところじゃないか?」
『てことは思ったよりもいい感じなんじゃない!?』
「そうだな」
『結構頭使ってんのね!』
ふー。話しが繋がったーーー。
トーカが賢くなくて助かったな。
初めてのクラスメイトとの会話で浮かれてましたなんて言ったら絶対小言がうるさいからな。
実際はそんなに簡単に人の評価は覆らないだろう。
詞のおかげでかなり救われたとは言え、クラスメイトのオレへの評価もまだまだ低いままのはずだ。
授業終わり。
学校開始初日ということもあって、部活勧誘が賑わいを見せている。
オレはとんでもない
『ちょっと!結局日菜さん以外のターゲット増やしてないじゃない!?』
「当たり前だろ!前にも言ったがポンポン増やせばいいってもんじゃねーんだよ。すでに初恋を寄せる相手がいるのかいないのか、どのタイミングでターゲット設定するのか、慎重に慎重を重ねないと取り返しがつかないことになりかねんからな」
『そんなこと言ってそのタイミングを逃したらどうすんのよ!』
「そん時はそん時だよ。それに、失敗がどれくらいのペナルティーになるかわからない以上、リセット前提で動く。だから、勝手に初恋が成就できる奴は度外視だ。ターゲットはオレが堕としに行く」
『ふーん。まぁ、あんたがそう決めたんならそれでいいけど。でも、それだってあんまり悠長にはしてられないわよ』
初恋の相手をオレに誘導する方法は相手の気持ちを
それに、ぶっちゃけこのやり方が最も安全で最も効率がいい。
ここで一番重要になってくるのが、どのタイミングで手を握ってリセットポイントを設定するかだ。
当然オレに対しての思い入れが薄い、早い段階で設定するに越したことはない。
しかし、失敗しないためには、初恋相手をオレにする余地があるか、オレに勝機があるか、そこを見極める期間はどうしても必要になる。
それにトーカの説明を聞く限り、記憶の消去が行われるのはターゲットのみ。
つまり、周りの連中、特に今後ターゲットになり得る存在にはオレがターゲットと接触しているところを可能な限り目撃されない方が都合が良い。
ちんたらちんたら時間をかけて攻略するのではなく、スピードゴールインも重要となる。
場合によってはオレが攻略してることを周囲に吹聴しないように、口止めも必要か……。
完全に複数人と浮気している最低野郎のムーブだよな……いや、考えないようにしよう!
「は~。日菜はどうするかな~……」
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