第4話 ミッション達成の条件
日菜を送り届けたオレは自宅へと帰る。
まぁ、送り届けたと言っても隣の家なわけだが……。
『おおっ!ここがあんたの家ね!』
「お前の声は他の人には聞こえないとしてもオレには聞こえるんだ。騒いだら家から叩き出すからな」
『わかってる。わかってる』
ほんとに大丈夫か?
オレは不安を抱えながら家へと入る。
「ただいまー」
誰もいないのか。まぁ、今からトーカに尋問しないといけないことがあるので都合はいい。
オレは身綺麗にすると自室へと戻る。
「さてトーカ、聞きたいことがある。」
『なに?スリーサイズとかはそう簡単に教えられないわよ?』
「ちげーよ、このポンコツ天使!さっきのアナウンスあれはなんだ?何の説明も受けてないぞ?」
『あれは、その~……』
「黙ってたのか?」
『違う違う!!忘れてたの』
「なら、説明できるよな!?」
『……はい』
トーカの説明によると初恋マーカーのついてる人と手を握ることでターゲット設定が完了する。
つまり、手を握っていない状態で初恋が成就した場合、それはオレの手柄とは認められず、初恋ポイントが溜まらないということらしい。逆に言えば、ターゲット設定さえされていれば、オレがなにもせず初恋が成就しても手柄と認められるそうだ。
ならば片っ端からターゲット設定すればいいかと言うとそうでもない。
ターゲットと設定した相手の初恋が成就しなかった場合、初恋ポイントが減るそうだ。
ターゲットは慎重に選ばなくては……と言ってもこのポンコツ天使のせいで不用意にターゲットを一人設定してしまったんだけどな。
それ以前に、小学生女児にあの時手を握られていたらターゲット設定が完了していたということだよな?
あぶねーーー。幼女様ありがとう!!
って言うか、こういう大切なことは一番初めに言えよな!失敗したら、こいつもオレと同じ地獄行きなんだよな?もうちょい危機感持てよ!!
「で?リセットポイントってのは?」
『その前に、恋したことない子の初恋をもっとも簡単に成就させる方法ってなにかわかる?』
「簡単に成就させる方法?そん方法があるのか!?」
『あるわ!あんたが初恋相手になることよ!』
……なるほど。
恋の協力者のという視点で見ても恋の成功のポイントは、恋する女の子に寄り添うことよりも、恋されている相手方を振り向くように誘導することだ。その相手がオレ自身であれば成功率は100パーセントなのだから、労力をかなり軽減できる。その場合、オレがマーカーのある子を堕とせばいいということか……。
だが──
「その方法は──」
『そう。堕とした後に破局するにも、複数人にアプローチするにもかなりリスクがあるわ。そこで存在する救済措置がリセット。内容は、ターゲット設定期間中のあんたとの思い出のリセットよ』
「つまり、オレがアプローチしていた記憶がターゲットから消去されるから、別の奴にアプローチしても問い詰められることはないって理屈か……。それで、初恋が成就したと呼べるのか?」
『どういう形であれ、初恋が成就したという事実は変わらないわ』
うわー。
天使とは名ばかり、まさに悪魔の発想だな。
『それと、今度は言い忘れずに言っておくけど、手を握るとリセットポイント設定で最初のキスでリセット。リセットポイントはターゲット設定同様一人につき一回までよ』
今の説明的にミッション達成とリセットの条件は違うということか……。ミッションを達成しても自動的にリセットされるわけではないと。
「別にどうでもいいよ。そんな方法使う気はないし」
『たぶん無理よ』
「なに?」
『一定期間初恋ポイントに変動がなかった場合、あんたは死亡して地獄行きと言ったでしょ?長々と成就するのを待っている余裕はないわよ』
そうだった。ある程度成果を出していかないといけないんだった。
さすがにターゲットに告白の勇気を与えつつ、相手をオーケーするように誘導するのは時間的にも勝算的にも厳しい、しかも場合によってはターゲットに誰かを好きになってもらうところから始めなくてはならない。
対して、リセット前提で動けば相手を誘導する必要がないのはもちろん、告白もオレ主導で問題ない。初恋がまだの奴に対しても誰かではなくオレを好きになってもらえばいいのだから、勝算はともかく時間は圧倒的に短縮できる……ということか。
やはり、リセットなしでやるのは無謀か……初恋を奪った挙句、その記憶を消してなかったことにするとか、こりゃロクな死に方しないな。
「おっとこんな時間か!?」
『なにか予定があるの?』
「家事すんだよ、家事!」
湾月家はちょっと特殊な家庭環境だ。
父親はおらず、オレと母さんと妹の三人暮らしだ。
と言っても、母さんは仕事を頑張ってるからほとんど家にはいない。んで、オレが妹の面倒を見ている。
「あれ、帰ってたんだ。アニキ」
リビングに入るとソファーから声を掛けられる。
我が愛しの妹、
今年から中学一年生。
そういう時期なのか、最近ほんの少し距離感を感じるのが兄としての悩みである。
昔は「将来はお兄ちゃんのお嫁さんになるー!」とよく懐いてくれていたのだが……今はスマホ片手にソファーに寝ころびながらチラリとこちらを確認しただけで……あ……る。
「お、おう。ただいま」
オレは震える声で返事をするとふらふらとリビングを出て、自室へと帰還する。
『妹さんと仲悪いの?』
「……」
『ちょっと、聞いてるの!』
「彩夜の頭の上のアレ!!アレは……」
『ああ!初恋マーカー出てたわね!』
そうオレは見てしまった!妹の頭上に
兄としては妹の初恋がまだで正直ほっとしている。だが、しかし──!!
『妹さん誰かに恋しているのかしら?』
「そう!問題はそれだ!彩夜は間違いなく世界一かわいい。つまり、彩夜の初恋が叶わないはずがない」
『ならいいじゃない!今のうちにターゲット設定しときなさいよ』
「よくない!彩夜から恋愛相談なんて……うっ……心臓がっ!とにかくもし仮に万が一、いや億が一あのマーカーが消えたら彩夜が誰かと結ばれたということだ!」
『初恋が実らなくてもマーカーは消えるわよ?』
「彩夜を振るような奴はな……いや、彩夜に近づく奴も……とりあえず今のうちに山に穴でも掘っておくか……」
『ダメに決まってるでしょー!まさかあんたがシスコンだとは……』
「シスコンじゃない!」
『今のやり取りのどこにシスコンじゃない要素があるのよ!』
「心配しているだけだ!妹を思わない兄などいない!」
トーカと言い争っているとドアの外から彩夜の声がする。
「アニキうるさいんだけど!」
「ああ、ごめんごめん」
オレは慌てて自室を飛び出した。
彩夜は怪訝な顔をしている。
「母さんは?」
「お仕事だって。もう出てったよ」
「そうか。……食べたいものあるか?今日は彩夜が中学生になった記念日だからな!何でもいいぞ!」
「体調悪いなら無理しなくていいよ」
「ん?元気だぞ?」
「そっ」
「え?あっおい!」
彩夜はスタスタとリビングへ降りて行ってしまう。
『やっぱり仲悪い……というか嫌われてんじゃないの?』
「そんなことはない!」
オレは彩夜に料理を振舞うためキッチンに立つ。
ん?いろいろと動いてる?
すると、慌てた様子で彩夜がこちらに向かってきて冷蔵庫の前に立ち塞がる。
「彩夜?そこにいると食材が取り出せないんだが?」
「ちょっと向こう行ってて」
「え?なんで……?」
「いいからあっち行って!」
なっ!?……そんな……あんなにいい子だった彩夜がオレを拒絶……ごふっ。
やばい涙が出そう……。
『とりあえず離れたら』
「わかった……」
オレは力なくソファーにへたり込む。
『ちょっと、しっかりしなさいよ!』
「……もうオレはダメだ」
『今まではこうじゃなかったんでしょ!?だったらなんか理由があるんじゃない?』
理由?
『例えば、好きな人ができたとか?』
よし!ちょっくらコンクリートの準備でもするか!
「ねぇ、アニキ」
「ど、どうした……」
え?なに?まさか本当に好きな人ができたという相談とか!?
ここは頼れる兄としてきっちり相談に乗らないと。落ち着け、落ち着け。
あーやばい、吐きそう。
「こ、これなんだけど……」
そう言いながら彩夜は謎の黒い物体が入った皿を出してきた。
「これは?」
「事故ったって聞いたからアニキのためにご飯を作ろうと思ったんだけど、失敗してその──」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!ありがとー彩夜!!これは家宝として飾らねば!」
「恥ずかしいからやめろバカ!!食べないなら捨てるからね!」
「はい!」
『こいつアホだな……』
オレは感激の涙をこぼしながら彩夜の作ってくれたご飯を完食し、無事腹を壊した。
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