第5話 クラスメイト
今日はクラスメイトと初顔合わせである。
なんせ、オレは入学式に出席できなかったからな!
そんなオレであるが現在必死の形相で学校までの道を走っている。
『早くしないとまた遅刻よ!』
「わかってる。ただ、腹に何も入ってないから力が出ない……」
『あんなもん食べるからでしょ!』
「妹が初めて作ってくれた料理を完食しない兄はこの世にいないんだよ!」
オレは腹痛を悟られないよう妹を送り出した後、トイレと仲良くしていた。
まさか彩夜の料理があそこまでパンチがあるとは……これは料理を教えてあげた方がいいのだろうか?
と、今はそんなことより遅刻をしないことだ!
入学式どころか授業初日も遅刻しましたとなったら、本当に高校生活が詰んでしまう。
そんなオレを試すように前方には明らかに挙動不審なおばあさんが──。
「本当にありがとうねえ」
「いえいえ」
やばい!遅刻だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
『バカじゃないの!?』
「しょうがないだろ!」
オレは大慌てで学校へ駆け込むと、自分のクラスである一年三組に向かう。
座席表を確認できていないが問題はない。
なんせオレの苗字は
オレは教室の扉を開ける。
教室内はオレが扉を開けた瞬間に静寂に包まれる。
無理もない。入学式でやらかしたやべー奴が今日も遅刻してきたのだ。オレが向こう側であっても白い目を向けるだろう。
ただ一つわかって欲しい。
故意じゃないのよ故意じゃ。だから今この空間で一番苦しい思いをしてるのはオレなのよ。
「えっと、そこの空いてる席にお座りください」
先生、敬語が硬すぎて顔を引き締めても、怯えているのがバレバレですよ。
まぁ、まだ若い女性の先生みたいだから不良生徒に緊張するのはしょうがないけど……。
「ありがとうございます」
警戒を解くためオレはぎこちないお礼を述べると空いている席へと座る。
オレが席に向かう最中に周りの連中がさり気なく席を離したのが普通にショックだった。
やばい。初日にして心が折れそう。
地獄へのカウントダウンが刻一刻と近づいているのを感じる。この状態で恋のキューピットとか、もはやギャグだろ。
放心状態のオレを余所にホームルームは進む。
『ねえ!ねえってば、鏡夜!!』
トーカに呼ばれてオレの意識が教室に戻ってくる。
『自己紹介が始まるわよ!ミッション達成にとって重要なファクターよ!気合い入れなさい!』
確かにそうだ。そもそもミッションうんぬん関係なくクラスメイトの名前は覚えておいて損はないだろう。
オレは背筋を正す。
「では、名前順に藍川さんから自己紹介お願いします」
「はい。
なるほど、名前と一言ね。把握把握。
自己紹介はトーカが言う通り今後の学生生活を占う重要なイベントだ。熟考しなくては。
『なに呑気に自己紹介考えてんの!あれ見てあれ!!』
トーカに言われて指さされた藍川を見る。
なっ!?藍川楚麻理の頭上には円錐状の矢印、初恋マーカーが浮かんでいる。
つまり、藍川楚麻理はミッション達成のターゲットになり得るということか!?
オレは教室内を見渡す。
すると、ちらほら頭上に初恋マーカーが浮かんでる人が確認できる。
マジか……初恋まだの人って意外といんのか……。
これなら地獄送りを回避できるんじゃないか!?
とりあえずオレは初恋マーカーが浮かんでいる人の名前と第一印象を頭に叩き込む。
マーカー有りは三人。
【
・出席番号一番
・茶髪
・容姿は整っている方
・それ以外に特筆すべき点のない無難な子という印象
【
・派手な髪に健康的で美しい肌
・凹凸のハッキリとしたナイスボディ
・なんとなく上品で近づきがたい雰囲気
・鞄も学校指定のものと微妙に違うし、いいとこのお嬢さんって感じだろうか?
【
・隣の席
・制服はオーバーサイズ
・キャラのもののグッズが散見される
・警戒しているのか興味があるのかわからないが終始チラチラとこちらの様子を窺っている
特徴は三者三葉といった感じか……。
系統が似通っていればミッションを効率化できると思ったんだが、そう簡単にはいかないか。
「では最後ですね、お願いします」
マーカー付きの三人を観察しているうちに、オレの自己紹介の出番が回ってきた。
『自己紹介は今後のためにも超重要よ!かっこいい一言を頼むわよ!』
今の状態でかっこいい一言はハードル高いだろ。
バラ色の学園生活を目指すために気の利いた自己紹介でと言いたいところだが、ここはミッションのためにも周囲の反応を見やすい一言にさせてもらう。
「湾月鏡夜です。今日はおばあさんを助けていて遅れました。3年間よろしくお願いいします」
オレは自己紹介後、少し間を開けてから着席する。
オレの自己紹介に対するクラスメイトの反応はさまざまだ。
『悪くないじゃない!』
「そいつはどうも」
オレの自己紹介の出来はどうでもいい。
重要なのは三人の反応だ。
桜ノ宮真姫と村雨心和の反応は悪くない。
が、藍川楚麻理、この子の反応は少し厄介だ。
「うーん」
『どうしたの?』
「トーカは三人の反応どう思った?」
『三人の反応?別に普通じゃない?』
そう言いながらトーカは三人の様子を確認し始める。
「そうじゃなくて、自己紹介中とその後のことだよ」
『そう言うことね!ごめん!見てなかった!』
マジかこいつ……。オレが自己紹介してる時の反応観察してなかったのか!?とことん役に立たないな……。
今後こいつを頼りにするのはやめよう。想像以上のポンコツだ。
『なに?なんか気付いたことあったの?』
危機感なく質問してくるトーカにオレはひそひそ声で答える。
「人ってのは一挙手一投足に性格が現れるもんなんだ。慣れない環境に置かれた時は特にな。そして、そういった性格は攻略の際に役に立つ」
『へ~。で、それぞれどんな反応だったの?』
「桜ノ宮は冗談と受け取ったんだろうな、笑っていた。村雨は最初に驚きと反省、その後に疑いの視線を向けてきた。藍川は……周囲の様子を確認していた」
『ふーん。疑ってきた村雨さん、彼女が攻略難度が高いってことね!』
「全然違う。やっぱお前ダメだな」
『なっ!?どう違うっていうのよ!?ちゃんと説明できるんでしょうね!』
「まず、三人の中で一番素直なのは村雨だ」
『?疑ってたんじゃないの?』
「最終的にはな。元々オレみたいなタイプは苦手なんだろうな。けど、人助けという遅刻理由が判明して自己嫌悪した様子だった。村雨の性格はオレの見立てでは、自己評価が低めで意地は張るが根は素直といったところかな。座席が隣なのは救われたな、うまく打ち解ければ勝機はあるだろう」
『こわっ……。よく一瞬でそこまで推察できるわね……』
「命がかかっているからな。お前は能天気過ぎだ」
『で?桜ノ宮さんは?笑ってくれていたんだし、攻略しやすそうじゃない?』
「普通だな。オレの話を冗談だと思う、これはクラスの大半の奴と同じ反応だが、
『なに?信用されなくて怒ってんの?ぷぷぷ』
「そうじゃない。村雨より人を信用してないって言いたいだけだ。ただ普通過ぎて攻略のカギは今のところ不明だな」
『藍川さんは?周りの様子を見てただっけ?』
「ああ。一番厄介だな。正直、ターゲットにしたくない」
そう、この子とは手を握らないように注意せねば。
『なんで?』
「恐らく、自分の意見が希薄で流されやすい性格。ああいうタイプは周りの評価を気にしながら相手を選ぶと予想される」
『クラスの人気者を選ぶってこと?』
「いや、人気過ぎると嫉妬心を買いかねない。かと言ってカーストが低いと馬鹿にされるかもしれない。そんなことを考えてるから初恋がまだなんだろうな。格を気にする奴の相手は面倒だからゴメンだ」
オレがマーカーの付いている三人の解説をトーカにしている間にホームルームは終わったようで、先生が退室し教室内が騒がしくなる。
『とりあえず、村雨さんと桜ノ宮さんの二人をターゲット設定する?』
「いや、まずは他のクラスにどれくらいマーカーが付いてる人がいるか確認しよう。リセットの特性上クラスメイトは出来る限り後回しにしたい」
さて、問題はどうやって他クラスに顔を出すかだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます