Sting me.

きょうじゅ

本文

「幾つだ?」


 濁った夜の街。酔客と、悪漢と、そして彼ら不良少年少女が集まる掃きだめ。レザージャケットを纏った赤髪の若者が、金髪を荒く両結びにし、胸元を露わにした娘に尋ねた。


「トシなんか訊いて、どーする気?」

「訊き返すなよ。どうせウリやってんだろ? 俺には金がある」

「トシなんか、どうでもいいじゃん。アタシはパメラよ。あんたは?」

「ハルだ。だけど、どうでもよくねえんだよ。何しろ未成年だからな、事案になっちまうんだ」

「アタシ未成年じゃないよ」

「嘘つけ」

「どーでもいーじゃん。ヤるのに大人も子供もないでしょ」

「そうじゃない。俺が未成年なんだ。大人とヤると、相手の女が捕まっちまう。ジュニアハイスクールで女教師を失業させて、この街に流れてきたのさ」

「なに、あんた保護観察ホゴカン中ってこと?」

「そうさ」

「呆れたもんね。でも大丈夫よ。アタシ14だから」


 未成年同士の交渉は淫行にはならない。おかしな理屈だが、この国の大人たちは、そのように定めていた。


「でもね。金だけじゃダメ。他にも払ってもらうもんがあるの」

「なんだ。ハッパか?」

「ううん、そういうんじゃない。ちょっとこれ見て」


 少女は右の耳と、左の耳と、臍と、そして舌を出してみせた。


「ピアスが多いな」

「そう。いま14コ開けてんの。次で15ヶ所目」

「開けんのか?」

「新しい男とヤッたら、その記念にピアスの数を増やすのよ。つまりあんたが十五人目」

「ふーん。でも、そんなもん勝手にすりゃいいじゃないか。ピアス代を出せとでも?」

「ううん。記念にピアスを開けるたびに、男にも開けさせてんの。同じ場所に」

「あー。なるほど?」

「というわけで、どの場所がいい?」


 少女は電池で動く仕掛けのシンプルなピアッサーを、偽物のブランドバッグから取り出して、にっこりと笑った。


「あんたは初めてなら、耳にしとくのが無難だけど。アタシの耳もまだいくつかはイケる」

「うーん。見える場所は嫌だな」

「開けないなら、やらせたげない」

「じゃあ、ここでいいか?」

「え……そこ? 確かにピアスは不可能じゃないけど、これからの商売に差し障るなあ」

「これでどうだ?」


 少年は札束と言うに足るだけの厚さがある金を、尻のポケットから取り出した。


「あんた……ヤバいね。サイコー」


 言うが早いか、少女はピアッサーを少年の胸の突起に当て、トリガーを引いた。


「いってえええええ!」

「へっ。初めてはね、痛いもんだって相場が決まってるんだよ」

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Sting me. きょうじゅ @Fake_Proffesor

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