第5幕 終結
「早く…もっと早く…」
早馬に乗るルシアの気が急く。一秒でも早く、リムネッタののいる場所へ向かいたかった。時間にしてほんの数分の距離だが、ルシアにとっては長い長い時間に感じる。
「リムネッタ…」
彼女が、彼女の騎士団の人たちが、無事であるように祈りながら急ぐ。
「もっと…!」
数時間にも思える時間が過ぎて、ようやく北面の戦線に辿り着いた時、そこに広がっていたのは凄惨な光景だった。数えきれないほどの騎士団の死体が無造作に放置されている。第二騎士団の面々は八面六臂の活躍を見せていたが、それでも奇襲された上に敵の数が多すぎて、形勢不利は覆せるものではなかった。
「リムネッタ…!」
ルシアは馬に乗ったままリムネッタのもとへと駆けつけ、馬から降りる。隣には救護兵もいた。
「ルシア将軍!?」
「ルシア…ど、どうしてここに…?」
リムネッタは苦しそうに声を出す。腹部からは血が滲み出ており、手当を受けていた。
「援軍に来たんだよ」
「そっちは…大丈夫だったの…?」
「うん。今はシャルロッテが頑張ってくれてる。彼女なら大丈夫…私以上に才能がある子だからね」
「そっか…それならよかった…。こっちは、騎士団も私も、もうダメかも…」
痛みが増したのか、苦しそうな表情をするリムネッタ。
「リムネッタ、そんなこと言っちゃダメだよ!」
ルシアはリムネッタの手をぎゅっと両手で包み込む。
「大丈夫…大丈夫だから…弱気は、ダメだよ…!」
「ルシア…」
ルシアの頬を流れる涙をそっと掬う。
「そうだね…まだ諦めちゃダメだよね」
「リムネッタ…」
リムネッタはルシアをぎゅっと抱きしめる。
「ルシア…ありがとう、もう大丈夫」
そう言うと、リムネッタは立ち上がる。
「り、リムネッタ将軍!」
介抱する少女の制止を振り切り、リムネッタは一歩踏み出す。
「こんなところで、休んでいられないよね…」
リムネッタは前を見据える。激痛が走るが、リムネッタはぐっとこらえた。
「ルシア…ここも、絶対に守ろう」
「…うん」
……リムネッタは、こんなにも強い子だったんだ……
ルシアはその時、リムネッタの本当の強さを垣間見た気がした。
「ルシア、いこう」
「うん、リムネッタ」
二人は、敵兵の中央部へと飛び込んでいく。
ルシアとリムネッタ…二人で一緒になって、敵兵を次々と倒していく。片方が敵を斬る瞬間に出来る隙を、もう片方がカバーする。時には互いに背を預けながら周囲の敵を一掃していく。ルシアとリムネッタ…二人一緒なら、どんなに絶望的な状況でも必ず乗り越えられる…ルシアはそんな気がした。
そうしている間に増援が到着し、戦闘がさらに激化する。劣勢だったブルーメ国が、徐々に劣勢を挽回していく。皆必死だった。家族や恋人、友人…それぞれの守りたい人のために、全力を尽くした。永遠とも思える長い長い時間が過ぎていく。
……一体、何人殺したんだろう……
ルシアは自問する。
……一体、あと何人倒せばいいんだろう……
永遠の時間を繰り返しているように感じられた。
……まだ……まだ敵がいる……
ルシアはまた一人殺す。剣を振るう。ルシアもリムネッタも、意識が朦朧としてくる。生きるているのか死んでいるのか、境界が曖昧になっていく。もしかしたら、既に死んでいるのかもしれない…そんな考えがルシアの頭に浮かぶ。
……私は、みんなを、守る……
ルシアとリムネッタの気持ちは一つだった。持てる力を全部使い果たすまで、二人は戦い続けた。
……
…
燃え続ける町の音だけが辺りに響く。
「……」
ルシアが地面に剣を突き立てる。立っているのは、ルシアとリムネッタ、他数人のブルーメ国兵士だけだった。
「終わっ…た…」
ルシアは剣に寄りかかるが、剣は体重を支えきれずに倒れていく。ルシアはバランスを崩し、一緒になってその場に倒れた。
「……」
リムネッタもまた、何も言わずにルシアの隣に倒れる。その服には、少しずつ赤い血が広がっていった。
後にブルーメの奇跡と呼ばれるこの戦は、こうして幕を閉じたのだった。
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